第43話 辺境伯令嬢の独り言2 厄災女にしてやられました

「どういうことなのよ!」

私はタウンハウスに帰ると、自分の部屋にあった花瓶を地面に叩きつけた。


バリン


大きな音がする。


花瓶が割れて破片が飛び散った。


慌てて侍女たちが飛んでくるが、それがどうしたというのだ。


「厄災女がでかい顔をしているのは王太子殿下を脅して言うことを聞かせているからだ。

その厄災女から王太子殿下を引き離して、お前の魅力で迫れば王太子殿下は必ず落ちる」

お父さまがそう言ってくれた事を信じたんだけど、本当なんだろうか?


その言葉を信じた私は殿下と厄災女がいないところでお会いして、私の魅力を見せつけようとしたんだけど、中々うまく行かなかったのだ。

あの女のいないところで殿下に私の自慢の胸を押し付けて迫れば一発で落ちると思ったのに。

何しろあの厄災女は本当に慎ましやかな胸しか無いのだから。男の胸と言ってもよいほどの胸しか無かったし。


私はできる限り王太子殿下と二人だけでお会いしようとしたのだけれど、そもそも中々二人きりにはなれなかった。

殿下が王宮を歩いている所はあの厄災女が一緒にいたし、殿下の執務室には私では近衛騎士が通してくれなかったのだ。


父の辺境伯と一緒に二度ばかりお邪魔したのだけれど、王太子殿下の反応は芳しくはなかった。

父とは話をしても私とは目も合わせようとはしてくれないのだ。


厄災女といる時に私の自慢の胸を押し付けても反応はそれほど良くはなかった。


やはり厄災女を怖れてのことだと思ったから、今度は二人きりのときにしようとしたんだけど、殿下は何処に行くのも騎士たちと一緒で、ムカつくことに騎士たちが中々近寄らせてもくれなかったのだ。


仕方がないから、今度は将を落とすにはまず馬を射よという言葉とおりに、王妃様の所に行ったのよ。そして、私は厄災女と違って若くて使い古しではないとアピールしたんだけど、何故か王妃様のお怒りを買ってしまった。


「あなたなんて出ていきなさい!」

って追い出されたんだけど……


あの厄災女、絶対になにか良からぬことをして王妃様のご機嫌を取ったんだわ。

本当に許せない!


私がお父さまにその事をお話すると

「そうか、あの厄災女、王妃様にまで取り入っているのか」

お父さまは忌々しそうに言ってくれた。


「大臣方や高位貴族の方々も、王太子殿下の婚約者には厄災女よりもその方が良いとおっしゃって頂いているのだ」

「そうなのですね」

私は嬉しくなった。

まあ、あのツルペタの厄災女よりも豊満な胸の私の方が人気があるのは間違いないのだ。


「ただ、どの殿方も、『では、陛下に私の娘を王太子殿下の婚約者にご推挙下さい』と言うと言葉を濁されるのだ。余程厄災女を怖れておられるらしい」

とお父さまは言ってくれるんだけど。


すべてはあの厄災女が悪いのだ。


やはり私が王太子殿下の婚約者に収まるにはあの厄災女をなんとかしないといけないらしい。


「でも、お父さま、どうするの? あの厄災女は雷撃で側妃様達を一撃にしたそうよ」

そう、私もある程度の魔力はあるが、厄災女ほどではない。


「イライザよ。対策は十分に考えてある」

お父さまが自信ありげに言ってくれた。


「我が家の家宝、祈りの首輪使う」

「えっ、祈りの首輪を」

私は驚いた。我が家の秘宝、祈りの首輪、それつけるとつけられたものは私達の言うことを聞くのだ。


「あれを厄災女にはめるの?」

「いや、それはなかなか難しいだろう。近付くだけで、雷撃されても事だ」

お父さまは否定するんだけど……


「あれをドラゴンにつけるのに成功したのだ」

「ドラゴンに!」

父が自慢していってくれた言葉に私は驚いた。


「でもあれを首につけられたの?」

ドラゴンの太い首にあの首輪は難しいだろうと私は思ったのだが、


「足の小指につけたのだ」

父が得意げに言ってくれた。


「小指でも効くの?」

「取り敢えず、我々の言う事は聞くようになったそうだ」

「そうなんだ」

私は喜んだ。ドラゴンが味方になってくれたらいくらあの厄災娘が強いと言っても勝てるだろう。

あの憎たらしい厄災女がドラゴンの前に命乞いする姿を思い描いたのだ。

ふんっ、その時に命乞いをしても遅いのだ。


私はそう想像すると笑えてきた。


「「わっはっはっはっは」」

そして、父といっしよ高笑いしたのだった。




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