1-20. 【狂気的な凶器の扉《ルナティック・ゲート》】


 「灰の色が【】……普通のとは違う……コイツが標的の黒冠位悪魔ブラック・アーク・デーモンなのか? そしてコレが【死の灰】? ……吸収できるかな?」


 悪魔を倒した後、灰になるが文字通りの灰色ではなく『黒い灰』が、氷山の周りに現れた。


 ユーサは、倒した敵の『黒い灰』と、自分の指に嵌めている黒曜石を見比べて、腕を前に伸ばした。


 シュー……。


 黒曜石の周りに風が渦を巻きながら、現れた。


 先程まで激しい戦闘が行われた場所。

 召喚された下級悪魔達の灰が、砂塵さじんのように暗闇の魔力と化し、大気に広がっていた。


 そして、散りばめられた砂塵さじんのような灰が、掃除機で吸い取られていくように、ユーサの黒曜石に集まろうとしている。

 しかし、目の前にある『黒い灰』は吸収することが


 「神様が言ってた通り……やっぱり、駄目か」


 ー 天使が持っている、【秘宝石】ではないと、【死の灰】は吸収する事はできない。 ー


 自分を生き返らせた神様。ジャンヌの言葉コーリングを思い出すユーサ。


 「やっぱり、天使の【秘宝石】ではないと……あっ」


 ー いち。天使長を仲間にする。

   。天使長から借りる。

   さん。天使長を殺してでも奪い取る。 ー


 ジャンヌの言葉が脳内で流れ、まるで神のお告げを聞いたかのようにひらめいたユーサ。


 「……。確か……シ・エルがマリアに黒曜石を渡した……とか言っていたな。ペンダントは何処だ?」


 愛娘マリアの誕生日に渡した自作のペンダント。

 悪魔に壊された。

 ……と、娘に聞かされていたユーサは、辺りを見回すが、目的の物は見つからなかった。


 「あ、ダウジングを使うか」


 < パチ! パチ! パチ! パチン!! >


 ユーサは右指を全て鳴らし、L字型のダウジングロッドを右手の平に召喚した。


 「 ー マリアのペンダントと、それについていた黒曜石は何処どこにある? ー 」


 右手に持ったダウジングロッドに話しかけるユーサ。

 ダウジングロッドは、まるで生きているかのように反応をしめす。

 

 「時間内に見つけないと……。と思ったけど直ぐ見つかったな」


 ダウジングロッドが、壊されたペンダントと黒曜石のある箇所ポイントを示した。


 「あった……っと。しかし、酷く壊されたな……」


 回収したペンダントを見てポケットに入れながら、今は灰と化した悪魔の方をユーサはにらんだ。


 「この黒曜石で……【死の灰】が回収できれば、今後は困る事が無くなるけど……果たして……」


 ユーサは、マリアがシ・エルからもらった黒曜石を『黒い灰』に向けた。


 しかし……。何も反応はなく、『黒い灰』はピクリとも動かない。


 「遠いのかな? もっと近くで……」


 『黒い灰』に触れられるほどの距離まで近づいたユーサ。


 「アラアラ。天使じゃない者が【秘宝石】を持っても効果はありません事よ」

 「__っ!? 誰だ?」


 上空から、女性の声が降りてきた。

 ユーサだけではなく、その場にいた全員が声のする方向を向く。


 「アラアラ。こんばんは。ユーサ・フォレスト。見事な戦い振りでしたわよ。あるじ様から【ブラック】称号をいただいたにも関わらず、やはり無能な雑魚ざこでは話になりませんでしたわね」


 先程戦った悪魔よりも数倍強力な魔力の気配。

 自分に話しかける上空にいる女性に、ユーサは警戒し戦闘体制に入る。


 「何故、僕の名前を?」

 「アラアラ。【安楽死を運ぶ者ユーサ・ネイジャー】として、悪魔界でもあなたの名前は有名ですわよ? 天敵である天使以外で名前が載っている者は少ないですし。わかりやすいですわ」


 悪魔界。

 悪魔の世界でも、自分の名前。

 ギルドでの通り名。

 【安楽死を運ぶ者ユーサ・ネイジャー】が轟いている事に驚くユーサ。


 「とてもを運んでいるような戦いではない、物騒ぶっそうな戦い方でしたけど……ウフフ」

 「……自己紹介したつもりもないけど?」

 「アラアラ。わかりますわよ? 貴方の見た目で」

 「__!?」

 「自己紹介……は、こちらがまだでしたわね。ワタクシは、サキュ・B・アーク。以後お見知りおきを」


 ユーサに話しかける女性。

 上空に浮かぶ、自分の手の平で握りつぶせそうな大きさの小さな小悪魔。

 そばかすと、長い黒髪をおさげにした童顔。

 その幼さに反して、男性の鼻の下が伸びそうななまめかしい性的な服装。

 性的な魅力に溢れる成人女性のような小悪魔が、ユーサに話しかける。


 「B・アーク……? まさか……」

 「アラアラ。もしかしてワタクシのあるじ様をご存知? あなたが倒したそこの雑魚悪魔の主。最悪魔邪神王様の……側近そっきん? いえ、正妻せいさい? と言えば良いかしら? ウフフ……、どうされましたか、その顔は? 興味ありますこと?」

 「大有おおありだよ。僕の家族を、仲間を、住んでいる都市の方達を傷つけたんだ」

 「確かに、そうですわね。ウフフ……。アラアラ。噂に聞く怖い顔ですわね。ユーサ・フォレスト」


 何が楽しいのか、ウフフ……。と言いながら妖艶ようえんな表情で、サキュは話を続ける。


 「まぁ、そこでち果ててる悪魔みたいに、他の悪魔達も結局他の都市で天使長達に殺されてお終いでしたわ」

 「全国でも同じように人を襲ったのか? 何故だ?」

 「目的がありますの。二つほど」

 「二つ?」


 サキュは二本の指を立て、ユーサに説明する。


 「一つは、悪魔達のテスト。各都市で暴れ回っているのは、六百六十六体中の新しい五百番台の子達なの」

 「新しい? 五百番台?」

 「そうですわ。天使長達との戦争いざこざでね、主様の部下が半分ぐらい減っちゃったの。まぁ、天使達も結構減ったみたいだけど」

 「そんな戦いが……あったのか」


 ユーサは、教会の天使達が影で悪魔達と人知れず戦っていた事を、初めて耳にした。


 「だから新しい子達をそろえて、テストしてみたのよ」

 「テスト? 何のために?」

 「ウフフ……決まってるじゃない」


 サキュは、イヤラしい目つきでユーサを見下しながら話を続けた。


 「戦宣布告ラブレターよ。天使達がいくら頑張って悪魔を減らしても、こちらにはいくらでも替えを増やせる手段がある事。そして、結界石で守られていても、あなた達が守っている人間達を、、って事をね。ウフフ……」

 「させやしないさ。天使だけが、悪魔を倒せるわけじゃない」


 ユーサは、怒りとは違う感情を込めてサキュににらみを効かせた。


 「アラアラ。ご立派。流石は要注意人物の一人ですわ」

 「(要注意人物?)それはどうも……。もう一つの目的は?」

 「探し物……いえ、探している人物がいますの」

 「探している……人?」


 ユーサは、その時、嫌な予感がしたのか冷や汗を流した。

 自分を生き返らせたジャンヌからの言葉。【召命。いち】を思い出し、声が小さくなった。


 「そう……創造神;アーク・A・ディアの生まれ変わりが、現在、中央都市の何処かにいる。という情報があったからですわ。何かご存知?」

 「__っ!!?」

 「全国共通紙幣の名前になっている『エイ』。これは、慈愛じあいの神として無宗教の人間でも神の恩恵を受けられる、という意味も込めてつけられたそうですけど……。有名な神様ですわよね?」


 サキュは、何かを知っている素振りでユーサに質問した。

 何も、知らないふりを続けようと平常心を保とうとしていたユーサだが。


 「創造神……?」

 「アラアラ。ご存知ですの? ユーサ・フォレストの?」

 「__!?」


 先ほどの死闘で。

 冠位悪魔アーク・デーモンから、創造神の生まれ変わり。

 ……と聞いていたディアが呟いた。

 すかさず、ディアの方を向くサキュに、心をさぶられるユーサ。


 その時。


 「サキュ……様……。創造神の生まれ変わりの居場所が……わかりました」


 『黒い灰』が再生を始め、上半身のみが再生した冠位悪魔アーク・デーモン


 そして、その場にいる全員が上空を見ていた事により。

 冠位悪魔アーク・デーモンが、ユーサから離れている事に、誰も気づかなかった。


 「アラアラ。あなた、やっと再生しましたの? 力を分けてもらっておいて遅すぎましてよ?」

 「申し訳……ございません」 


 再生された上半身で頭を下げる冠位悪魔アーク・デーモン


 「で? 居場所、とは? 何処にいるのかしら?」

 「__!? マズいッ!!」


 サキュの問いに、冠位悪魔アーク・デーモンが口を開こうとした瞬間。

 ユーサは、再び冠位悪魔アーク・デーモンに接近した。

 

 ……しかし。


 「アラアラ。話してる最中ですわよ。お静かになさい」

 「__!!」


 ピカーン!!!!


 サキュの指先から強烈な魔力の圧縮した光線が、ユーサの足元に放たれた。

 ユーサは、間一髪。触れるか触れないかギリギリのところで止まった。


 「……見えなかった」


 ユーサが小さく呟いた。

 直感で止まり。止まらなければ、先ほどの魔力の光線で大怪我をしていたであろう自分を想像した。


 「さぁ、目標の創造神の生まれ変わりは、何処にいるのかしら?」

 「そ、、それは、、」


 ユーサが冷や汗を流す。

 しかし、冠位悪魔アーク・デーモンから出された答えは。


 「サキュ様。ご報告をする前に、一度だけチャンスをいただけますでしょうか?」

 「チャンス? アラアラ何を言っているのかしらこの雑魚悪魔は? ワタクシに交渉する立場にあるとでも? 死にたいの?」

 「いえ。我が口を出そうとすると、あのユーサという男が邪魔をします」


 完全に体が再生を終わり、元の姿に戻った冠位悪魔アーク・デーモン

 サキュにひざまづき、頭を下げながらユーサを睨んでいた。

 

 「詳しくご報告をする為に……一度、あの男を処分させてください」

 「アラアラ。先ほど無傷でやられたあなたが、どうやって処分するのかしら?」

 「サキュ様のお力を、何卒なにとぞ、我にお与えください」


 冠位悪魔アーク・デーモンが、サキュに跪くではなく。

 土下座をしてお願いをする。


 その行動とは裏腹に、冠位悪魔アーク・デーモンは、こう考えてた。


 __ふざけるな! 創造神の生まれ変わりをきさきにして、新の魔王になるのは、我だ!!! 今は少しでも力を……そうすれば……。


 そんな悪巧みを考えていた冠位悪魔アーク・デーモンの心情を理解したのか、していないのか。

 冠位悪魔アーク・デーモンの言葉で、閃いた仕草をするサキュ。


 「アラアラ。何だか楽しい事になりそうですわね。わかりました。許しましょう」


 サキュはそう言いながら、冠位悪魔アーク・デーモンに手を伸ばした。


 「《  ー 〇 呪文(スペル) ●魔法(マジック) ー 》」


 サキュが呪文を唱え、闇が現れる。


 「《  ー ◎ 悪魔の理性解除マーダー・ライセンス ー  》

 

 闇が霧のように変化した。

 そして、霧に包まれながら、冠位悪魔アーク・デーモンが姿を変えた。


 「GGGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーー!!!!!! ユーサ・フォレストーーー!!!!!」


 闇の衣をまとい、禍々まがまがしさが増した悪魔が、獰猛どうもうな獣の如く突進するように。

 ユーサに襲いかかった。


 「!? ユーサのアニキ! 先ほどの……倍以上の魔力を感じます……!」

 「アユラ。……なるほど。分かった。ありがとう教えてくれて。でも大丈夫。こんなの」


 魔力感知能力のあるアユラの言葉に反応しながら。

 まるで悪魔の突進を両腕で受け止めるかのように、両腕を広げてユーサは答えた。


 「僕にとっては、安い問題だ」

 「ナナアアアアアアーーーーーめええええるなあああーーーーー!!!!! ユーサ・フォレストおおおおおおお〜ーーー!!!!」

 「連れて行ってあげるよ」


 パチ! パチ! パチ! パチン!!

 パチ! パチ! パチ! パチン!!


 「 ー この僕以外には誰にもできない所へ。 ー 」


 ユーサが、左手と右手を同時に鳴らしながら呪文を唱えた。


 「 ≪ 【神秘術ディー・アーク】 ≫ 」

 

 ユーサの指先から黒色のオーラが両手に現れ、両手にある二つのオーラを、一つにした。


 「 ≪ 【狂気的な凶器の扉ルナティック・ゲート】 ≫ 」


 そして、ユーサの両手のオーラから、【黒い月の扉】が現れた。


 「GGGAAAAAAAーーー!!!!!! AAAッ!?」


 突進した冠位悪魔アーク・デーモンが、【黒い月の扉】を突き破り中に入っていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 そこには、数多あまたの黒曜石の武器が入った空間だった。

 そして、その空間では。

 武器達がまるで意識を持った動物のように動き回り続けて、冠位悪魔アーク・デーモンに襲いかかった。


 グサッ! ズシャ! ブシャ! グシャ! 


 「AAA!!? アアア!! AAAアアアーーー!!! GAAAAAーーー!!!」


 数として、数十、数百、数千。


 見た事もない珍しい武器が、一つずつ冠位悪魔アーク・デーモンの体を貫き、血が出た瞬間に消えていく。


 「GAA!? 何故だ!? 何故、我は! 死なぬ!!?」


 凶器が体をつらぬく。

 出血する。

 本来なら、数本で絶命してもおかしくない攻撃。

 何故か生きている事に疑問を抱く悪魔。


 「AGAA!! もう…AAA!! 止め……! GAAA!!?!?」


 何を言っても、黒曜石の武器は止まる事はなかった。

 普通の人間であれば正気を保てない、廃人と化すであろう空間。

 ただ、ひたすら死ぬ事ができず。

 数多の凶器で地獄の拷問ごうもんを受けている状況。

 冠位悪魔アーク・デーモンは、この空間に狂気ルナティックを感じた。


 「…………………………。」


 悪魔が声を失うほどの、恐ろしく長い拷問。

 冠位悪魔アーク・デーモンは、悲鳴を出す事すらできなくなっていた……。


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

 

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