異世界魔王探し〜魔王に両親を殺された魔女っ子、メンヘラ化する〜この子をメンヘラ魔女っ子にした魔王よ!絶対探し出してやるからな!

クロネコ太郎

第一章 旅立ち

第1話

 意識を取り戻してからというもの、目の前の景色が闇一色に彩られている。

 俺は今、いったいどういう状況なのか。

 

 とりあえず手を動かしてみようと試みるとジャラジャラとした何かに触れた。

 これ、土を触って感じと似ている。

意識してみると土臭い感じもするし、もしかして今埋まってる?

 

 右手を力一杯に持ち上げると、土の崩れた感触が手にあたる。


 あ、これ埋まってんな?俺が意識失った後、何があった?まさか、顧問の奴が生き埋めにしたのか?


 まあ、とりあえず死んで無いんだな。

 それなら良いか。


 こういう時は、知恵が大切だ。

 

 しばらく頭をドリルのように左右へ回転させる。そうしてサル知恵を使い頭だけを外に出すことができた。


 まさに尻隠して頭隠さず……で、ここは何処なんだ?


 外の様子は異様だった。霧立っていて、奥には薄気味悪い形の木が立ち並んでいる。空は藍色をしていてかなり不気味だ。いかにもお化けが出そうって感じの場所。

 

 顔を出した目の前に墓標みたいなものがあった。アーチ上で、日本語で何か文字が書いてある。

 =ミリオン

 =の前は汚れていてよく見えない。

 右隣に、もう一つ墓標あった。

 目の前にあるのと横並びに建てられて居るらしい。

 

 顧問が作ったとは考え辛いが、奴以外に心当たりはない。多分あいつなりの罪滅ぼしなんだろう。

 

 良かったな。俺はまだ死んでない。これで、俺に呪い殺される心配はなくなったじゃないか。逆に死んでなかったことで後悔するかもしれないけどな。

 俺の心は復讐心で煮えたぎっていた。どんな仕返しをしてやろうか思いを巡らせる。

 

 そんなことを考えながらぼうっと周りを眺めていると何処からとも無く、ホゥという鳴き声がした。

 

フクロウか?

 

 どこなんだよここは……。確かマ⚪︎オでこんな感じのステージあったような。


 とにかく今はこの状況から抜け出さなければ何も始まらない。土の中から出よう。


 体を必死に土から出そうと足掻く。しかし、うんともすんとも体を動かすことはできなかった。


 や、やばい!動けない!このまま抜けられないんじゃ土に返っちゃうじゃ無いか!

明日には学校や部活もあるから帰らないといけないのに……。

 

 ガサガサ


「うわっ!」


 隣にある墓標の方から、音が聞こえて来た。地面の土もボコっと盛り上がった様な気がする。

 

 や、やばい……一旦冷静になれ……。俺のほかにも埋められている人がいるのかもしれないだろ?

 

 きっとそうだ。同じように、土から抜けられずもがいているに違いない。

 

 などと思っていたら土からズボッと手だけ這い出て来た。


 ギョ!て声が出そうになったが、必死に口を注ぐんだ。


 謎の人物の手は鼠色で、傷まみれ。爪はべらぼうに伸び、簡単に人の喉を掻っ切れそうだった。


 俺の知る限り、こんな貧血極まったような血色をしている人間を見たことがない。


 もし化け物だったら……

 とりあえず念のために息を止める。そうすれば化け物の類に気配を悟られないと聞いた事があるからだ。


 謎の人物は左手を出すとみるみるうちに体全体が土から這い出た。

 

 俺は彼の全体像を見た瞬間、体中の毛が逆立つ。


 肌は鼠色、手足はボロボロ、靴も履いていない。何より顔がおかしかった。右目は爛れ、左目が無い。口は開きっぱなしで、白い煙の様なものが吐き出されていた。


「ゾンビ……?」


 その姿はまさに頭に思い描く通りのゾンビそのものだった。


☆☆☆☆☆

 

 俺は寺川海斗水泳部高校2年。友達が少ないことは自覚しているが、浅く深くという関係を重視し交遊関係を築いているので当然だろう。

 まあ、本当を言えばただ友達を作るのを怠って自ら招いた自業自得なんだけど。


 現在俺は水泳部所属だが水泳部の同級生は0人。

 たまたま、俺の年代は水泳部が少なかったのに加え訳あって俺以外居なくなった。


 その訳あってというのがちょっと、いやかなり複雑な事情がある。

 

 水泳部に入ろうと思ったきっかけはありきたりで、友達を作れたら良いな、くらいの軽い感覚だ。しかし今になって思えば、あの時の俺はすべてが甘かった。もっとちゃんと環境は選ぶべきだったんだ。


 体験入部の時は先輩方や先生達ともに優しかった。手とり足取り普段の練習について教えて貰い、とても親切だったと記憶している。練習はきつそうだなとは思ったが、耐えられないほどじゃないと思った。ここで一つ青春の汗を流すのも悪くないとらしくないことを考えていたものだ。


 実を言うと部活という牢獄に落とし込むための演技で練習量についても全くの虚偽であったのだが、純粋で人を疑うことを知らなかった俺は流されるようにそのまま入部することになった。

 

 入部届を出すや否や彼らの態度は豹変した。

これはやばいと後悔しても既に手遅れで、一度入ったら逃がさないという強い意志により見事、俺はとらわれの身となる。同時期に2人ほどの同級生が入部したのだがそれっきり体験入部員すら途絶えた。どうやらすでに水泳部の悪評は新入生たちに広まっていたようだ。

 インツタなどをやらない俺含め情弱新入部員3人にそれは行き届かなかったみたいだが。そこで初めてSNSに疎い自分を恨んだ。


 ただでさえ本校は強豪部活が多い中、水泳部はぶっちぎりで辛い地雷部活ナンバーワンというめでたい称号すらあるらしい。


 それでも、俺たち情弱3人組は最初の方こそ頑張ろうという気概があった。

 

 その後数か月間、俺たちはお互い傷をなめ合いながら何とか部活を続けていた。入った当初のような気概はすでに萎れていたがそれでも続けていた。


 しかしついに同級生の内一人智也が根を上げた。突然学校に来なくなったのだ。原因はなんとなくわかっている。

 智也は先輩や顧問達の標的にされたのだ。彼は変に生真面目なところがありストレスのはけ口としてのサンドバッグにされやすかったんだろう。

 

 顧問には少しのミスで怒鳴られ、理不尽に叱責される。

 先輩にはミスを押し付けられ、従わなければ暴力。

 彼だけミスの責任を取らされ、練習メニューを追加。

 寒くなろうがメニューを達成するまで、続けさせる。

 

 凍えながら青い顔で泳ぐ彼を見るのが苦痛だった。

 部活を止めれば良いじゃないかというがそんな簡単な話ではない。うちの部活は退部届けを出しても、強制キャンセルされる。聞いていて意味が分からなかったと思う。俺も分からない。とりあえず教育委員会に訴えれば一発で勝訴できるぐらいクレイジーな部活だということは分かる。


 それからすぐに最後の同級生、祐樹も不登校になった。

 同級生が居なくなると明らかに俺に対する風当たりは強くなる。

 流石に耐えかねた俺もさきぬけ組を真似て着々と不登校になるための準備を整えていたのだが、突然人生でこれ以上ないぐらいの悲しい知らせを聞くことになった。


 智也が自殺したと朝の会にて淡々と告げられる。

 原因は部活以外に考えられない。それほどまでに智也の心は追い詰められたのだろう。

 学校に来る前の彼の様子ははっきり言って異常だった。誰が見ても彼の辛さが分かるぐらい顔色も悪かった。心にトラウマを植え付けられたのかもしれない。


 俺は自分を責めた。なんでもっと彼のことを気遣ってあげられなかったのか。確かに俺だって余裕は無かった。でも、今にも死にそうな友人のことを励まし、寄り添うことぐらいはできたんじゃないだろうか。


 自分が犯した罪の意識へ押しつぶされそうになり、俺はやり場のない理不尽さに襲われた。

 そして閃く。このまま学校へ行き辛い部活を続けていけば罪の意識も薄れるのではないかと。

 

 水泳部を続けることになった俺は、当たり前のように標的にされた。智也と同じ思いをして初めて彼の苦しみが分かる。

 体は弱り、親からは止められ、友人からは心配された。逃げてしまえば良いと何度も思った。

 

 それでも、俺は部活に行き続けた。

 心が折れそうになれば逃げた方が後悔すると言い聞かせる。

 それは、もはや催眠や洗脳に近い自己暗示だった。

 

 

 ――その日はいつもと少し違った。


 先輩たちの機嫌がかなり悪い。どうやら誤った大会の日程を顧問へ伝えてしまったらしい。

 やはり、先輩らは俺に罪をかぶせてきた。罪を被せられることはこれまで何度もあったが、責任の重さで言えば一番重い。当然、責任が重ければ重いほど罰も厳しくなる。


 先輩が顧問に告げ口をした後、顧問は疑う様子もなく俺を晒上げた。そして罰を言い渡す。

 10キロメートル連続、自由形を泳げと。


――季節は12月既に午後5時、水温は十度を下回っている。外にいる時ですら、少し風が吹けば身震いするぐらいだ。

 この寒さで達成するのは河童でもなければ不可能なメニュー。誇張なしで実質死刑宣告に他ならなかった。

 

 俺は一人、野外で泳ぐ。


 既に先輩達は陸トレをするためプール棟にはいなかった。この場所にいるのは顧問と俺の2人だけ。


 普通、普段は意地の悪い人間でも、一対一になれば優しくなるものだが、うちの顧問は一味も二味も違う。なんとさらに苛烈さを増す。常に怒号を飛ばし続けられるので、少しもさぼることが許されないのだ。


 さすがの河童であってもこの話を聞けばドン引きしてしまうだろう。

 

 泳ぎ始めて1時間が経過したが、まだメニューの4分の1にすら到達して居無い。

 限界だった。寒さというものは想像以上に恐ろしい。体中の機能を麻痺させ、体力を奪い取る。もはや意識すら保てそうにない。

 

 それから10分くらいだろうか?何とか保っていたはずの意識は朦朧としついに俺は水底へと沈み込んだ。

 

 「なに沈んでんだ!?燃え尽きたフリして同情買おうとしてんじゃねえぞ!」


 顧問が声を張り上るが、俺には届かない。ただ聞こえるのは水音のみ。

 とうとう意識も沈み込み、まどろむ夢か意識の狭間で俺は思った。

 

(智也、ごめん――)



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