にゃんともニャンだふる!

桔梗 浬

媚を売るのも仕事だにゃん

 僕はネコ。名前はネコにゃん。

 もっとダークヒーローみたいに格好いい名前がよかったんだけど…仕方ない。


 ちびっこの頃、母さんとはぐれちゃった僕は寂しくて寂しくて、とってもお腹が空いていたんだ。


 お腹が空きすぎてトボトボと歩いていたら、良い匂いが僕の鼻を刺激した。僕の自慢の髭がビンビン反応してる。だからちょっとのぞいてみたんだ。


「にゃぁ~」


 ガサガサって草をかき分けて進むと、美味しそうな匂いがくぅ~んって漂ってきた。僕は我慢できなくなっちゃって、そぉ~っと匂いのする方へ近付いてみたんだ。


「うん? お腹空いてるのかい?」

「にゃん!(空いてるにゃん、ペコペコにゃん)」

「仕方ないな」


 声をかけてくれたその人は美味しいミルクを僕に用意してくれた。それは超美味しかった。冷たくてお母さんのオッパイみたいで、草についたお水とは違う味がした。


「にゃぁ~ん(超美味しいにゃん)」


 ペロペロ。あれ? 上手く飲めないや。


「あはは。落ち着いて、誰も奪ったりしないから」

「にゃ?」

「顔に牛乳ついてるぞ」


 僕は頭をくしゃくしゃに撫でられて、ちょっとウザいって思った。だけどミルクを飲みたかったから、許してあげたんだ。僕って心が広いからね。あ、今日だけだよ。


「にゃぁ~」

「お前、ボッチなのか? うちの子になるか?」

「にゃん?」


 僕はフワッと宙に浮いた。僕を両手で担ぎ上げた人間からも、めちゃくちゃ良い匂いがした。

 仕方ないな、ついていってやろう。今は暇してるし、何だか良いことがいっぱいありそうな気がする!


 こうして僕は今のご主人と出会ったんだ。




「ネコにゃん、これから会議だから邪魔しないでくれよ」

「にゃぁ~?(何言ってるんだい?)」


 この部屋は快適だにゃん。ご主人(と建前は言っておいてやろう)は、僕のためにふかふかのお部屋とかオモチャとか用意してくれた。どうやら僕の先輩にゃんこがいなくなったから、僕を連れてきたらしい。寂しがり屋さんなんだな。


「ふみゃぁ~ん、にゃぁ~?」


 ご主人、パソコンばかりみてる。つまらんにゃん。


 僕はご主人の腕にすりすり。思いっきり甘えてあげる。こうなったら、かまってくれるまですりすりするにゃん。


「こら、ネコにゃん」

「にゃん、にゃん(どうだ~こっち向けって)」


 ご主人は僕をつまんで、床にポイっとする。こら~、甘えてやったのに何てことするんだ!


「シャーっ(本気で怒ってるんだぞ、プンプン)」


 どんなに怒っても、ご主人はかまってくれない。だから諦めることにしてあげる。他のことをして遊ぼう。僕は独り遊びも得意なんだ。



 それからどのくらいたったんだろう。

 ご主人から今まで嗅いだことのない匂いがするようになった。そういう時は大抵僕はお留守番だ。


 そういう時はご主人が帰ってきてドアを開けたら、どんな暗闇だって行儀よく座ってジーーーっと見ることにしたにゃん。


「うわっ、ネコにゃんビックリしたー。そこにいたのか」

「……」


 僕は黙ってご主人を睨み付ける。寂しかったんだにゃん。そう簡単には口なんか聞いてあげないんだから、覚えておけにゃん。ぷんすかぷんすか。

 ギーーーーって鳴るカリカリご飯も嫌いじゃないけどっ。お魚のトロリとしたやつが食べたいにゃん!


「ごめんごめん」


 そういう日は決まってお布団の中で暖めてくれるから、許しちゃう僕も僕なんだけどね…。


 そしてとうとうご主人に、僕よりも大切な人ができたみたいだ。その人からもいつも良い匂いがする。僕を放っておく日に香る匂いと同じだって分かった。

 その匂いがする度に、僕のご自慢の髭はぶるぶるする。


「可愛いぃ~。ネコにゃん、よろしくね」

「ふんっ(気安く名前を呼ばないで欲しいにゃん。仲良くなんてしてやらないにゃん)」

「私、嫌われてるのかな?」

「そんなことないよ。これを持って、そう肩の辺りに」


「にゃぁ~?(良い匂いがするにゃん)」


 あぁ、この香りたまらにゃい。あぁ~ペロペロしたいにゃ~。

 僕はたまらず彼女の膝にトンって軽やかに乗ってしまった。


「あ、美味しそうにしてる」

「だろ?」

「にゃん、くちゅっ~るんにゃ(旨いよぉ~)」


 仕方ない。たまには仲良くしてあげよう。絶対に僕は媚を売らない。ご主人がすごく嬉しい顔をするから仕方なくだ。本当に仕方なくだよ!


 あぁ~美味しいにゃん。ず~っとペロペロしていたいにゃん。うっとり。


 僕はいつの間にか彼女の膝の上で眠りこけちゃったみたいだ。


「ゴロゴロ……」

「うふふ、ネコにゃんゴロゴロしてる。可愛いぃ」


 僕は幸せにゃん。



 


 今もずーーと、これからも幸せにゃん。

 


 END

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