第2話 義理の大叔母にいじめられました
オルレアン侯爵家。この王国では古い家柄だ。
私は夫のシャルル様とは学園で知り合った。私が入学した時に、シャルル様は3年生で生徒会長をしていらっしゃた。シャルル様とは生徒会を手伝っているうちに親しくなって、私が卒業すると同時に結婚したのだ。シャルル様は昔から私を知る連中とは違って、私を女の子として扱ってくれたし、それがとても新鮮だったのだ。
シャルル様の侯爵家も古かったが、私のいた伯爵家もまた、今まで数々の騎士や将軍を排出している武の名門の家柄で、結婚するのに何も障害はなかった。
そんな侯爵家だが、当主、シャルル様のお父様は病気がちで、私達が王都のタウンハウスで新婚生活を楽しんでいる半年前に他界され、その後シャルル様と一緒に領地に帰ってきたのだ。
シャルル様はお父様と違って健康だったのに、こんな急に亡くなるとは思ってもいなかった。
こんなことになるのならば私が孫の顔を見せるために実家になんか帰らなければ良かったと後悔したが、後の祭りだった。
「ジャンヌさん。あなた何なの! 葬式の間中泣きっぱなしで。侯爵家の嫁が取り乱してどうするのよ」
葬式の後、私は亡くなった夫の祖父の妹、即ち義理の大叔母からお叱りを受けていた。
「申し訳ありません。ベッキー叔母様。私の指導が足りないばかりにご不快な思いをさせて」
私の代わりに夫の父の姉、即ち義理の伯母のバーバラが私を庇って言ってくれた。
もっとも私の目には嘲笑っているかのようだったが……
「いえ、バーバラはきちんとしているわ。あなたは夫のブランドンさんと一緒に本当によくこの侯爵家を盛り立ててくれていたわ。この前亡くなった甥のヘクターは病弱だったから、その時から本当に良くしてくれていたと思うわ。
それに比べてシャルルの夫のジャンヌさんは甥が生きている間は全然領地に寄り付きもしないで、看病をバーバラに任せっぱなしにして! 王都でシャルルと一緒に遊び回っていて、甥のヘクターが死んだ途端に帰って来て、すぐにこのオルレアン侯爵家を継げたのは全てバーバラがいてくれたからよ。
それをでかい顔をして。本当にあなた何様のつもりなの?」
この大叔母はいつもこうだ。義理の伯母のバーバラを褒めて私をけなす。
それも、これが始まると長いのだ。
まあ、確かに私は結婚してからほとんど侯爵領には帰らなかった。
でも、それはシャルル様が1年間は王都にいて、新婚生活を楽しみたいとおっしゃられたからだ。その後のお義父のお世話は当然私もするつもりだったのだ。
それに、お義父様のお加減がそんな悪いなんて聞いてもいなかった。
だから亡くなった時は本当に青天の霹靂だったのだ。
今回みたいに。
それもシャルル様は、バーバラ伯母にそう勧められたからだと言っていたんだけど……。
「まあまあ、若い人がいきなりこんな田舎に引っ込んでヘクターの看病をするなんて出来ませんわ。ヘクターも帰ってきてほしそうだったけれど、仕方がないんです」
バーバラも私を庇っているようで、ベッキーの怒りにさらに油を注いでくれてた。
でも、そこは帰ってこなかった私にも悪いところがある。いくら、叔母にそう勧められたとしてももう少し帰ってくれば良かったのだ。
愛する天使な息子のシャルルのためにもここは我慢だ。
今は亡き夫のシャルル様も耐えられるジャンヌは凄いと褒めてくれたのだ。
ここは我慢だった。
「それに、ジャンヌさん、あんた達は王都で遊びなれていながら、何故お葬式に王族の方がお出で頂けなかったの?」
「陛下の名代の方がいらしてました」
私がお答えすると
「なんで、名代なの? ヘクターが亡くなった時はわざわざ王太子殿下が弔問に見えたじゃない。この前のお葬式は仕切っていたのが、バーバラだったから、ちゃんとお願いをして来ていただいたのよ。今回の喪主はあなたなんだからあなたがお願いしなければいけなかったんじゃないの?」
「申し訳ありません」
私は謝るしかなかった。あまりのショックにそんなのはすっかり忘れていたのだ。
「まあ、まあ、叔母様。ジャンヌさんも突然のことにショックを受けていたのよ」
「何を言うの。どんな時も冷静さを失わない事が、侯爵家の妻には求められるのよ。本当にダメね。あなたには到底この侯爵家を任せられないわ」
大叔母は私を完全に駄目だししてくれた。
「やはり頼りになるのはバーバラとブライトンさんよ。あなた達は本当に良くしてくれているわ」
それからも延々と大叔母の叱責は続いたのだ。
私はやっと開放されて、離れとは名ばかりの古いボロ家に帰った。
築100年以上は立つそれは本当に寂れていた。元々倉庫代わりに使っていたと聞いている。
私とシャルル様が領地に帰ってきた時に、伯母たちに言われてお義父さまの部屋を私達の部屋にしたのだ。
何でも、お父さまは静かなのを好まれたので、この離れがとても気に入っておられたそうだ。
シャルル様は最初は本邸に住むと言われたが、今まで世話してきた叔母たちが本邸には住み着いており、大叔母と伯母にいろいろ言われて諦めるしか無かったのだ。
大叔母に「今までヘクターの世話を全てバーバラに任せて、帰ってきた途端にその伯母たちを追い出すというのかい」
とまで言われてはどうしようもなかった。
だから、侯爵家当主が寂れた離れに住み、その伯母たちが本邸に住んでいるという、変わった状況になっているのだ。
「シャルルちゃん! 元気にしてまちたか?」
私は侍女のアリスに抱かれていたシャルルを取り上げて抱きしめたのだ。
シャルルはキャッキャッ喜んでくれた。
早速お乳を上げる。
「お嬢様。また、性悪ババアに虐められていたんですか?」
伯爵家から付いてきてくれた私の専属侍女のアリスが文句を言ってくれた。
「アリス、その言い方はよくないわ。大叔母様は私達のことを気にしてくれているのよ」
「そんな訳無いでしょう。虎視眈々とこの侯爵家をバーバラに継がせようと暗躍していると思いますよ」
「まさか、そんな事はさすがにしないでしょう」
私が言うが、
「お嬢様も旦那様も人が良すぎます。こんな物置小屋に住まわされて文句も言わないなんて」
「えっ、旦那様がいらっしゃればどこでも良かったのよ。こんな物置小屋って言うけれど、雨漏りしないし、昔、エドとかと冒険した時は野宿だったから、それに比べたら全然ましよ」
「比べるものが違います。お嬢様の冒険の仮の宿と侯爵様の住む所は全然関係ないでしょ」
アリスは容赦なかった。
「それに今はお子様のシャルル様がいらっしゃるのですよ」
「そうね。確かにシャルルにとってはよくないかも」
私はお乳を飲んでオネムになったシャルルの背中を叩いて
ケプっ
とゲップをさせた。
むちゃくちゃかわいい!
本当に天使な息子だ。もうシャルルさえいれば何もなくても良い!
私はそう思っていたのだ。
そこに着々と悪巧みがなされているなど思いもしなかったのだ。
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