第28話 瓜二つの転校生 ①

 翌朝、新都の都心部に建つ高層ビルの壁に、いつものようにニュースが映し出されていた。映像の現場では規制のための黄色いテープが張られ、警察官たちによって封鎖されている。


――昨晩、根岸森林公園に小隕石が落下し、火事が起きました。


 ライトはそんなニュースが流れているのもつゆ知らず、通学路を爆走していた。いつもの余裕はなく、分かりやすいくらいの焦りを顔に滲ませ、息を切らしている。


「やべぇ……寝坊した!!」


 昨晩、ピコルスにマシンで送迎された後、シャワーを浴びて歯を磨き、ベッドに横になったのはもう3時過ぎだった。次に目を覚ますと時計の針は8時を差しており、その時点で陸上部の朝練は終了していた。月高に入学してから無遅刻無欠席を貫いてきた亮は、ショックを受ける暇もなく、すぐさま準備をして家を出た。


 校舎が近付くにつれ、亮はさらにスピードを上げた。校門のゲートが閉まり始めている。完全に閉じてしまえばアウトだ。


 亮は校門の左側にある門柱を見定めると、ゲートへ一直線に向かう壁に意識を集中させると、その壁に足を付け、壁を走り出した。そのまま加速し、間一髪、ゲートに挟まる寸前で滑り込み、何とか遅刻を免れる。


 一時間目の授業開始のゴングが響いた時には、亮は2年1組の自分の席に辿り着いていた。


「お、おはよう……」


 ヒーヒーと苦しい息を整えていると、早々に教室にいたらしい隆嗣りゅうじがニヤニヤした顔で亮の方に向き合った。


「お前でも、こんな日もあるんだねぇ?」


 亮は言い返したかったが、まだそんな余裕はなかった。


「ゆ、油断した……」


「どうしたんだよ、陸部の朝練もサボっちゃってさ、亮らしくないじゃん?」


「あ、あぁ……昨日久しぶりにチャンネルゲームやってたらハマっちゃって、気付いたら明け方だったんだよ」


「ゲームって、エターナルレジェンドか?」


「ああ」


「ふ~ん」と言いながらも、隆嗣は信じていない様子だ。


「な~んか怪しい」


「何でだよ」と、亮はあしらったが、内心ひやりとしていた。


 エターナルレジェンドは、若者を中心に人気のある仮想世界でのゲームだ。プレイヤーは意識をキャラクターに移すだけでなく、現実の身体能力や経験値がそのまま反映される。ゲームだからといって、超人的な能力を使えるわけではないところが他のチャンネルゲームとの違いであり、醍醐味でもある。


「だってお前、超ヘタクソじゃん。前やった時は弓使いのハンター選んでたけど、脚力もないし、矢の命中率も致命的に低かったし。急にエターナルレジェンドにハマるとか、変じゃね?」


「いや、俺だって陸上の訓練も受けてるし、前よりは上手くできんじゃね?って思ってさぁ」


「まーいいや、そんなことよりさ、今朝のニュース見たか?」


「今日の俺にそんな余裕ねぇよ」


「昨日の夜さ、根岸森林公園で火事があったんだって、それが、小型の惑星が落ちたらしいぜ」


 亮は心拍数が上がるのを感じたが、表情には出さなかった。


「へぇ……小惑星か……」


 隆嗣は顔を寄せて、妙に真剣な眼差しで亮を見た。


「お前さ、どう思う?その適当なニュース」


「別に、適当じゃないだろ」


「俺にはそうは思えない。関心を逸らすためのフェイクニュースだと思う」


「フェイクニュース?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る