第7話

 いよいよこの国を出ることになった。


 それはランドロール公爵家の爵位剥奪が決定されて数日後。

 ある程度の猶予期間は与えられているものの段々とこの場を離れなければいけないという空気になっている中で、お父様がようやく決断を下したのだ。

 もうこの国でやり直すことは難しいと、そう判断した。


 その時のお父様の顔は苦虫を百匹噛み潰したかのような酷いものだったけれど、私はそれはきっと正しいと思っている。

 そもそもの問題として私達ランドロール家は、他の貴族たちからよく思われていないのだ。

 要の巫女が役割を果たしていないと思われているだけではなく、現王太子であるアストラが私と婚約を結ぶことを決定してしまった事も彼らにとっては不愉快なようだった。


 何故アストラが私――当代の要の巫女との婚約を結ぼうとしたのかは分からないが、きっと彼の事だから私の見た目が好みだったとかそう言った理由だけではないのだろう。

 何か裏があるような気がしてならないが、今となってはもはやどうでも良い。


 いずれにせよ我がランドロール家は貴族社会において疎まれていた。

 だからこうして爵位剥奪という異常事態が発生してなお、我がランドロール家の味方になろうという者が現れなかったのだ。

 それはお父様の心を折るのに十分な材料だったと思う。


「リシア、お前の言葉を信じようと思う」


 お父様は私に向かってそう言った。

 そして私の提言通り大地震が発生する事を口外せず、家族と数少ない信頼できる者のみを連れて国を後にする準備が進められた。

 防げもしないのに大地震が発生するなどと言おうものなら、ますますランドロール家の立場が悪くなってしまう可能性の方が高いから、これでいい。


 それからさらに時間が経ち、遂に国を出る日がやってくる。

 私達はとりあえず隣国へと向かい、それからどこでやり直すかを考える事となった。


 秘術はまだ、かけ続けている。

 これを解いてしまえば恐らくすぐに大地震がこの国を襲う事になるだろう。

 だから解くのは、私たちの安全が確保されてからだ。


 私はこれからたくさんの人を地獄に追い込むけれど、これはあなたたちが望んだことでもある。

 巫女の存在を軽んじ、王国の平和に必要不可欠な存在を迫害し、追い詰めた。

 恨むなら王族貴族のお偉いさん達を恨むといい。


 そしてついに、その時が訪れる。

 私はそっと秘術を解き、国に背を向けた。


「……これがランドロールを捨てた、国の末路よ」


 滅びゆく国に向けて、私からの最期の言葉を。

 私の体は、羽を得たかのように軽くなった。

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