第43話 弓術の特訓 ②
「うむ、君は昨晩、車の中で教えたことを覚えているか?」
亮はすぐに答えた。
「
「そうだ。君はゲームで多少、弓を使ったことがあるらしいな。独学で学ぶと悪い癖が付きやすい。それを直し、そして上達するためのコツを教えよう」
「よろしくお願いします」
「ではまず、一度、君の打ち方を見せてみなさい」
「はい」
亮は弓を取り、まず一本の矢をつがえる。弦を引き、50メートル先の的をしっかりと狙い定める。
だが、矢は的に当たるよりも前に、地面に落ちた。
亮はもう一度、矢をつがえる。今度は肩に強く力を込めた。勢いよく矢は放たれ、今度は的を外れ、その先まで飛んでいく。採点用の映像には、ハズレの文字が映った。
「止め」
ピコルスの指示を聞き、亮は手を止める。
「力みすぎだ。弓はただ手の上にかけるだけ、余計な力を抜きなさい」
「矢は斜めにならないよう、まっすぐに的を指しなさい」
「矢は放物線を描くように飛ぶ。それを考えて、弓を腕の一部だというつもりで高さを調整しなさい」
ピコルスが見本を見せるように弓を張る。引き手には無駄な力がなく、体には揺れもない。弦を引き、放つ。ドン、と的を刺し抜く音がした。
採点映像が光る。矢は的の中央、10点の小さな円に当たっていた。
ピコルスは二射目もまったく同じ動きで矢を放ち、今度も10点を射た。
「次は君の番だ」
亮は教えられたとおりに力や高さを調整する。矢をつがえ、放つと、7点のリングを右端に当たった。
「当たった!」と、亮は声を上げる。
「あんまり力も入れてないのに」
「うむ。屋外ならばさらに、天気や風向きも考慮せねばならん。風のない瞬間を狙うか、風向きに応じて逆方向に調整するように」
そう言いながら、ピコルスはまた矢を放つ。
――また真ん中……。この人、本当にただの執事なのか……?
「手を止めるな、打ち続けろ!」
「はい!」
四射目は7点のリングの下に当たった。
はじめの10本が射終わる。8点、7点ゾーンを射るのは難しくなくなってきたが、さらに点の高いイエローゾーンには、まだ1本しか当たっていない。
ピコルスは休む間も与えず、新たに10本の矢を矢筒に装填した。
「矢を外側につがえてみろ」
「え、でも、洋弓ですよね?」
「否、私が君に教えるのは戦闘だ。戦場ではルールを守った者ではなく、より早く射た者が生き抜く。いいか、君に必要なのは、連射、そして早打ちの技術だ」
「分かりました」
矢をかける位置を調整して、亮の2ラウンド目は、レッドゾーン7本、イエローゾーン3本という結果になった。
「うむ、続けなさい。今晩は10本全てがイエローゾーンとなるまでだ」
愛想のない口調で言い放つピコルスに、亮はたじろいだ。
「し、師匠、今日始めたばかりですよ?」
「なら止めるか?動かない的でさえ命中させられない者が、戦場で機敏に動く敵を相手に戦えるとでも思うか?」
超人的な動きをする
「確かに……」
「立派な弓使いなら誰でも、狙った場所を外すことはない。彼らに打ち落とせないものはない」
「そんなの……神業じゃないですか」
「君はそれを目指すべきだろう?」
「…分かりました、やってみます」
亮は深く長く息を吸い込む。腹をくくり、弓を上げた。一本、また一本と、高速で矢を射続ける。亮が目標を成し遂げたのは、日付が変わった後だった。
それから亮は二日連続で特訓を受けた。放課後はまず陸上部の活動中に走れるだけ走る。筋力強化のため、トレーニング室ではレーニングベンチで体幹、筋力を鍛え、ラバーダンベルで筋肉を強固に作りあげていく。
部活の後はピコルスの特訓が続く。格闘技の習得、そして実戦に乗っ取った勝負で一本を取るまでが基礎訓練。その後に弓術の訓練が始まる。距離と位置の高低差を掴めば、矢は必ず10点の円に当たる。亮はピコルスの指導の下、毎日1000本以上の矢を射た。的確かつ集中的な指導の賜物か、亮はすぐにコツを掴み、連射、速射の技術も身につけていく。二日間の訓練が終わる頃には、次の一矢を打つまでのインターバルを5秒まで縮めることができた。
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