私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

あかね

第1話 巫女一族の追放

「――今、何と仰いました?」


 ある日の早朝。

 婚約者であるアストラ王太子殿下の部屋に呼び出された私は、彼の口から発せられた耳を疑う発言に問い返した。

 アストラ殿下は大きなため息を吐いてからゆっくりと口を開き、


「もう一度だけ言おう。リシア・ランドロール。君と私の婚約は今日を以って解消とし、同時に役目を終えたランドロール公爵家の爵位と巫女の座を剥奪する」


 そう、言い放った。


 正直意味が分からなかった。

 彼の言葉も、そしてそれが当然であると言った彼の態度も、何もかもが理解できない。

 

「……殿下、冗談はお止めください」


「冗談ではない。考えても見るが良い。ここ数百年、君たち『かなめ巫女みこ』がその力を発揮したことが一度でもあっただろうか」


「それは――」


「知っての通り我が国は今まで幾度も地震による被害を受けてきた。『要の巫女』は、その地震から我が国を護ることこそが使命なのではないか?」


「…………」


 そうだ。

 私の生家であるランドロール公爵家の祖先――後に初代『要の巫女』と呼ばれる一人の女性は、かつて大地の神と契約する事で地震を鎮める力を得、予言されていた大地震を防いだ――と言われている。

 それ以降、我がランドロール家は公爵家の地位を得て、そこに生まれた娘は巫女の座を受け継いできたのだが……


 どういう訳か本物の巫女としての力を有していたのは初代だけであり、初代が死んでから我らランドロール家は王国を地震の脅威から護ることはできていなかった。

 だが初代の決して巫女の血を絶やしてはならないという言葉に従い、ランドロール家は今日まで存続してきたのだ。


 この国は地震大国と言われるほど地震が頻発している。

 大都市が壊滅するほどの大地震は数百年間発生していないが、ここ数十年間は特に小・中規模の地震が頻発しており、その度に王家や他貴族から白い目で見られていたのは私も良く知っている。


「役目を果たさずに貴族の座に居座り続ける事。それは悪だと私は思う。故に爵位剥奪だ。この事については我が父である国王陛下も賛同しておられる。そして貴族として、そして巫女としての地位を剥奪された君と私が婚約を結び続ける理由もなくなると言うわけだな」


「ですが殿下、私は――」


「はっきり言わないとわからないか? 君たちはもう必要ない。初代の功績には既に十分報いただろう?」


「私は、もう必要ない……ですか」


「あぁそうだ。さあ、出て行ってくれ。私は忙しいのだ。これ以上君の相手をしている時間はない」


「そう……ですか。残念です」


 あまりに唐突で、あまりに一方的すぎる。

 しかしこれ以上この場に留まれる空気ではなかったので、私は部屋を後にする事にした。


 アストラ殿下は私に向けて、確かにこう言った。

 君たちはもう、私はもう、必要ないと。

 ハッキリとそう言った。


 今日に至るまで王国を滅ぼすほどの大規模な地震が発生しないように秘術をかけ続けていたのがこの私――初代『要の巫女』の生まれ変わりであるリシア・ランドロールだというのに。

 もし私が国を護る秘術を解けばこれまで王国を襲ったものとは比べ物にならないほどの被害が出る大地震が発生する。

 初代の力と記憶の一部を引き継いでいる私は、それを確信していた。


 でも、どうしようかな。

 私、必要ないらしいし、全て奪われちゃったし、護ってあげる必要なんてないよね?

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