Ⅹ 風説、人情パン、保健室の密話
第220話 風説、人情パン、保健室の密話 ①
チャイムが鳴り、茅切の授業が終わった。
販売部や食堂へ向かう生徒たちが次々と教室を出ていくなか、亮は中間テストの出題範囲をまとめた補足教材を配信し、電子テキストに記載のないプリントファイルをダウンロードさせていた。
操作を終えると、机上のパソコンをスリープモードに切り替える。
「茅切が出題担当のときって、テキストに載ってない問題が多いんだよな。マジで難しい。前回だって死ぬほど勉強したのに、合格点しか取れなかったし」
「うちのクラスでもトップの佐田や長森でさえ、80点いかないもんな」
待機画面が切り替わるのを待ちながら、亮は近くで談笑する三人の男子の会話に耳を傾けていた。
ベリーショートのくせ毛で、逆三角形の顔立ち、
五センチほどの茶髪に赤を混ぜ、軽くワックスで整えた
そして、七センチの髪を右に流した細身の
話の中心は拓磨と敦人。叶夢は時おり合いの手を入れた。
「確かに難しいよな。……それにしても、弾間のやつ、何考えてんだ?茅切とあんな約束交わすなんて、無謀すぎるだろ」
「そもそもアイツ、成績が百位以内に入ったことなんて一度もないじゃん」
敦人が鼻で笑い、拓磨が相づちを打つ。
「ハハ、どうせ授業サボる口実だろ」
亮は無表情のまま、静かに思う。
――違う。あいつは高校レベルの勉強に興味がないだけだ。本気を出していないだけなんだ。
叶夢が続けた。
「それに、いきなり優月さまを芝居の台本練習の相手にするって、ちょっと出すぎだよな」
「
「もしかして、妹の葉月さまにフラれた腹いせに、今度は姉の方を狙ってるんじゃね?」
「ははっ、あの優月さまがそんなピエロに相手するわけないだろ」
拓磨が笑う。
叶夢はふと思い出したように言った。
「でもさ、一年のとき茅切が出した中間テスト、満点取った生徒が一人いたって話、覚えてる?もしかして、弾間じゃないのかって、噂を聞くことがあった?」
「いやいや、それはないだろ。アイツ、アニメと特撮にどっぷりなオタクだぞ」
亮は目を伏せ、静かに心の中で呟く。
――違う。それは噂じゃない。あの時、昼飯を賭けて勝負した。俺は86点、あいつは満点だった。茅切があの約束を提案したのは、隆嗣の本気を引き出したいからだ。奇妙な激励の手策を打ったか……。でも、もし学校の皆は、隆嗣が葉月さんの手作りブレスレットを貰ったことを知ったなら、どんな顔を見せるだろ。
――それにしても、どうしてあいつは優月さんにあんな言葉を投げつけて、学校を出て行った?もし、あいつが手に入れた情報が多いなら、不審な転校生が三人も入り込んでいることに気づいているはずだ。
元々、彼女のことを見守っている立場なのに、今になって態度を急に変えた。
……まるで皇月の監査代行として、上から何か指示を受けたみたいじゃないか。
思索を続けながらも、亮は三人の会話を聞き逃さなかった。
「大学レベルの専門知識を高校生に押しつけるとか、意味わかんねえ。頑張っても点取れないなら、他の科目に時間回した方がマシだな」
拓磨がぼやく。
敦人が肩をすくめて言った。
「わざと難しくしてんだろ。簡単に点取らせないようにレベル上げるって、何回も言ってたじゃん」
「それそれ。一流大学に通用する力をつけるためとか、人より多い知識を知るなら、人生には損がないとか……聞き飽きたよなぁ」
「教師のプライドってやつだろ。今どき、知識なんて検索すればすぐ出てくるのに。
一流大学に行くために猛勉強よりも、異能持ちの方がよっぽど強い時代だろ。力があれば勝ち組になれるんだからさ」
敦人が冗談めかして言う。
「そういや、吉田って源使いなんだろ?その力でいろんな仕事できるじゃん」
月読高校の1組には、クラス40人中5人ほどの源使いがいる。政府が公認した異能者で、約500人が1人がいる、いまや社会の一部を担う存在だ。
「お前の姉さんも源使いだったな?」
「いいよなぁ、バフ付き人生って。俺もいきなり異能が覚醒しねえかな。政府に優遇されて、宝くじ当たるみたいなもんだろ」
からかわれた叶夢は、苦笑しながら答える。
「でもな、異能があると不便なことも多いよ。公式コンクール大会やスポーツ競技には出られないし、普通の人みたいに才能を披露する機会も減る。それに、俺たち源使いは公共施設を利用する時、制御ユニットを装着しなきゃ入れない。まるで危険動物扱いだよ。正直、一般人より掛けられたストレスが多い」
敦人は腕を組んでうなずく。
「異能者の悩みか。確かに、稀な異能を記録された瞬間から世間の監視対象だもんな。プライバシーなんてあってないようなもんだ」
「それに、“力を持った責任を果たせ”って、錬術士の資格を持つ親父に毎回言われる。うるさいよな」
叶夢の愚痴に、敦人が笑う。
「でもさ、強い力を持ってる人間には、それなりの使命があるだろ。矢守とか松下みたいに、人を救えるってすごいことだ。持ってる人間になれるし、俺もあんなふうに強い力持つ人間になりたい」
「いやいや、危険な事件が起きたら、有能な連中に任せときゃいいだろ。俺は気楽に生きたい」
拓磨も頷いた。
「だよな。力なんて持ってない俺らは、責任も矢守たちみたいな連中に任せりゃいい。俺はまずテストで赤点回避、それで十分」
朝の全校集会で教頭が、先日の事件対応に関わった生徒たちへ感謝を述べたせいか、今朝から月読高校のあちこちで、あの話題が持ちきりになっていた。
読月学校を現れた鬼人退治の件、そして昨日の鬼獣化虫事件。
どちらも、矢守亮の名前が関係者の噂が囁かれている。
――本来なら、目立つつもりなんてなかった。
静かに事件を追うだけのつもりだったのに。
今更思うと、ジャスティスキーパーのメンバーを入った時点で、こんなことが起こるのは必然なことか。いつか、ニュースに報道されるかな?そうなれると困るな……
亮は息を吐き、視線を落とした。
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