第3話

「戻ったかリシア! 大変なことになったぞ!!」


 ひとまず家に戻って父を訪ねると、鬼気迫る勢いで父が口を開いた。

 その顔は焦りや怒りと言った負の感情を織り交ぜた酷いものとなっている。

 いつもの穏やかで物静かな父とはまるで別人のように思えた。


「王家より王太子殿下とお前の婚約を破棄するとともに、我がランドロール家の爵位剥奪すると言う通達が……」


「……お父様もご存知だったのですね」


 よくよく考えてみれば当然のことだ。

 これほど重大な通告を、現当主たるお父様を差し置いて私だけが聞かされるなんてことはあり得ない。

 とは言え父の様子から察するに、つい先程耳にしたばかりなのだろう。


「リシア。お前は知っていたのか?」


「はい。先程王太子殿下から直々に聞かされました。その事でお父様に相談をしようと思っていたのですが……」


「そうか。何かの間違いであって欲しかったのだがな……」


 落胆し、力無く椅子に腰を落とすお父様。

 ここまで来て仕舞えばもう「こんな無茶苦茶なことあり得るわけがないでしょう。きっと質の悪いジョークですよ」と笑うこともできない。

 避けようのない事実。

 ランドロール公爵家は今日を以って終わりを迎えるのだ。


「お父様」


「……リシア。お前も辛かっただろう。このようなことになってしまって本当にすまない……」


「いえ、お父様は何も悪くありません」


「元を辿れば初代『要の巫女』の名にしがみついて他に何か行動を起こそうとしなかった私達にも責任はある。今までのツケが回ってきたと言うしかないが、それにしてもあまりに急すぎる。これからどうすれば良いのだ……」


 頭を抱え、大きなため息を漏らす。

 今までの後悔と、これから先に対する不安。

 お父様の頭の中はきっとぐちゃぐちゃになっているに違いない。

 そんな中で不思議と私は冷静さを保っていた。


 それはもとよりアストラに対する愛情が薄かったからなのか。

 それともこれを現実の出来事と認めきれていないからなのか。

 あるいは――既に国を見捨てる覚悟が決まっているからなのか。


 人間、怒りを通り越すとかえって冷静になるものだ。


「……これからの事は私達の方で考える。一旦下がってくれ。とりあえず、時間が欲しい」


「お父様」


「頼む。私も少し整理がしたいーー」


「国を出ましょう。お父様」


 その言葉を受け、お父様はハッとなって私をまっすぐ見た。

 その視線を正面から受け、私は今一度「国を出ましょう」とハッキリと告げた。

 予想外の言葉だったのか、お父様は瞬きをし、なかなか次の言葉を絞り出せずにいた。


 

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