第6話

 ランドロール家は何故今日に至るまで、チカラを持たない空っぽの『要の巫女』の座を代々受け継いできたのだろうか。

 今まではそう言うしきたりだから当然だと思って来たけれど、改めてこういう状況になってみるといろいろ分かってくることがあった。


 父の部屋を後にした私は、頭の中を整理する意味を込めてその足で母が待つ場所へと向かっていた。

 私の母は、先代の要の巫女だった。

 そして私に要の巫女の座を引き継ぎ、表舞台から退いた。

 その後は……あんまり思い出したくない。やめておこう。


「お久しぶりです、お母様」


 返事はない。

 私の声は、誰もいない静かな平地に虚しく響く。

 私の前には、いくつもの立派な墓石が建てられていた。

 そのうちの一つが、私の母が眠る墓となっている。


 ランドロールの家に生まれる娘は生まれつき体が弱く、短命だ。

 長くても齢50になるまで生きる事はほとんどなかったそうだ。

 お母様も、その例に漏れず若くして命を落としている。


 そう。まるで私が幼い頃に秘術をかけ始めた頃のように。

 体からチカラを抜き取られているかのように徐々に衰弱していき、私に巫女の座を渡してから間もなくして、お母様は死んでいった。

 

 ……そして今になって思えばお母様の死と同時に、私の体にかかる負担は増加していたような気がする。

 私の体が成長したおかげでその負担にはある程度耐えられているが、あれは単なる偶然ではなかったと思う。

 だがお母様は、私に秘術のかけ方や付き合い方なんてものは一切教えてくれなかった。

 そもそもその存在すら知らなかったのだろう。だが、


「……お母様は、無意識に秘術をかけ続けていたんですね」


 今の私には、そのような答えを出すことが出来た。

 今までの巫女は、国を護る力がなかったんじゃない。

 己が無意識にかけ続けている秘術の存在に気付くことが出来ないまま、死んでいっただけなのだと。

 その中で私は唯一初代の記憶の一部を有しているがためにその存在を知り、止める事もできる状況にある。


 初代は大地の神との契約で大地震を消滅させる術を得たのではなく、子孫の代まで代償を支払い続ける事でその大地震の発生を先送りにし続ける契約を交わした。

 そして数百年後の今、何らかの目的を達成するために転生という道を選んだ。

 そう考えると不思議と色々納得が出来てしまう。


 だとすれば初代は何故その事実を誰かに告げなかったのかという疑問は残る。

 まあこの結論が本当に正しいのは分からないし、確かめる術もないんだけれどね。

 それを思い出そうとしても記憶にブロックがかかっているような感覚に襲われるからだ。


 私はこれから、この国を守る秘術を解く。

 本当にそれが正しいのかは、未だに分からない。

 だけど、これだけはハッキリと言える。


 もしこのまま私が死ぬまで秘術をかけ続けたとしても、ランドロール家が報われる未来は待っていない。


 この王国にいる限り、それだけは間違いないだろうと確信していた。

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