郵便ポスト
@n-nodoka
第1話
郵便ポストの横が、待ち合わせ場所の定番だ。
別に好きで郵便ポストを選んでいる訳では無くて、山間で囲まれたお店も少ない田舎での待ち合わせ場所なんて、そんな物ぐらいしかない。
要は、目印になってくれればいいんだよ。
都会でも、忠犬ハチ公前とかに人だかりができるくらいだから、やってることは都会人も田舎人も変わらんって。
ただそれって、郵便ポストとしては、どうなのかね。
本来の目的以外で使われるって事がさ。
しかも、本来の目的よりも、待ち合わせ場所としての使用頻度の方が高いって。
ちょっと悲しいよね。
なんて同情しつつも、私自身、手紙なんて数年書いてなかったけど。
それこそ、小学校の頃にお遊びで地元の友達に送ったりしただけ。切手代がもったいないって怒られてから、やらなくなったけど。
そりゃそうだよね、二軒隣の友達に送ってたからね。今の私でも、同じように怒るよ。駄目だぞ、八年前の私。
というか、今となってはスマートフォンやらパソコンやらのおかげで、こんなド田舎でも、メールというツールが普及している。
確かに月々定額ではかかるけど、メールとかやりたい放題。なんだったら、電話だってかけ放題の時代だ。
対して、手紙だと一通出すにも結構かかる。レターセットとかも欲しいから、より出費がかさむんだよね。
まあ、決して郵便代金やレターセットが高いとは思わないけどさ。結局、メールのコスパには勝てないよ。
だから一層、手紙とは書かなくなるわけだよ。私だけじゃなくて、皆もさ。
でも、だからこそ不思議に思う。
何で手紙って無くならないのかね?
なぜポストが、私の横に鎮座するこの赤いポストが、現役バリバリで働いているんかね?
好きだから?
何がって、手紙が。ポストじゃなくて。
ほら、手書きの方が、温かみがあるとか。
メールだと書体とかも綺麗で読みやすいけど、冷たい感じがするって話、聞いた事ある。
もしくは、そもそもメールを使わない人とか。
でもそれ、単なるジェネレーションギャップってやつでさ。
やっぱり、若い子たちは当たり前にメールの方を使うと思うんだよね。
御多分に洩れず、私も断然メールは派だ。決まってるでしょ、天下の現役女子高生だぞ。
今時の、ナウなヤングなんだよ。
ナウなヤングってなんなんだよ。よくわからんけど、母さんが言っていたから引用。
とにかく、私はポストの横に立っていながらも、ポストは使わない。
でも、後ろ手に隠すように持っているものは、紛れもない手紙。
可愛いクマのシールを付けた、桃色の封筒。
昨日、認めたわけです。
さっき話した通り、実に八年ぶり。
買いに行ったんだよ、レターセット。わざわざ文房具屋にさ。
じゃあ、なぜ私はポストを使わないのか?
嫌いだからとか、そんなことはないよ。だとしたら、目印としても使わないし。
理由はちゃんとある。
しかも、二つもある。
一つは、私が書いた手紙には、切手が貼られていないから。
違うって、忘れたとかじゃぁないんだよ。だったら今すぐ家に帰って張り直せって話しじゃん。
で、二つ目の理由。
直接渡したいから。
これ大事。
私が先生だったら、テストに出してるよ絶対に。
だから、ごめんね、ポスト。
八年ぶりに手紙を書いたのに、使ってあげられなくてさ。
単なる目印扱いしてごめん。今度は、ちゃんと使うから。
横並びのポストに手を置く動作と同時に、視線の端に一つの人影が映った。
畦道をゆっくりと歩いてくる、見慣れた青年。
捉えた姿に、私は一息吐いてから、一歩、前へ出る。
シュミレーションはバッチリだ。
私の気持ち、受け取りやがれ。
違う、地が出た。さすがにそれはマズイ。
いや、長い付き合いだから私の地なんて全部知られているだろうけど、そう、雰囲気が大事。
昨晩、なんども復唱した言葉を、小声で練習してみる。大丈夫、ちゃんと言える。
でもやばい、身体が熱い。特に頬が。
それでも、横のポストよりは赤くなっていないからいいだろう。
なんと励ましにも使えるのか、とポストの新たな用途を土壇場で編み出した時。
私の目の前に彼が来て、立ち止まる。
ポストを挟んだ位置。手を伸ばせば、届く距離。
練習通り、彼が何かを言う前に、両手を添えて差し出す。
小さな手紙に、一生懸命込めたから。
「——私の気持ち、受け取ってください」
郵便ポスト @n-nodoka
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