第28話 英雄御一行様

 ひとまず闘いは終わり、俺たちは話し合いの場を設けた。

 立ち話もなんだと思ったんだが、残念ながらここには椅子も何もない。

 仕方がないので道ぞいの岩場で岩を椅子代わりにしている。


 ところで、さっきから英雄さんは俺じっと睨んでいるんだが。

 負けたのが余程悔しかったのかな。

 いや、わざと負けたと思うのだが、うーん、わからん。

 ま、いいか。


 「ファルク様、改めてこちらの人員をご紹介します。」

 「はい、お願いします、ぜひ。」

 「まず、このお方はタカヒロ様、現在は私達ミーア山賊団の一員です。」

 「改めて、よろしくお願いします、英雄さん。」

 「……はい、よろしくお願いします。」


 睨みつけたまま、何と言うか凄くヨロシクって感じで言ってる。

 昭和のヤンキーかよ。

 うーん、やっぱり、好感度はゼロ以下のようだな、うん。


 「こちらの神狼はリサ様と申します。」

 「や、やはり神狼様でしたか、初めて拝見しました。よろしくお願いします。」

 「ワフ!」

 「そしてこちらの方はカスミ様です。」

 「カスミよ、よろしくね。」

 「よろしくお願いします。」

 「ピー!」

 「あ、こちらはピコ様、えーと、タカヒロ様の、仲間?です。」

 「は、はあ、よ、よろしくお願いします。」

 「ピッ!」

 「そして、ご存じでしょうが私はサクラ、元ラディアンス王国の第一王女です。」


 こちらの紹介は終わり、英雄側の紹介となる。


 「僕は“救国の英雄”と呼ばれています、冒険者のファルクです。」


 冒険者なのか。

 英雄っていうのは別に職業ではないのか。

 まあ、相変わらず俺にガン垂れてるのはちょっと困るんだけどな。

 なるべく目は合わせないようにしとこ……


 「こちらはクフィル、こちらの軍師です。」

 「始めまして、クフィルです。よろしくー。」


 クフィルさんとやらはこれまたイケメンですねぇ。

 軍師といえど、結構強そうだな。


 「こちらはフラン、身が軽く僕と共に戦いでは先鋒を務めています。」

 「……よろしくお願いします……」


 おお、クールビューティーなおねいさんだ。

 しかも、めっちゃ俺を睨んでいる。

 ファルク以上に。

 ファルクが負けたのがとっっっっても悔しかったんだろうな、きっと。

 良いんだけど、ちょっと怖いです。


 「そして、こちらはラファール、魔法使いです。」

 「ラファールです、よろしくね。」


 ずいぶん可愛い娘だな。

 この子は睨んでないな。よかったよかった。

 というか、魔法使い!

 サクラが言っていた数少ない魔法使いの一人。

 さすがは英雄一行といったところだな。


 「紹介が済んだところで、今後の事を話し合いましょう。」

 「はい。」


 話し合いはわりとスムーズに進んだ。

 始めに、英雄一行が今回の依頼の詳細を話し、こちらの目的と状況を説明した。

 国王からの依頼内容と現実との祖語は、英雄さんも眉唾で聞いていただけにすぐに理解してくれた。

 そのうえで、今後の方針の擦り合わせだ。


 「僕は、このまま姫様とともに行動したいと思います。」

 「ですが、それではあなたの英雄としての立場が……」

 「いえ、それはもういいんです。僕はさっきタカヒロ様に言われて、そんな称号に拘る意味がなくなりました。」

 「いや、それはちょっと困るんだ。」

 「タカヒロ様なぜですか!?僕が同行すると困るのですか!?」

 「その通りだ。君ら英雄一行が王国へ帰らない、となるとミーア山賊団への締め付けというか国を挙げての討伐の口実を再び作ってしまう可能性があるんだよ。」

 「!!」

 「だから、君たちがミーア山賊団ではなく、俺個人と闘って負けた、あるいは引き分けでも良いんだが、帰還しなければいけない状況になったという筋書きが必要になるんだよ。」

 「そ、そこまで考えて……」

 「その後に、サクラ達と合流するなりすれば良いんじゃないかな。」

 「そ、そうですね、それが最善のように思います。そういえば……」


 ファルクは何かを思い出したようだ。


 「タカヒロ様が言っていた、策を弄して挟撃というのはどういう事なのですか?」

 「ああ、それか。実はな…」


 ファルク達に別動隊の懸念があることを伝えた。

 当然だが、確認できない以上それは可能性だけの話なんだが。

 しかし、状況を理解したファルクはその可能性は高いと見たようだ。

 何故なら


 「僕たちが王国へ行った時、城下町には王国民とは別の、ただならぬ気配を持つ者達が集まっていました。」


 恐らく、それは金で雇われる傭兵や暗殺者なのではないだろうか。

 先日の襲撃者は、そいつらの一部だった可能性は高い。


 「ならば、なおさら僕たちが姫と共に」

 「いいえ、こちらは大丈夫です。ですので、ファルク様はそちらのすべき事に注力なさってください。」

 「は、はい。」

 「ところで、なんだが……」

 「どうしました、タカヒロ様?」

 「なんでラファールさんは俺に密着して手を握ってんの?」


 言われてサクラ達がようやく気付いたみたいだ。

 ファルクも驚いて


 「ラファールやめなさい!それは僕が、じゃなくてタカヒロ様が迷惑してますよ!」


 ん?今なんか?


 「タカヒロ様、これはいったい?」


 いや、俺が聞きたいんだが。


 「えー、だってボク、タカヒロ様と一緒に居たいんだもん。」


 ラファールちゃんはボクっ子だったのか。

 それを見ているフランさんが、今度は俺じゃなくてラファールちゃんを睨んでるよ。

 しかも俺を睨んでいるのとは微妙に違うニュアンスで。


 も、もーいいかな。

 一応話はまとまった事だし。

 なんか微妙に変な空気になったし!


 「じゃ、じゃあ、サクラ、早く拠点へ戻ろう。あっちが心配だ。」

 「そ、そうですね。では、ファルク様、話を聞いていただいてありがとうございました。私たちは急ぎ戻ります。」

 「はい、姫様、後日必ずお伺いいたします!」


 こうして俺たちは一つの危機を無事脱した。


 残る危機は拠点への襲撃だが、そちらはまず大丈夫と見ていいだろう。

 何故なら、相手は英雄への対処としてそちらに主力を割くと考えたはずだ。

 となると、拠点へ向ける戦力は必要最小限にするはずだ。

 根拠は王国が未だ戦力確保に躍起になっている、という点だ。

 豊富に使い捨てるほどの人材というか余裕は、今はないはずだしな。



 その帰りの道中、野営していた時の事である。


 「あんたさ、なんでそんなに自然に女の子を口説いちゃってる訳?」


 カスミが変な事を言い出した。


 「そうです、タカヒロ様。傍に寄り添って手を握るなんて、相手に失礼ですよ!」


 サクラ、ちょっと待ってほしい。

 隣にきて密着し、手を握ってきたのはラファールちゃんだぞ。

 なぜ逆転してんだよ。


 「まて、俺は口説いた覚えはないし、手を握ってきたのはあっちだぞ。」

 「どーだかね。色目使ったんじゃないの?」

 「使うかよ。というか、そんな事考えられる状況じゃなかっただろうよ。」

 「いえ、もしかしたら、タカヒロ様は何か無意識に見つめたりしたんじゃ……」

 「いや、ないから……」


 何となくリサもちょっと機嫌を損ねていらっしゃるようだ。

 ピコだけが何故か(私は見てたからね、信じるよ)と言ってくれているようで、ちょっと助かる。

 その夜、サクラは昨夜以上に俺に密着して寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る