誰かが死んだ
臆病虚弱
誰かが死んだ
『……○○町の住宅から出火していると付近住人から通報があった。××市消防本部によると住人5名のうち、4名が行方不明、一名が住宅から保護されたという。火は既に消火され、焼け跡から一名の焼死体が発見された。××市警察は行方不明の四人の行方を捜査している。』
――
「……ご家族の件ですが、本当に火の出る間際まで、ご自宅にいらっしゃったんですね?」
「はい……休日の朝でしたので、外に出る用意はしていなかったと思います。顔も見ましたし……」
「……」
「……あの、焼け跡の焼死体というのは……」
「……まあ、こちらで捜査中なので、あまり多くは言えませんが……リビングで見つかった焼死体については、ご家族の歯型や血液型などと照合しましたが、いずれも全く合致しませんでした……」
「……え?」
「疑う様で申し訳ありませんが、あの火事の日に、来客などはありませんでした?」
「まさか、ありません。さっきも言った通り、休日の朝ですから、家に招くようなことも……」
「ふむ……。分かりました……。また、証言を貰う事もあるかもしれませんので、その際は、ご心労をお察ししますが、どうかご協力のほどを……」
「……はい……」
――
『……先日の火災で行方不明となっていた四名は、本日、××市○○町の公園で事件当時の姿のまま発見されました……警察は引き続き焼け跡から見つかった遺体の身元の捜査を……』
――
母と父と妹、弟は、火災当時のことは覚えていなかった。
今は取敢えずのアパート暮らし。だが、火災保険等々の補償によりどうにか新しい家を工面できる見立てがあると父は言っている。
帰って来た家族は、私に色々なことを訊いてきたが、焼死体のことは訊かなかった。私もどう答えればよいかわからないので、訊かれなかったのは安堵を覚えた。きっと、彼らも私が答えを持たないことを知っているのだろう。
あの火事の日。私はリビングで一人、ソファーに座っていた。
リビングに居た。
他の家族はそれぞれの部屋に居た。
台所から出火した。
気づいた時にはもう消し止めることができない大火事だった。
私は……煙が出るのを見て、他の家族に知らせるよう大声で叫んだ。
家には誰も居なかった。
私はそれを確認すると。疑問に思いながらも外へ必死に逃れた。
窓を開け、飛び出した。
振り向けば私の家は、見慣れた姿を失い、火に包まれかけた、煙を吹きだす姿を示していた。
まもなく、消防車が来た。
私は保護された。
そして、消火された跡から、あの焼死体が出てきた。
丁度私が座っていたソファーの位置。
丁度私と同じ格好。
あれは私なのかもしれない。
では、今生きている私は?
焼死したのは私だった?
私は私ではなかった?
どちらかが偽物で、どちらかが本物だった?
あるいは、私以外の全てが……偽物だった?
……やめよう。
あの時、ホンモノの私が死んだとして。私が偽物だったとして。あるいは私以外の全てが偽物だったとして。それで何かが変わるわけでもない。
何が真実であろうと、私が今生きていることには変わりないし、家族が今生きていることにも変わりはない。
あの火事で失ったものは家と家財だけ。
それ以外の何も、私は失っていない。
少なくとも今は、そう思う。
いや、そう思い込んでいる。
それでいい。
――
『……鑑定の結果、焼死体の歯型とDNAが保護された▽▽さんのものと一致、今後の捜査は▽▽さんの身辺を中心に進めるものとする……』
(終)
誰かが死んだ 臆病虚弱 @okubyoukyojaku
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