人狼と少女 もう一つの物語
@suikazura-no1
第1話 プロローグ
ロシア軍と表だって争いたくない勢力が存在していて、個人単位で情報を得るには大きな軍を諜報して得る方が手っ取り早い。
そこに情報が入って、真祖の巫女が産んだ赤子を喉から手が出るほどに欲しい人物がいた。
誰かの陰謀だとかは全く分からない事だが、巫女の赤子が空輸される情報が入って、ロシア軍から強奪する計画が立てられていた。どのような強奪方法かは分からないが、思わぬアクシデントが起きて並行世界へと飛行船が弾かれてしまった。
○────────○ ○────────○
1904年9月24日(明治37年)中央アジア・モンゴル
阿部平蔵は日露戦争の最中の1904年9月に、全線開通したシベリア鉄道の記念旅行にと試乗に招待される事となった。阿部は満洲で事業をしておりシベリア鉄道の建設にも出資をしていたからその見返りというのだろうか、そんな安い株主招待だった。
これが安部平蔵とトミの新婚旅行だったというから更にお安い旅行となった訳である。でも妻のトミからすれば旅行に連れて行って貰う事もないから、これが二度目の旅行になるからとても楽しみにしていた。
勿論、最初の旅行とは日本から満洲へと嫁に行った時の事であって、当時としては女が軽く出て行けるような身分でもなく、家で家庭を守るという風潮が強かったため、ちょいと旅行へ……なんて事は無い。
アメリカは南北戦争以来、ヨーロッパ諸国の植民地と関係を維持して多くを学んできた。転機となるのがフランスの植民地を買って文化と産業を我が物として発展の糸口を掴んだ事で、それからは多くの戦争を経て機械産業の発展を見る。ま~血の気が多すぎたせいか、今度は大西洋を通り越してヨーロッパへと戦争を仕掛けていく。それが第一次世界大戦だった訳だが、軍需で伸びたアメリカは世界へと覇気を延ばしてゆく。
日本は日露戦争で勝利し多くの土地と東清鉄道などを譲り受けた。それからは満洲鉄道として飛躍していく。第二次世界大戦でロシアが不可侵条約を破棄して侵攻してきたのは、日露戦争の仕返しだったりするのか。ねちっこい性格だからきっとそうなんだろう。
1917年6月4日(大正6年)中央アジア・モンゴル
*)初めての家族旅行
この年の四月に米国がドイツに対して宣戦布告し第一次大戦が勃発した。と同時に日本はロシアの臨時政府を承認して段々と西洋がきな臭くなっていった。ロシア革命も起きた時代である。
南満洲鉄道株式会社の下請けで軌道の工事を請け負っている会社があった。
あれから十三年が過ぎて必死になって働いた阿部平蔵の会社は兼業が成功し大きく飛躍ができて、今では旅行も出来るような身分になっている。子宝も二人の跡継ぎが出来たと喜んでもいたし、趣味が高じて一計を案じたみたいだった。満洲で起した株式会社も部下に丸投げで充分になったらしい。
そんな生活にも余裕が出来て、モンゴル民族の研究で阿部平蔵がモンゴルの村を訪れた。妻と息子の二人も同伴していて長男の名前が幸夫といい、そして二男が寛(ひろし)という。
阿部は根っからの中央アジアの民俗学が好きであって、暇さえあれば地の利を生かして独りで旅行をしていた。1917年からシベリア鉄道の修理を請け負うからと計画の前倒しとした。
阿部平蔵がそんなにも政治が混乱しているロシアを選ぶはずは無く、今はまだロシアの影響を受けないモンゴルの村を訪ねる事とした。男の子だったら喜ぶキャンプが良かったかも知れないが、目的地はとにかく移動の為の道路がなければならないし、それに妻のトミの為にも宿泊できる大き目の都市の近く”ということも重要だ。
「お父さん、モンゴルのベース都市はウランバートルがいいんじゃないかな。そこだとお母さんは喜ぶと思うよ。」
「幸夫、そうだな。ウランバートルに決めるか。」
「うん。」
長男の幸夫としても旅行が楽しみだったから、父平蔵の計画を一緒になって考えていた。
男一人なら問題ない野宿も女房と二人の息子が居てはできなかった。必然的にモンゴルのウランバートルに向かう道路のあるロシアの都市をベースと決める。
その都市はウラウンデだった。ここはシベリア鉄道の駅もあり、南のウランバートルに向かう大きな道路がある。ウランバートルを旅行のベースに決めてここからトラックで近くの村に行く事にした。このウランバートルから東に走る道路があり、その先にはウンドゥルハーンという村が在る。
唯一地名に「ハーン」という語尾が付いている。ハーンはあのジンギス・カン別名でジンギス・ハーンともいう。君主のハーンに通じるものか? と考えたからだ。バイカル湖の都市から南下してモンゴル高原の北東部にその居住を定めた遊牧民の末裔が存在するか? のような地名だからだ。
ウランバートルから東に百二十キロ行った所にその村は在り、百二十キロ程度ならウランバートルから往復も出来ようか、ここを調査地に定めた。ほぼトラックで揺られるばかりの強行のスケジュールだからさぞかしトミには堪えたことだろう。荷台の息子二人は落ちないくんで頑張ったに違いない。
朝早くホテルを出発した四人だった。
「ねえあなた、まだ着かないの? oooが痛くて堪りません。」
「すまないね~もう直ぐだよ。」
「もう何回も『直ぐだよ』と言うのね。」
「そう言うな、何回も尋ねるから何回も言うんだろう?」
「あなたはそういう性格だったわね、荷台の幸夫と寛は大丈夫かしら?」
「では車を止めますか! 少し休もうな。」
「ならば早く止めて頂戴!」
平蔵はトラックを止めて息子に尋ねた。
「二人とも退屈してはいないかい?」
「うん僕たちは景色が面白いから退屈してないよ。」
「あんな草っ原がか?」
「うん、」x2
トミは息子の二人に頼んで毛布を拡げさせて速攻で休憩に入った。道路横の叢(くさむら)に毛布が広がるやいなや、はしたなく寝っ転んだトミであった。男たちときたら三人仲良く並んで……を済ませるから母親のトミは間もなく着くからと水筒のお茶をがぶ飲みするも、後悔先に立たずで道中で我慢した甲斐は全く無かったらしく茂みに駆け込む。
「嫌だわ~原始人が見ていたらどうしよう。」
見渡す平原に……仕方なく? であった。トラックの反対側では三人とも並んで済ませるとか、親子の仲も良かった。
ウンドゥルハーンには三時間あまりで到着した。植木は見当たらず立っている木は電信柱だらけである。平蔵が目指しているのはウンドゥルハーンの街ではなくて、更に南の平原にあるテントを探したい。
悠久の大地……モンゴル、視界を遮るものがない広大な草原にたくさんの雲が流れ、日本から飛来しているであろう鶴の群れが西へ飛んで行く。空気は何処まででも透き通り、満洲の煙たい煙から解放された感じがするトミだった。
「ちょっと車を止めるよ。」
「えぇお願いします。」
「寛、双眼鏡を戻してくれないか。」
「うん。」
「幸夫~……ちょっと手伝って~~。」
「は~い、毛布広げるよね。」
夫の阿部平蔵は双眼鏡で見える筈も無いモンゴルの村のテントを探していた。
「お父さん、どう? 村は見えるの。」
「そうだな……何にも見えないね。あの丘の先には森が在るようだからあの近くを探してみようか。」
裸眼では緑の大地と森の緑がかろうじて色の違いで判別できた。でも見えているとは言うがたどり着くにはまだ十キロは先の場所だろう。
「あそこだね! なんだか川が在るのかな、緑色が強いみたい。」
幸夫は目がいいのか見分けがつくようだった。緊張が解れた阿部夫人は茶菓子も持参していて、こっそりと一人でお茶を飲んでいる……にしても一人で嬉しそうだ。
「さ、もういいかい、出発するよ。」
「はい旦那さま、お尻柔らかにお願いね!」
「お母さんも荷台で寝てればいいよ、痛くはないから。」
「でも身体中が痛くなりそうで嫌だわ。」
「それもそうだね。」
幸夫はトラックの助手席に乗りたくて堪らなかったが……。
二十分位で村が見えてきても平蔵は村には向かわずに森の方へ進む。
「あなた、幸夫からの合図ですわよ。」
「お~~~ついに見つけたぞ!」
そこには一張りのテントがあって、更に少し先には二つ、三つとテントが見えている。平蔵はトラックを止めて荷台に上がっていく。
「何処にしようかな、住人が十人は居ないとね。」
「お父さん、あそこに女の人かな、立ってるよ。行ってみれば。」
「そうするかな、あそこで尋ねてみようか。」
疲れ切っている三人は平蔵の駄洒落にも反応していない。平蔵の逸る気持ちも理解出来ない家族ではないだろうが、三人ともが、
「お父さん……早く、」
と言って嗾けてもいた。こんな田舎の住人を驚かす訳にはいかないので、テントから二百メートルほど離れた所に車を止めて歩いていくと言う。
「やぁお嬢さん、お父さんかお爺ちゃんは居ませんか?」
「なにさ、あんた達は。お爺ちゃんなら居るよ。」
「そう、ありがとう。お爺ちゃんにお話を訊きたいのさ、頼んでくれるかな」
「うん、待ってて!」
流石は山奥の女の子だけあって口の利き方は悪いみたいでも、女の子は機嫌良くテントに入って行った。暫くして八十歳くらいだろうか老人が出てくる。
「おやおや……もしかして日本人か?」
「えぇそうです。実はモンゴルの人々の昔の暮らしの様子を訊きたいと思いまして訪ねて来たのです。」
「ホロ、家を少し片づけてくれないか。爺の荷物が出しっぱなしになっていてな、少し見苦しいんだよ。」
「うん分かった。」
「すみません、ありがとうございます。」
老人はモンゴルのどのような事を聞きたいのかと尋ねるも、老人の手元には茶色い瓶があってどうしてか右手が瓶をさすっている。この瓶は主に男にだけ効くのもだと説明を受けるも、何だろう。
「そうですね、お爺さんの小さい時のですね、人々の暮らしぶりとか、それと村の決まり? と言うのでしょうか、掟などがありましたら是非ともお聞かせください。」
「今とな~んも変っとらんな~。」
「……。」
阿部平蔵の流ちょうなロシア語がユックリと口を衝いて出る。モンゴルの言葉はそれこそモンゴル語なのだが、ロシアと国境を接しているから年長者においてはロシア語も堪能だという。
また、キリル文字を公用語としているのはモンゴル国だけではなくて、ウクライナやロシア、それに東ヨーロッパ圏でも使用されている。(大凡で十二カ国にわたって使われている。)
暫くして女の子がテントから出て来た。
「お爺ちゃん終わったよ。」
「ありがとうよ、お前たちは退屈だろうから外で遊んでなさい。」
「うん、そうするね。」
危害を加える意志が無い事を示唆するためにと筆記具以外は外に置いて行き、阿部夫妻は老人の案内でテントに入った。
「わ~初めて入りました、お邪魔させて頂きます。」
「え、え、どうぞお入りください。」
それから小一時間は話し込んだろうか二男の寛がテントに入って来て、
「お父さん、お母さん。お兄ちゃんが居なくなったよ、何処を探しても居ないんだ、どうしよう。」
「いやいや、こんな広い所でかい?」
「ねぇあなた、直ぐに探しましょうよ。」
「そうだね、」
「私たちはこれで失礼いたしますわ。」
「お爺さん今日はありがとうございました。これで御暇(おいとま)いたします。」
「ああ、気をつけて帰りなされ。」
「はい、失礼します。」
これから起きる不可思議な事象が待っているというのに、阿部夫妻は満足したようにしてテントから出て来た。
両親はテントを出て一通り辺りを見渡したが確かに幸夫の姿は無かった。
「あ……ちょっと待て寛、あの女の子に訊いてみようか。」
そればかりか女の子の姿も無かった。
「なぁ寛、テントの前にいた女の子は知らないかい。」
「それがね、最初は一緒に居たんだけれども暫くしたら二人とも居なくなったんだよ。」
「そうか……じゃあ父さんは車に行って双眼鏡を取ってくる。寛は付近を探してくれ。」
「うん分った、川の方を見て来る。」
「トミは村の方に行って探してくれないか。」
「えぇそうするわ、幸ちゃんは何処に行ったのかしらね。」
「幸夫~、」
「幸ちゃ~ん、」
「お兄ちゃ~ん、」
三人で日暮れまで探したがとうとう見つからなかった。テントの住人の両親が放牧から帰って来たので事情を話してみるとまるで意味が通じない。十三才位の女の子がテントに居たと説明したが、
「いいや家に娘は居ないよ。向こうにテントがあるだろう? あそこには居るには居たが三年前から行方不明さ。」
この家に娘は居ないという……不思議だ。
翌日になって阿部一家は幸夫を探しに再度訪れたが見つからなかった。不思議な事がもう一つあって話を聞いた老人も居ないという。昨日の様子を具(つぶさ)に話しても埒が明かなかった。
それからも機会があれば再度訪問して幸夫を探して回ってもいたが、とうとう見つける事は出来なかった。その後は妻のトミがいい顔をしないので旅行にも行かなかったという。
平蔵の父親が亡くなったのをきっかけにして、日本の札幌市へ帰国すると決めて断腸の思いで両親は幸夫を諦めた。満洲の事業はそのまま継続してもいた。
1927年8月24日(昭和2年)北欧のエストニア地方
*)阿部寛夫妻の新婚旅行と……並行世界
1917年6月4日(大正6年)のあの日から十年が過ぎた、1927年7月24日に阿部一家は北欧の旅行に来た。寛は北海道大学を卒業してそのまま北海道大学に就職し助教授になったのである。今年で二十五歳になり、ちょうど結婚したので新婚旅行も兼ねた家族旅行になった。
阿部助教授の友人で三浦助教授も同行していて、助教授なんて仕事は一文の金にもならない職業らしくて、結婚費用から生活費用までもが親に頼るしかなかった。一つの講義をして幾らかのお金を支給される程度の収入だから、サラリーマンの平均給与の十分の一位の収入だったとか。
同僚の三浦助教授も同じだろう……この三浦家も資産家なのだ。
寛の嫁は「サワ」という名前で名家の満洲生まれの生粋のお嬢様。これまた日本には行った事が無いといいい、六月に日本の札幌市に嫁いできた。寛の北海道大学の夏期休暇を利用しての新婚旅行が……なんと北欧旅行の最初の国はエストニアだった。この国は新しい……自由闊達な国を目指して邁進している。
理由は……スポンサーが行きたかったとか、理由はどうであれ新婚旅行は寛の両親と友人の三浦助教授の金魚の糞だった。
家族らは知らないが阿部平蔵に会いたい人物がいて、その人物が招待したもので闇に蔓延る人物が目的とする子どもを欲していた。この日のこの夜に並行世界と繋がると判っていたからで、でもこの謎の人物とは会えていなかった。それはこの人物でも予見出来なかった事件が起きてしまったからである。
もう一人の陰の人物がいたのだろうか。
この日に大きな事件が起きる北欧はエストニアの地。それは、
バァーン、バァーン……次々と大輪の花火が開く。
しかし平蔵は花火を見ているでもなしに心なしかソワソワとしていた。ある人物が十年前に行方不明となった幸夫を連れてくるという、なんとも信じがたい内容だ。確信も証拠もないから家族には内緒にしておいて出たとこ勝負だったらしい。
それは事実であったが思わぬ惨事が起きてしまった。
「わ~綺麗ですねお義母様、私初めて花火を見ました。」
「私たちは日本で見ているからそうでもないわ。でもホント久しぶり!」
「あの子にも見せて上げたいわ……。」
「十年前に行方不明になられたご長男の幸夫さまですね。」
サワの一言に返事を返さないトミは横に立つ平蔵が気になっていたからで、
「ねぇあなた……。」
夫の平蔵は花火の少し右を見上げていて、トミが話かけても返事が無い。
「ねぇあなた、どこを見ているのかしら?」
「空に何か見えるんだ。」
そう言って指さす方向の空には、そこにはうっすらであるが、飛行機が数機と大きな飛行船が見えていた。平蔵は花火に当たるのではないかと心配していたが、
「このままではぶつかる!」
「わ~花火が飛行船に当たってしまいますわ。」
と言い終わった直後、飛行機が飛行船の着陸予定地の村を爆撃し始めた。ここは小さな開拓村だから爆撃の意図が解らない。
飛行船に花火が当たり少しの損傷を受けた。飛行機からは多数の流れ弾が地上にも降り注ぎ、
バァーン、バァーン、花火の音と共に、ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン
空爆による地上の轟音がいきなり空からも聞こえてきた、頭上の飛行船が炎上しだした。大きく炎を吹き出す飛行船は逃げ惑う村人たちを目がけて急降下を始めている。元々が着陸前だから高い処を飛んでいた訳ではないから地上に到達するのに十秒程度だった。
地上に落ちた瞬間に飛行船の爆薬に引火して炎は広く拡散してしまう。しかし、花火の最中に飛行船が飛んできて着陸するという事が分からない。日程の打ち合わせが十分でなかっただろうか、それとも花火が上がるのを知らないとか。それでも少し前から花火は上がっていたから知りませんでしたはないだろう。
「みんな~逃げろー。」
誰かが叫び村人は我先に逃げる。空からは閃光を発した飛行船が落ちてきて巨大な飛行船だから逃げる暇も場所も無かった。轟音とともに飛行船は爆発炎上したし沢山の村人を巻き込んで再度爆発した。もう地獄絵図である。
さらに飛行機による空襲は続く。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン
ほんの数分で静まり返り飛行船は痕跡もなく消失していた。焼失ではない文字通りの消失であった。ただただ村人の呻き声が助けを叫ぶ声が響く。
阿部助教授と三浦助教授は、村祭りの屋台でお酒を飲んでいたので事故には巻き込まれなかったものの、阿部助教授は両親と新婚の奥様の三人を同時に亡くしてしまった。とても痛ましい事故だった。
しかし、この事故の痕跡が消える? という不可思議な事象が起きた。
それは、
バルト海東岸から少し奥にある小さな開拓村で、激しい空襲とその後に軍用飛行船が墜落した。この時の不思議な超常現象で、村人も含め大多数の人が亡くなった。
大型飛行船が突如として現れて収穫祭の花火の最中に村は空襲を受け、花火で被弾した飛行船が逃げる暇もなく落ちてきたという。二人は急いで両親の元に駆け付けたが阿部助教授のご両親と奥様は、一目で絶望と判断できる程の悲惨な火事に襲われて逃げられなかった。
この時に飛行船の船体から三個の気密式の脱出用の丸い艦が押し出され、内一個が二人の近くまで転がって来た。止まればすぐにハッチが解放されるようになっていたのか、中から大きな男と赤子を抱えた女の二人が出てきていたようだ。
丸い艦の中には将校らしい軍服を着た男が負傷して倒れていて横たわる姿が見えて、その奥には更に三人が見えたようだとも三浦助教授は後になって思い出す。ハッチが開いたら直ぐに大男は火炎の中に消えた。
阿部助教授はただ茫然として家族の名前を何度も叫んだそうだ。
家族の名前?
この時、赤子を抱えた女の人が阿部助教授に走ってきて赤子を預けた。それは家族の名前を聞いたからである。その頃には大男は三人もの人を抱え込んで戻っていた。
三浦助教授は男の風貌に驚き大きな関心をよせていた。背後が大きな炎ではよく見えないが、男は身長が二メートル位で大きな耳と尾がありオオカミの様な顔つきであった。両腕には人を抱きかかえていて一人は髪が長いので女性のようだった。
女は母親であって阿部助教授にどうかこの子を守ってくださいと女児を託した。守ると言う言葉には深い意味が含まれているとは、こんな非常時には考える事も出来ない。
次に母親がとった行動は三浦助教授へと駆け寄る。
母親は三浦助教授に何かを話しながら青色の宝飾の銀のロザリオを渡していた。三浦助教授に話しかけたのはそれなりの理由があってロザリオは今でも三浦助教授が持っている。
女は普通の農婦と変わりがなくて、女児は数日前に産まれたようで皮膚はとてもガサガサとしていた。
不思議なことはまだまだあった。
何も無い空からの空襲と一緒に現れた飛行船もそうだが、ものの数分で燃え盛る飛行船も男女らも消えてしまった。ただただ大きな火災があった”という現場を残して。
託された子供の名前は「キリ」と言い日本の漢字では「霧」と書く。三浦助教授は村人の生存者救出に全力を傾けていても村人に何かを尋ねていたようだった。
肝心の阿部助教授は赤子を託されて唯々オロオロとするばかりであった。この事からも不器用な性格だと判断される。
草地が黒焦げになっていて、その後も草は生えずに跡地は消えることもなかった。
飛行機が何度も地上を空爆した事が謎であるが、もしかしたら地上に居る人物と飛行船に乗る人物らを抹消したかったのかも知れない。勿論、飛行船が墜落したのは偶然だったとしてもだ、最重要人物を地上に降ろしたくなかったものか。
事実、飛行船に乗る人物が全員死亡していたらこの物語はなかった事になる。
○────────○ ○────────○
プロットは存在していますが詳しく書き込みましたものはありません、更新は不定期になります。どきつい表現は極力排していきますが、300章くらいからはキツくなる予定でおります。1章の基本は五千文字程度からですが、多くは一万文字を目安に書き込みする予定でおります。
私としましては感想や意見は嫌っております。ですがカクヨムには受け付けない方法は無いみたいですね、皆様からの感想はご遠慮して頂けましたら幸いに存じます。鬼籍に入るまで……600章くらいは進めたいと意気込んではおります。また、返事を返す事は無いと思いますのでよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます