第51話 体調不良の私は辺境伯令嬢にやられて死を覚悟しました

龍之介は天使な息子のシャルルちゃんのいるところが判るらしくぐんぐん飛んでいく。

龍之介に乗っていると風がきつい。普段なら平気なのだが、今は体調不良の身だ。結構堪えた。


でも、天使な息子のシャルルちゃんが、私がいなくて寂しくて泣いているかと思うとそんな事は構っていられなかった。


誘拐したやつらもシャルルちゃんをちゃんと扱っているだろうか?

あまりにも泣くからって手を上げていないだろうか?

私はとても不安だった。


こんなんだったら、陛下に呼ばれようが、王妃様に呼ばれようが、シャルルちゃんの傍を離れるんじゃなかった。

私はとても後悔していた。


その私の焦りが龍之介にも伝授したのか更に飛ばしてくれるんだけど、私にはとてもきつい。

でも、天使な息子のシャルルちゃんの為に頑張るんだ!

私は歯を食いしばって耐えた。


もう我慢も限界かと思われた時だ。急に龍之介が高度を落としだしたのだ。


天使な息子のシャルルちゃんを私も近くに感じた。


「おんぎゃーーーーおんぎゃーーーー」

シャルルちゃんの泣き声が遠くから聞こえる。

目を凝らすと止まっている馬車の中からシャルルちゃんの泣き声が聞こえた。


「龍之介、あれよ」

ギャオーーーー


龍之介が咆哮するや一気に地表に飛び込む。


地上に多くの兵士たちがいるのが見えたが、その前の建物の上に龍之介は突っ込んでいった。


ドシーーーーン

凄まじい衝撃音とともに建物が壊れる。


それと共に衝撃波が周りを襲って兵士たちをなぎ倒したのだ。


シャルルちゃんの馬車に障壁をかけたので馬車は大丈夫だった。



「シャルルちゃん!」

私は馬車の中で泣いている天使な息子のシャルルちゃんを見つけて私は駆け寄ったのだ。


「ママ」

シャルルちゃんが私に手を差し出しのだ。


「えっ」

私はその瞬間固まってしまった。


生まれて初めて天使な息子のシャルルちゃんに呼ばれたような気がしたのだ。

いやいや、今のは空耳だろう。まだ私を呼ぶのは早いような気がする。


「ママ!」

再度シャルルちゃんが手を差し伸べて来たのだ。


「シャルルちゃん」

私は思いっきり天使な息子のシャルルちゃんを抱きしめていた。


そう、生まれて初めて天使な息子から「ママ」と呼ばれたのだ。

私は天にも昇る気持ちだった。

もう周りの奴らなんて関係なかった。


「シャルルちゃん! ママ嬉しい」

そう言うと私は再度シャルルちゃんを抱きしめたのだった。

今までは誘拐されたシャルルちゃんの事がとても心配だったのだが、見た感じシャルルちゃんは無事だし、今は絶対に安全な私の腕の中にいるし、もう周りなんてどうでも良かった。


だって生まれて初めて天使な息子のシャルルちゃんが私の事をママと呼んでくれたのだ。


そう、私は自分が万全でないことも、周りが敵だらけなのも忘れてはしゃいでいたのだ。



そんな時だ。


いきなり私は後ろから爆裂魔術を受けて、弾け飛んでいた。


地面に激突して、二転三転する。


いつもならば障壁で防いでいたのに、今は生理中で体もあまりいう事をきかないのだ。


私は必死にシャルルだけをカバーしたのだ。


回転が止まった時に、私はシャルルを見た。


シャルルと目が合う。


シャルルは大丈夫だった。


ニコッと笑ってくれたのだ。


私はホッとした。


「ふん、無様ね」

どこかからゴキブリの声が聞こえた。


私と天使な息子のシャルルちゃんのくつろぎの場を邪魔するなと言いたかったが、そういうわけにもいくまい。


私は何とか立ち上がったのだ。


私の周りには剣を持った兵士たちに囲まれていた。


遠くで龍之介が暴れているが、敵は魔術師もいるみたいで、結構苦戦しているみたいだった。

まだまだ鍛え方が足りないみたいだ。

私のペットがそんなことでどうするのよ!

ここから無事に帰れたら一から鍛え上げよう。私は決意したのだ。


でも、何か身体がもうボロボロだった。

このゴキブリ娘の爆裂魔術で体も傷だらけだった。


「ふん、どれだけ強いかと思ったのだけど、ぜんぜん大したことないじゃない。気にした私が馬鹿だったわ」

何かゴキブリ娘が言ってくれる。

害虫はどこかに行って欲しいと思ったが、そういうわけにもいくまい。


自分一人ならまだ何とかなれたかもしれないが、ここにはシャルルもいる。

何としてもシャルルは護らなければならなかった。


私は最後の手段を取ることにしたのだ。

宝剣エクスカリバーの柄に手をかけて引き抜いたのだ。


本らならば宝剣は光り輝くはずが、私が魔力が安定しないからか、ポロイ剣のままだった。でも、見る人が見れば判るだろう。


「何よ、そのポロイ剣は」

「そのような薄汚い剣で戦うつもりか」

私は辺境伯とその令嬢の言葉に目が点になった。


「何ってこれは初代国王陛下が国を建国されるときに使われた宝剣エクスカリバーよ」

私はせっかく言ってやったのに


「ふーん、そんなボロボロの剣でどうするのよ」

辺境伯令嬢に完全に馬鹿にされたんだけど。


「何言っているのよ。この剣は全軍の指揮者の象徴よ。あなた達直ちに私に付き従いなさい」

私は周りの騎士達に言ったのに、


「何を言っているんだ。この女は」

「あまりの事に気が狂ったのか」

私を馬鹿にしだしたんだけど……


嘘! 辺境伯は辺境にあり過ぎてエクスカリバーの伝説も知らないのか? 本来はこの剣は国軍の総司令官が持つ剣で、この剣を見た途端に皆指揮下に入るはずなのに、田舎者はそんな事も知らないのか!


私は唖然とした。



「ふん、今まで散々私をコケにしてくれたけれど、最後はそんなおもちゃを振り回して狂言いうなんて無様なものね」

ゴキブリ女は私を見下してくれたんだけど。

こいつ宝剣を、エクスカリバーを馬鹿にしてくれるんだけど、初代陛下が墓場の影で泣いているぞ。こいつらどういう教育を受けているのよ!


私は唖然としたが、最後の手段がきかなくてもう、絶体絶命の事態になったのは理解できた。



「貴方さえいなくなれば、王太子殿下も私の物よ。貴方にはここでその息子ともども死んでもらうわ」

そう言うとゴキブリ女は高笑いしてくれたんだけど、いきなり気が狂ったのかと思ってしまったわ。


「どうしたの。命乞いしないの?」

女は私を見下してくれるんだけど……


私が本調子なら即座に地獄に送り込んでやるのに!


「ふんっ、私を殺してあなたが、王太子妃になるですって! 何をふざけたことを言っているのよ。私が死んでもあなたには無理よ」

私は憐れむように言ってあげた。


「何言っているのよ。貴方さえいなくなれば、王太子妃のライバルは誰もいなくなるわ」

「馬鹿ね。私がいなくなれば、それこそ高位貴族の令嬢たちが我も我もとエドの妃の座を狙って暗躍するわよ。今は私がいるから、皆は私を怖れてエドに近寄らないだけよ」

「ふんっ、そんな訳ないわ。宰相様も高位貴族の方々も皆私を応援して頂けるって」

「書面でもらったの?」

私はあざけるようにってやったのだ。

「書面なんてあるわけないでしょ」

女が言って来た。


だから馬鹿なのだ。


「書面が無いのならば辺境伯令嬢なんて私達の殺害容疑で消されて終わりよ」

「何を言う、高位貴族の方々にはちゃんとお約束を頂いているわ」

「そんな口約束護るわけないでしょ。馬鹿じゃないの」

私が憐れむように見てあげた。普通の令嬢はこれで判るんだけど、やはり脳筋の田舎者の辺境伯では理解できないみたいだった。


「ふんっ、とりあえず、まず、お前の命を取ってからそれは考えよう」

辺境伯が冷酷に言ってくれた。


ダメだ。少しくらいこれで時間稼ぎができるかと思ったのに、出来なかった。


さすがの私も最悪の事を覚悟したのだ。

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ここまで読んで頂いて有難うございました。

ジャンヌの運命や如何に。


そして、明日にはこの物語も完結です。

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