第10話 王太子視点

 崩れ落ちた王宮。

 下層部分はほぼ潰れてしまい、辛うじて形を保っていた上層でさえ壁が崩壊したり床に深いヒビがはいったりと目に見えて甚大な被害を受けていた。

 だが、


「ぅ、くっ……」


 悪運が働いたのか、下層の隅の方にいた王太子アストラはこの大地震を生き延びる事に成功していた。

 ただし、無事ではない。


「ぐ、あぁぁぁッ!!」


 全身に響く激痛。 

 視線を落としてみれば、その片腕の肘から先が巨大な瓦礫によって押し潰されているのが分かる。

 それ以外の瓦礫は上手い事アストラを避け、天井も崩れかけながらギリギリのところで落ちずにとどまっているという状況。


「く、そっ……うあぁッ!?」


 瓦礫をどかして腕を救い出そうとしても、体に力が入らず体勢的にも難しい。

 むしろ抵抗しようとすればするほど痛みが激しくなり、今にも意識が飛んでいきそうになる。

 もはや先の方の感覚はない。

 だがまだギリギリのところで繋がっている以上、痛みが治まることはない。


「――ひっ!?」


 ぐらりと、また地面が揺れた。

 直後、先ほどには及ばぬものの激しい揺れが発生する。

 アストラは無意識の内に震える手を合わせていた。

 逃げる事すら能わない彼は、もはや祈る事しかできないのだ。

 

「ぐ、ぅぅぅ……」


 痛み、そして恐怖から来る涙が頬を這う。

 この無限にも思える地獄の時間を、彼はただ、助けが来るまで待つしかできなかった。

 

 そしてようやく、その時が訪れる。

 

「――か」


 意識が飛びかけている中、かすかに聞こえる声。


「殿下! ご無事ですか――っ!?」


 目を開けてみれば、そこには王国の兵士が数人。

 彼らはアストラの腕を見て状況を瞬時に理解した。

 一方のアストラは声によって意識がはっきりとしたせいで、再び激しい痛みに襲われていた。


「た、頼む……はやくこれを――」


 もはや命令口調にする事すらできず、助けを乞うアストラ。

 兵士たちはそれに応じてすぐさま瓦礫を撤去しようと試みるも、彼らの力ではそれは叶わない。

 しかしこのまま放置してしまえば、確実にアストラは命を落とす。

 一刻も早く、彼の腕を何とかしなければ。

 そう思った兵士は、アストラにある提案を持ちかける。


「殿下――」


「……っ!? なんだと……私の腕を……」


「はい。このままでは殿下の命が危なくなってしまいます。ですから埋もれた腕を切断し、止血します」


「だ、だがそれは――」


「どうか、ご決断ください!!」


 強い口調で、進言する。

 この兵士はこの状況における最適解を瞬時に導き出したのだ。

 そしてその勢いに気圧されたのか、早くこの苦痛から解放されたかったのか。

 どちらかは分からないが、彼は兵士たちに命じた。


「私の腕を斬り落とし、即座に救出せよ」


 と。

 その命令を、彼らはすぐに実行へ移した。

 剣を抜き、アストラの口に布を当て、構える。

 

「……行きます」


「――ッ!!」


 直後、耳をつんざくほどの絶叫が、王宮内に響き渡った。

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