第33話 素直の男 ②
――長年あの屋敷から出ていなかったはずなのに、一体どこで習得したんだ?
「なんて上手さだ……」と、試合を見ている亮の口から、思わず言葉が漏れた。
「これはもう反則じゃね」
隆嗣の言葉に、「ん?」と亮が応える。
「だって、音楽にも愛されて、頭も良くて、スポーツまで上手いなんて。弱点が一つもない完璧なアイドルみたいじゃん」
――たしかに、正真正銘のお姫様だな。
と、亮は心の裏側で呟く。
「でもさ……彼女の隣に立てるのって、どんな男なんだろう」
「は?」
急に話題が俗っぽくなり、亮がつまらなさそうに隆嗣を睨んだ。
「だって、あんなテラ才女と付き合うって、相当なプレッシャーだろ?相応の自信と実力があるか、相当な覚悟を決められる奴でないと無理だろ」
「神宮寺葉月も条件は変わらなくね?」
「え~でも葉月ちゃんはギャップあるじゃん。そりゃ素敵な才女だけど、可愛らしい小動物みたいな親近感もあるし。性格は俺と真逆だけど、それって、お互いに補い合えるってことだし」
恥ずかしげもなく自信満々に言う
「お前……本気でそう思ってんのか?」
「あったりめぇよ!」
「んじゃあ、姉の方はどう違うんだよ」
「何かさ、神宮寺さんは葉月ちゃんと違って、妙にオーラが強いっていうか、空気が重くて、ホッとできない気がするんだよな」
「そうか?」と亮は肩をそびやかした。
確かに昨晩、深刻な話をした時には、同年代の女子という感じではない、大人の雰囲気があったが、一方でそれ以外の時には、ふわふわとした柔らかい雰囲気もあった。連れ出してほしいと頼む大胆で素直なところも、亮にとっては魅力的だった。
「神宮寺さん、お前とは妙に仲よさげじゃん?授業中もなんかコソコソ話してるし」
隆嗣に言い当てられ、亮は心を決めた。
「うん、そうだな」
「……もしかして、知り合いなの?」
「ああ……。昨日の放課後、再会したんだ。だけどまさか、俺たちのクラスに転入するとは思わなかった」
隆嗣は直感が鋭い。ある程度は知らせておかなければ、いつか見抜かれて、かえって話がこじれるかもしれない。ややこしい関係については軽く誤魔化せばいい。1の嘘を隠すには、99の真実が必要だ。
「ほ~、「再会」な?」
隆嗣は目を細め、「ふう~ん」と、透視でもするように亮を見つめた。
そして、亮の首にいつもあるはずのものがないことに気付き、ハッと顔を上げた。
「まさかとは思うけど、神宮寺優月が、あの首飾りの「優月ちゃん」だったとか言わないよな?」
亮は顔の筋肉を硬直させる。緊張したように、口の端がピクピクと動いた。
「あっ、ああ。そうなんだ。彼女が、俺が小さい頃、一緒に遊んだって言ってた、あの優月ちゃんだった」
「マッジか?!」
隆嗣は勝手に二人の関係を想像し、納得したように、うんうんと頷いている。
「そうかそうか、彼女があの優月ちゃんだったとはな……。それは、最高の再会だったなぁ亮……」
一体どんな妄想が広がっているのか、隆嗣はニヤニヤしながら亮の胸元を肘でつつきだした。
「それで?いつ告るんだよ」
「はぁ??しねぇよ」
「何でだよ」
「そりゃ、たしかに昔は何度も一緒に遊んだけど……再会したばっかりだし、幼馴染みっていうほどの関係でもねぇよ」
隆嗣に言いながら、亮は冷静になり、本当にそうだと思った。別に家がすぐそばだったわけでもない。もしも月の心を預かっていなければ、たまたま地元が同じで、遊び場に集まっていた友だちの一人というだけの関係だ。
「でも、再会ってデカくね?これまでは思い出の中の「
ヒュ~と囃し立てる隆嗣から目を背け、亮は照れくさそうに「馬鹿馬鹿しい」と言い捨てた。
実際はただの再会などではなくとんでもないことが起きていたのだが、隆嗣が他愛もない恋バナに変えてくれたことで、亮は助けられた思いだった。
試合は続き、優月がまたジャンプシュートを試みる。今度はボールがリングに跳ね返り、得点にはならない。リバウンドしたボールは3組に取られ、そのままスリーポイントシュートが決まった。
36対31と、二人が話している間に、点差はかなり縮んでいた。
「何が起こった?!」
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