よろしく

 数日後、ある程度落ち着いてきた頃の昼休み。どういう風の吹き回しか、小潟さんは俺に話しかけていた。


「声掛け損なってたけど中学校ぶりだよね、今年もよろしく!」

「あ、ああ。うん」


 ぶりって言ったって、卒業して一ヶ月経たずに再会したけどな……?

 でも俺とまともに話したの、数年ぶりくらいなんだよな……。会わないうちに雰囲気も変わってるせいで、話すの緊張するぞ。


「ほとんど知り合いいないから、そ……瀬戸内くんいてよかったよ〜」


 せ、瀬戸内くん……。昔の話に縋るのも情けないけど、前は蒼真くんだったんだよなあ、これでも。


「俺も小潟さんが同じ高校になるとは思ってなかったっていうか……」

「普通そうだと思うよ? 実質三分の一くらいの義務教育は受けてないから」


 言われてみればそうなのか。小六から中学卒業まで、丸ごと授業受けてないってことになる。

 正直俺はめちゃめちゃ勉強してここに来てるってのに、このヒトは独学か何かで同じことしてたんだろうか。

 

「あ、そーだ。前みたいにさ、名前で呼んでいいかな?」

「え、うん。ダメとかないけど」


 いきなり話変わったな、呼び名が昔のようになるのはありがたいんだけど。


「よおし、じゃあソーマくん! 連絡先ちょうだい!」

「お、おお……」


 連絡先って言う女子、初めて見たかもしれん。珍しい現代人もいたものだな。

 言われるがままにスマホを取り出してを交換すると、ありがと〜、なんて言いながら満足げだ。

 ……この際だし、俺の気になることも聞いてみよう。


「そういやさ、学校来てなかった時間ってどうしてたの?」

「知らないっけ? 寝てたよ」


 ん?


「ね、寝てただあっ!?」


 あまりに衝撃的な反応に、思わず大絶叫してしまった。席まで勢いよく立って、突然の俺の挙動に辺りが静まり返る。

 いらない注目を集めちまった。しかも小潟さんまでびっくりした顔に……いや、これはこれで新鮮だからギリギリプラマイゼロだ。

 ごめん、と呟いてから座って、詳しく聞こうと食い下がった。

 今の話を信じるなら、マジでどうやってこの高校受かったんだ……?


「で、寝てたってマジで?」

「うん。一年前くらいまで、昏睡ってやつだったらしいよ」


 はぁ……と言葉にもならない反応で返してしまった。そもそも、なんでそんな状態になってたんだよ。


「じゃあ──」

「乃愛ちゃーん!! 一緒にお昼食べよ!」

「あ、はーい! それじゃソーマくん、またね」


 追加で話を聞こうと口を開いたとき、悲しいことに仲良くなったらしいクラスメイトに誘われて行ってしまった。

 ……俺はまだ一人で昼飯だからな。別に友達ができないわけではないぞ、うん。確かに俺の友達はみんな別のクラスだが、それは会いに行けるし?

 小潟さんに話しかけてもらったのも俺が一人でいたからだろうし、そう考えたら別に悪いことでもない。

 誰とも話してないからこそ、できることってのもあるからな!!


「さっきの人と何話してたのー? 寝てたがどうとか……もしかして、授業中の話?」

「ううん、中学の時の話」

「へえ! 仲良かったんだそこ!」

「あたしも乃愛ちゃんの中学校の話気になるぅ〜」

「あ、ええ……そんなに面白くないよ?」

「いいからいいから! 教えてよ〜」


 周りに催促されて、ちょっと困った様子の小潟さん。

 参加してないところの会話聞くとか実際良くないとは思うけど、あーー耳が勝手にーーー。

 俺だって知りたかったので会話を窺っていると、小潟さんが悩んだ末の答えは、俺も知っているものだった。


「うーんと……中学の時はまともに授業受けてなかったから、あんまり話題がないというか……」

「えっ! そうだったんだぁ」

「寝てるって話そういうことか! サボり癖みたいなのあったとか意外だわ〜」


 他の女子の反応はそれなりだけど、地味に誤解されてないか?

 小潟さんはそれでいいのか……何考えてるのか、本気で分からん。俺だったら早めに弁明するだろうにな、それも全力ガチで。

 その後の話は話題が切り替わったから聞いてないけど、入学して数日、早くも中学時代の話が聞けて重畳か。

 これ以上ぼーっとしてても仕方がないし、俺も弁当を広げるとしよう。

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