第7話 出てきた弟に後始末を任せることにしました

「副騎士団長!」

エイデンたちは驚いてその男を見た。

そうこの男はこの街の騎士団ではなくて、その上の地域全体の騎士団の副騎士団長なのだ。



でも、そんなのは関係なかった。私はその男を見た瞬間、むんずとその襟首を捕まえて引寄せたのだ。

「ブライアン、あんた何今頃ノコノコやってきてるのよ。判っている? 私はコイツラにおもちゃにされようとしたのよ」

「はい、ちょっと待ってください。姉上」

男は慌てた。


「あ、姉上?!」

エイデンが今度は青くなったのだ。

そう、この今頃出てきた男は私の実の弟だ。そして、この国の将軍の息子でもある。まあ、私もそうなのだが……


「お前ら、姉上を襲おうとしたのか?」

弟の声は何故か呆れたような声が混ざっているのだが……

「いえ、そのようなことは決して」

エイデンは慌てて首を振った。


「襲おうとしたのはこいつよ」

私はひくひく震えているエイミスを見下ろしていった。


「でも、なんか、この騎士たちもグルみたいだけど」

私が不機嫌に言うと、

「いえ、それは誤解であります」

「何が誤解よ。エイミスに私が制裁を加えようとしたら、この騎士たちが邪魔してきたのよ。普通は女が襲われていたら女を助けるじゃない」

「いや、姉上の場合は逆では」

冷静にこのブライアンの野郎はいいやがったのだ。

思いっきり叩いた私は決して悪くない。


「ちょっと、なんか言った?」

私が文句を言うと


「何も思いっきり叩かなくても」

弟は頭を押さえて私を恨めしそうな目で見てきた。

「来いって言われて来たらいきなり終わっているし、何なんだよ」

ブツブツ文句を言っている。

そう、後で面倒なことになったら嫌だから呼んでおいたのだ。後始末はこの弟に頼めばなんとかしてくれるだろう。


「ふんっ、変なこと言うからじゃない。この団長とエイミスは絶対に裏で繋がっているはずよ」

「そうなのか?」

「いえ、決して、多少の付け届けをもらってはいます……」

「何だと!」

「いえ、あの、その……」

騎士団長も馬鹿だ。言わなくてもいいことを言っていた。

エイデンは必死に言い訳していたが、後は弟がちゃんと尋問してくれるだろう。


「じゃあ、もう帰って良いわ」

私は弟たちを手で振って追い払おうとした。


「えっ?」

弟がキョトンとした顔をしている。


「何で帰らないの?」

「いえ、この商人の尋問が残っていますから」

「それなら私がやっておくから」

私は言い切ったが、

「一般人にそんな事をさせられるわけ無いでしょう」

弟が言ってくれた。


「こいつ、シャルル様の亡くなった件、絶対に何かかんでいると思うのよ。だから聞こうと思って」

「その件も私がやります」

「えっ、ちゃんと出来るの?」

胡散臭そうに聞くと

「男を一人潜入させていたはずですが」

「あの男でしょう」

最初に案内してくれた男はどこかで見たことがあったのだ。そうか、家の者だったんだ。


そう言えばシャルルは……

「シャルル」

私は慌てて隣の扉を開けた。


そこには男に高い高いをしてもらってきゃっきゃして喜んでいるシャルルがいたのだ。


「あーら、シャルルちゃん、楽しそうね」

私は微笑ましくなった。道理で泣き出さないはずだ。

シャルルは人見知りしないのだ。ほとんど……

まあ、さすがに髭面の父の顔見たら泣いていたけれど……

それはそれで父も泣いていて面白かったのだが……


「お前は何をしているんだ?」

弟は頭を押さえていたけれど……

「いえ、ジャンヌ様の邪魔をしないように、シャルル様の面倒を見ておりました」

「お前、本来は姉上を守れ」

呆れて弟が言うが、


「いいのよ。いいのよ。シャルルが無事で、楽しんでくれれば」

私が手を出すと

シャルルが手を伸ばしてくれたのだ。


「シャルルちゃん。元気にしてまちたか?」

私がジャンヌを抱っこするとジャンヌも笑ってくれた。

「うーーーん、可愛い」

私がキスするときゃっきゃっと喜んでくれた。


「じゃあ、後は任せたわよ」

どのみちエイミスは気絶していたし気付くまでは少しかかるだろう。それなら面倒なことは後は弟に任せよう。


私は私の雷撃の後でまだ煙が上がっているこの屋敷を後にしようとした。


「そう言えば、ブライアン。あんた王都に行くこともあるわよね」

「それはありますが」

私の問に警戒心丸出しで弟は聞いてきた。


「エドにも会うことある?」

「王太子殿下にですか、それは会おうと思えば会えますが」

弟は面倒ごとを押し付けられるのから逃げるように後ずさって離れていくんだけど……


「まあ、会えたらでいいから言っておいて」

「何をです?」

「1週間前にお願いしたことがまだ返事ないのよね」

「姉上からのお願い事ですか?」

この弟は嫌そうに言うんだけど……距離が開いているから叩けない……


「そうよ。もう少し待って来なかったら、今度は王宮にお邪魔するって言っておいて」

「判りました」

弟は何故か青くなっているんだけど、何でだろう?

まあ、深くは考えないでおこうと私はご機嫌な天使な息子を抱いて馬車に乗ったのだった。



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