第162話【ルクスとプレザ】



◇ルクスとプレザ◇


 ルクスがプレザを気にかけるのには、理由がある。

 初代【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の主人公……ルクス・ファルシオンの真っ直ぐ過ぎる性格に関係する話だ。


 僕は今、宿でチェックアウトの手続きをしている。その間に、今頃のルクスとプレザの会話を想定しておこうと思う。

 これは原作ゲームではなく、アプリ版のイベントで行われたショートストーリーだ。


「プレザ!入るぞ!!」


 ルクスは勢いよくプレザの研究所に入った。無許可で。

 しかし部屋にはプレザは居らず。


「い、いない?どこに行ったんだ……?」


 ルクスは家中を探すが、プレザの痕跡すら見つけられなかった。

 しかし、そんな部屋の中にもヒントがあった。


「あれ、なんだこれ、階段??地下、か?」


 前回家に来た時は見えなかった、地下へ下りる為の階段を見つけてしまったのだ。

 ルクスは意を決して、その階段を降りる。

 「もしかしてプレザの身に何かがあったのでは」と……ルクスは心配して。しかしそこで目撃したのは。


「――絶対に、完成させる……私が、この術式を」


「術……?」


「誰っ!!」


 ガシャン――と、ルクスの顔面を真横を通り過ぎる試験管。

 ルクスは顔を引き攣らせながら、弁明するんだ。


「お、俺だぁぁぁ!ルクス・ファルシオンだよ!プレザっ!」


「ルクス……君?ど、どうしてここに……あ、そうか。階段を……」


 プレザは一瞬で自分のミスに気付いたんだ。

 そして反省と共に、冷静さも取り戻した。


「ルクス君、身体はもういいんですの?こんな場所にいて……お医者様はお叱りにならないんですの?」


 プレザがしれっと隠した書物を、ルクスは目撃していたはず。

 だけど彼は何も言わない。それは、この【シャンバール聖王国】でも禁忌きんきとされた書物だったからだ。


「あ、ああ。もうこの通りさ……だから、プレザを呼びに来たんだよ!」


「私を?」


 プレザは意外な顔をしたはずだ。

 しかしルクスは笑顔で続ける。


「そりゃそうさ!だってまた、オノデラ?の屋敷に行くんだろ?」


「オ、オーデラ子爵ですわね?」


 ルクス、格好つけたいのに痛恨の名前ミス。

 だけど、それが逆にプレザの警戒心を解いたんだ。


「……はぁ〜あ。馬鹿らしくなってしまいましたわ……」


「お、俺のせいか?だ……よな?」


 ルクスは、一度の失敗でも諦めていなかった。

 リヴァーハイト辺境伯から依頼された大魔導師からの助言を授かるという目的を、しっかり果たそうとしていたのだ。しかし、それだけではないと……もうプレザも理解していたはず。


「そうですわね。でも……別にいいんですのよ。助言なら、してあげますから」


 プレザは悲しそうに言ったはずだ。

 しかしルクスは、笑顔でそれを拒否する。


「へっ、嫌だね。俺は、俺たちは……何も達成してない。だから、それを成すまでは、プレザからの助言は受けない!!」


 プレザは絶句だっただろう。

 もし僕やラフィリア姉さんがその場に居たら、病み上がりだろうが頭をはたいていただろうね。

 だけど、これが初代【ギャラクシー・ワールド・ソウルズ】の主人公……真っ直ぐで熱い、ルクス・ファルシオンという少年の性格なんだ。


「ば、馬鹿なのですか君は!私がいいと……助言すると言っているのですわよ!?」


「ああ、俺は馬鹿だ!だから、何もなく君に助けられるのは嫌だ!!俺だって、俺たちだってプレザ……君を助けたい!!そして、君を仲間にしたいんだ!!」


「は……?」


 原作ゲームでは、助言イベントの後しれっと仲間になっているプレザ。

 その間を補完してくれたのが、このイベントだったんだ。


 さぁ、そろそろかな。

 チェックアウトも終わるし、僕たちもプレザの研究所に行こうか。

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