1-27.裁きの権限



 ユーサが教会に連行された、次の日の朝。


 都市を襲った悪魔の襲来しゅうらいが終わり。

 中央都市の教会であるエル教会ザキヤミ都市本部の公共広場に、多くの市民が駆け付けた。


 その場所で、昨日の事件で取り逃がした悪魔、魔人の異端審問いたんしんもんが行われていた。


 「ヤメロ! ヤメテクレ!!!」


 異端審問いたんしんもん

 それは、正義という名の大義名分により悪魔を。悪魔に支配された者を裁く。

 神の前で行う聖なる儀式。

 ……と市民の間では信じられている。


 「くたばれ! 悪魔めぇぇーーー!!!!」

 「悪魔のせいで、うちの主人は亡くなったのよぉおおーー!! 処刑よ! 処刑!!!」

 「息子の無念を!! かたきを!! 殺せぇええーーー!!!」


 正義の使者が悪党を裁く。

 市民のやりどころのない怒り、鬱憤うっぷんを晴らす見世物ショー・タイム

 

 市民の抱え込んだストレスをスカッと晴らす機会とも云われる。

 人々の娯楽ごらくとしてユーサの住む世界では当たり前のように行われる。

 所謂いわゆる公開処刑こうかいしょけい


 「被告人に問う。貴殿は、悪魔に支配されているか?」

 「オ、、オレハ、悪魔ニ、支配サレテナンカ、イナイ!!!!」

 「そうか、わかった」

 「ナ、、何ヲスル!! アアアァァアーーーー!!!!!!!」


 両腕を後ろで固定されたままひざまつき、身体を拘束された男性。

 その男性の首が、大きな戦斧バトル・アックスにより切り落とされた。

 

 「悪魔は、皆、そう言うのだ」


 首を切られた男性が、数秒後、灰と化した。

 彼は、人間ではなかった。

 悪魔の中には、言語を話す冠位悪魔アーク・デーモン以外に、悪魔と契約をしたも元々は人間の為、言語を話す事ができる。


 「良いぞーー!! 教会バンザーーーイ!!!」

 「ほら見ろ! あの男は悪魔、いや魔人だったんだ!!」

 「処刑しろ!! 街に潜伏せんぷくする悪魔を!! 魔人を!! 殺せ!!」

 

 ユーサの処刑が始まるまで、教会の一方的な処刑が繰り返された。


 「いや、理不尽過ぎるでしょう」


 ユーサは、その理不尽な光景を目の前にして、自分の順番を待っていた。


 「ク・エルが僕に聞いた、悪魔に支配されているか? ……の問いの意味は、こういう事だったのか。……もしかしたらあの時、返答次第では首をはねられていたかもしれないのか……。いや、今まさに首をはねられそうな状況なんだけど、んんんん……どうすれば」


 他人事ひとごとではなく昨日の事を思い出しながら、現状の打開策を考えるユーサ。

 

 「僕が、人間の姿をした特殊な悪魔。という情報は……やはりシ・エルのせいか……。でも、この事件の首謀者にされているのは濡れ衣だ。神様、助けてください」 


 何もない、処刑場の無機質な控室の中、ユーサは呟いた。

 しかし、ユーサが望むような神のお告げも、救いの啓示もなかった。

 

 「神様……で思い出したけど。そういえば……【召命】の説明の時に、神様の……」

 「次の審判は、ユーサ・フォレスト。貴様だ!! この首輪をつけて、前に出ろ!!」

 「え? なんで僕だけ首輪を?」

 

 気が付けば、自分の順番が回ってきたことに驚くユーサ。

 乱暴な信徒により、鈴が付いた謎の首輪を強引に装着させられ、背中を蹴られて前に出た。


 公衆広場の真ん中に、断頭台だんとうだい

 そして、両腕を後ろに回されて手錠のような拘束具こうそくぐで動けない状態にされたまま。

 ユーサは、断頭台に頭を入れられた。


 「貴様が、ユーサ・フォレストか。此度の事件の首謀者で、長年人間を騙し続けた悪魔というのは」

 

 断頭台の前に、偉そうに頬杖をつきながら玉座に座る天使が一人。

 ユーサに問いかけた。

 日本の裁判所で言えば、裁判長のポジションに座る天使。


 「我は、サラキ・エル。このザキヤミで最も一番偉い、エル・天使長アーク・エンジェルをしている」


 サラキ・エル。

 目元が隠れている仮面をしているが、長い黒髪が似合う東洋の美人。

 という言葉が似合う、人間離れした女性の天使。


 一番偉い天使。

 という姿とは到底思えないほど態度の悪い天使が、ユーサを睨み話を続けた。


 「これより、本日の一番の問題。ユーサ・フォレストの異端審問を始める」 


 タンッ!!


 裁判長が叩く、木槌のようなものを机に叩きサラキ・エルが続けた。


 「先ずは、ユーサ・フォレストの情報を……」

 「ハッ!!」


 サラキ・エルの横で、信徒が一人、ユーサのプロフィールを読み上げた。


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 氏名:ユーサ・フォレスト。


 性別:女性のような見た目をしているが男性。


 年齢:二十六歳。


 家族:リー病院で働く薬師である二十四歳の妻、四歳の娘が一人。


 職業:運搬と護衛のギルド【オトムティース】のエース。A級の召喚秘術士。


 秘術:召喚術。メインは武器。サブに罠術が使える程度。召喚獣は呼び出せない。


 経歴:

 十四歳までの経歴は一切不明。

 十五歳で……記憶喪失のままギルド【オトムティース】の長、トム氏の養子になる。

 十六歳で……急激に性格が変化した模様。経理等を担当していたが、運搬と護衛のF級召喚秘術士として登録される。

 十七歳で……運搬と護衛の仕事成功率は高く、市民からの評判が良い事も評価され、FからD級に飛び級昇格を果たした。

 この頃に、現在の妻と正式な交際をスタートしたそうです。 

 十八歳で……運搬と護衛だけではなく、数々の難関クエストと悪魔退治をこなし、C級へと昇格。

 十九歳で……上級悪魔を退治し、教会への貢献も務め、天使長にも認められ、B級へと昇格。


 そして、二十歳で、冠位悪魔を退治し、ギルド内で最速のA級到達者となる。

 この時に、通り名が『安楽死を運ぶ者』として名を馳せ、ザキヤミで五本の指に入る有名な秘術士となり、現在の妻と結婚し、一人娘を授かる。


 それから、ザキヤミ内の輸入と輸出で多くの貢献を果たし、市民からも厚い信頼を得ている。


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 「そして現在、市民の評判と期待とは裏腹に、だった。という疑いがかけられています」

 「ほう。その年齢でここまで登り詰めるとは、素晴らしい功績だ。しかし……成功者の闇が見えたという訳か」


  ユーサの経歴が、年齢順に包み隠さず、広場にいた市民に公開された。


 「スピード出世したのも、裏で悪魔と取り引きしていた結果ではないのか!?」

 「ずっと前から潜伏して私達を騙していたのね!?」

 「悪魔の力を使い、敵を倒していたからこそ強かったんじゃないか!!?」

 

 ユーサに対する罵倒ばとうが飛び始める。

 市民の多くが、物を投げたり、罵声ばせいをユーサに投げつける。


 「では、本題に入る」


 サラキ・エルが、何か嬉しそうにユーサの反応を見ていた。


 「ユーサ・フォレスト、貴様にかけられた容疑は二つ。

  一つ目は、貴様が悪魔であり。人々を長年騙し続けていた事。

  二つ目は、今回の事件の首謀者である事。

  についてだ」

 「……。」

 「先ずは、一つ目の方からだが、貴様は悪魔に支配されているか?」

 「……。」


 ユーサは、この質問の答え方を考えていた。

 正解が、わからない質問。

 言葉を間違えれば即死。

 わかっているのは「悪魔に支配されていない」と、答えると問答無用で首を切られる事だけ。


 「因みに、黙秘権は無い。むしろ、答えられない、というのは認めているようなものだが。良いのか?」


 無言で、答えない。という選択肢も無くなり、考えるユーサ。


 「僕は、……」


 ー チリーン! ー


 ビリビリビリビリッ!!!


 「__!!!? あ、が、が、が、が、が、が、ががが!!」

 

 ユーサに付けられた鈴の首輪が鳴り、ユーサの体中に電気が走った。


 「『はい』か『いいえ』で答えろ。それ以外の回答は一切受け付けない」

 「__い゛、、、、、、、、い゛い゛え゛!!」


 首輪の箇所から強烈な電気が流れる。

 ユーサは、声を出すたびに喉の奥が痛くなり、声が出しにくくなる事に気づいた。


 そして、いいえ。と回答した事で、ユーサに走っていた首輪の電気が止まった。


 はい。

 いいえ。


 ……のどちらかの言葉しか喋られない状況。

 強制的に、弁面の言葉を述べる事も難しい状況にさらされている事にユーサは気づく。


 「ほう。では質問を変えよう」


 何が楽しいのか、サラキ・エルは楽しそうに続けた。


 「貴様は悪魔であり。人間を長年騙し続けていた事は本当か?」

 「……。」

 「返事は?」


 ユーサは、質問の回答に困っていた。

 半分は正解で、半分が不正解。


 自分が魔人とは違う、人間の姿をした特殊な悪魔であるという事を、ユーサが知ったのは最近の事であり。

 別に人間を騙していたわけではなかったからである。


 「……い、いいえ」


 答えなければ、電気が発生し、あらぬ疑いをかけられる予感がしたユーサは。

 後者の意味で回答をした。


 「ん? 本当か? 質問の仕方が間違っていたな。貴様は悪魔ではないのか?」

 「……。」

 「返事は?」

 「……はい。……あ゛!!? あ、ががががーー!!」

 「……ん? どういう事だ?」


 恐る恐る、声をだそうとするユーサ。

 今回は電気が強めに流れていなかったが、数秒開けて電気が走り出した。


 「……まぁ、良い。貴様が人間ではなく、悪魔だという事はよく分かった。即刻、処刑しろ。悪魔の証明終了Q.E.Dだ。」

 「ハッ!!」


 サラキ・エルの言葉に、大きな戦斧をもった信徒がユーサの首を切り落そうと、振り下ろした。


 ブンッ!!!


 「あ゛、がが、え゛!? ちょ。 ま゛、、待って゛、、!!」


 ユーサの意見を聞こうとせず、処刑が始まった。


 「待ってください!!!」


 戦斧バトル・アックスの刃がユーサの肌に触れる前に止まった。

 ユーサにとって聞き覚えのある女性の声がユーサの頭上から聞こえた。

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