第5話 激戦の予感

西暦2035(令和17)年9月17日 大華国西部 黄丘ホーチウ上空


 広大な砂漠の上空を、20機以上の航空機が飛ぶ。その中心にいるのは2機の巨大な双発機。その光景は壮観そのものだった。


 その大半を占めるのは、20機の大型戦闘機。F-15EJ〈ストライクイーグル〉はアメリカ空軍の傑作と名高いF-15〈イーグル〉をベースにした戦闘爆撃機で、アメリカ本国のみならずイスラエルや韓国といった、過去の戦争で航空戦力が大きな活躍を見せた国々で採用されている。その中でも航空自衛隊が採用したものは、三菱重工業がライセンス生産したもので、『第三次世界大戦』で損耗した分を補充するために生産しただけでなく、〈F-2〉戦闘機のアビオニクスを組み込む事で、日本製のミサイルを使用したり、新たに対艦攻撃任務にも対応できる様になっていた。


「日本本土からはるばるここまで飛んでくる事となったが、果たして本当に飛行場があるのか?」


 その中の1機のコックピットで、パイロットの一人が呟く。それに対して傍を飛ぶE-787〈JWACSジェイワックス-2〉早期警戒管制機から通信が入る。


『そう訝しむな。相手は一刻も早く支援を欲しているんだ、ちゃんと整備しているに決まっている。施設科も手伝ったそうだから、ちゃんと期待しよう』


 今回の統合戦術打撃任務群ITSF『ボーダー』は、関東地方の防空を担当する航空自衛隊第3飛行隊を中心に、2個飛行隊を派遣して大華西部に派遣する事としていた。その中でも第3飛行隊は、F-15EJ〈ストライクイーグル〉戦闘爆撃機を主力とする部隊で、作戦支援機としてB-787〈ドリームライナー〉旅客機をベースとした〈E-787〉早期警戒管制機、KC-46A〈ペガサス〉空中給油機を1機ずつ引き連れてきている。


 福岡を発って、在日米軍の支援を受けながら空中給油で向かうこと半日。大華国西部の広大な砂漠地帯に辿り着いていた。とその時、僚機が声を上げた。


「おい、真下を見ろ!立派な飛行場だ!」


 眼下に目を向ければ、確かに立派な滑走路があった。これ程の規模、施設科だけで出来るものではない。イルスハイドはかなり本気で仕上げた様だ。


「ともかく、これで地上に降りる事が出来るな」


「そうだな。だがベルディア軍は連日最前線に空襲を仕掛けてくるという。警戒は怠るなよ」


「分かっている。空の監視は任せてくれ」


 〈JWACS-2〉から通信が入り、まず最初の1機が滑走路へ降りていく。そして地上では数機の人型ロボットが見上げていた。彼らは補充要員として配備された試作型『コンバット・ワーカー』で、着陸を終えた機を簡単に整備してから乗り込む予定である。


「しかし、この滑走路全てが魔法で一夜にして完成したなんて、未だに信じられないな」


 『コンバット・ワーカー』の1機はそう呟き、仲間も頷く。そして着陸した機体の整備のために向かうその様子を、一人の青年が見つめていた。


 この日、ITSF『ボーダー』所属の第3飛行隊は


・・・


 飛行場のほど近い建物にて、宇治本はイルスハイド軍の上層部と面会していた。


「初めまして、ウジモト将軍。イルスハイド王国臨時政府の直属部隊、『マジシャンナイツ』代表のシンエイ・アヴァルです」


「ITBF『ボーダー』指揮官の宇治本です。ルーメル将軍よりお話は伺っております。先ずは状況を」


「はい。先ずベルディア軍はこの地域だけでも4万の兵力を展開しており、戦線の突破を目論んでおります」


 『黄丘ホーチウ砂漠』と称されるこの地域は、他の地域に比して高低差が少なく、さらに東側にはイルスハイド王国の資本と魔法を用いてオアシスを開発した事でいくつもの都市が築かれている。これらを大華侵略の橋頭堡として利用したいベルディア皇国は、圧倒的な兵力で突破を目論んでいた。


「となると、この地域の兵力を吹き飛ばしただけでも敵に十分な被害を与える事が出来ますね…貴方がたが大急ぎで滑走路を仕上げてくれたのも納得だ」


「ええ…特に黄丘東部の都市群は、イルスハイドを含むエレジア西部の国々より亡命してきた政府や国民がいます。大華は我らに対して協力的ですが、かつてはあくどい手段で優位に立とうとしていた国です。国家として正しい付き合い方をするための代償がこれです」


 シンエイの言葉は若干辛辣だ。だが芯は通っている。宇治本を地図を見下ろしつつ呟く。


「…先ずは威力偵察ですな。敵がいかなる手で攻撃してくるのか把握した上で戦いましょう」

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