第102話 水使いの女、ラーパとの戦い
ラーパと言う女は水の魔力を使って戦う。エクスが放った一閃はラーパに命中したが、まだ倒れる様子を見せない。アソパに近い存在の女だからか、それなりにやるようだ。
「クッ! やるじゃない。でもね、私の方が一枚上手よ!」
と言って、ラーパは杖を振り回して周囲に泡を発した。泡を見たエクスは魔力を解放し、大振りで剣を振るって風を放った。
「そんな泡、風さえ吹けば消えちゃうわよ」
「ただの泡だと思ってるようね」
「思ってないわよ。危険だから、寄せ付けないだけ」
エクスはにやりと笑いながらこう言った。その笑みを見たラーパは、泡を自身の腕に付着させた。
「しょうがないわねぇ。接近防止で放ったこの泡だけど……直接あんたらに放つしかないわね!」
そう叫んだ後、ラーパは腕に付着した泡をエクスとティノに向かって放った。ティノがバリアを張ったため、泡が二人に直撃することはなかった。だが、ティノはある光景を見て目を開いて驚いた。
「そんな! 泡がバリアを溶かしてる!」
(まさか、物を腐らせて溶かす泡なのか!)
俺もこの光景を見て驚いた。ラーパが放った泡には、物を腐らせて溶かしてしまう性質があるらしい。ここまでの性質を魔力で作るとしたら、相当な鍛錬と知識が必要だ。ラーパと言う女、俺の予想通りそれなりに強い!
「どう? どんなに分厚いバリアを張っても、私の泡が溶かすわよ」
「でもおばさん、私たちに泡を付着させなければ意味ないじゃない。そこんとこよーく考えなさいよね」
エクスはそう言って、ラーパの背後に回って攻撃を仕掛けた。エクスの存在に気付いたラーパははっとした表情をして後ろに振り向き、分厚い氷を作ってエクスの攻撃を防いだ。隙を突いた攻撃だったが、ラーパの反応速度が上だったか。あと少しでダメージを与えられたのにな。
「やるわねおばさん」
「おばさんおばさんうるさいわね! 確かに四十超えてるけど、心はまだ若いわよ!」
「そういうセリフはおばさんしか言わないわよ。心が若かろうが、実年齢はどうやってもごまかせない!」
エクスはそう言ってしゃがんで回し蹴りを放った。ラーパの足を崩すためにこの行動を行ったのか。
「キャアッ!」
ラーパは悲鳴を上げながら転倒し、それに合わせてエクスが剣を振り下ろした。
「グッ!」
攻撃を受けると察したラーパは、倒れたまま体を転がしてエクスの攻撃をかわしていった。
「悪あがきしない方がいいわよおばさん。無茶をすると、体にガタが来るわよ」
エクスはにやりと笑い、攻撃を続けた。いくら攻撃を続けても、行動を察しているラーパには当たらない。エクスはどうして無駄な攻撃を続けているんだ? 俺がそう思った直後、木が割れる音と共にラーパの体が下に落ちた。
「アギャァッ! グッ……」
そうか。エクスはわざとラーパの体が倒れたまま動くように仕向けたのか。そうすれば、いずれ床の腐食した部分にラーパが落ちるというわけか。こんな短時間でこの作戦を思い浮かぶとは流石エクスだ。
「グッ……ウウ……」
「観念しなさい。おばさん」
エクスはそう言って床にめり込んだラーパの左腕に向かって剣を突き刺そうとした。だが、甘かった。ラーパはエクスに向かって右手から氷柱を放った。間一髪のところでエクスは飛んでくる氷柱をかわしたが、氷柱はエクスの頬をかすっていた。
「悪あがきはしない方がいいわよって言ったわよね?」
「あんたの言うことなんて聞くと思ってるの?」
ラーパは魔力を解放し、高く飛び上がった。床から脱出するためにわざわざ魔力を使ったのか。だが、飛び上がった際に腐食した床の破片がラーパに刺さった。
「グッ……それなりに痛いわね……」
「歳を重ねると、自然治癒の時間が遅くなるって聞いたわよ」
「これ以上私の年齢をバカにすると殺すわよ。さっきのギルドの戦士みたいにね」
ラーパはそう言って、にやりと笑った。エクスはため息を吐き、魔力を再び開放した。
「あんまり私を怒らすことをおススメしないわよ、おばさん。両腕両足失っても、プッツンしないでね」
少しだけ本気を出そう。このラーパと言うおばさんは少しムカつく。ギルドの戦士を殺したというのもあるが、態度も喋り方も気に食わない。
「ふん。強いからってあまり調子に乗るんじゃないわよ!」
ラーパのおばさんはそう言って杖から再び物を溶かす泡を発した。私は風を発しながら泡の軌道を変え、ラーパのおばさんに接近した。
「泡なんて軽いわよ。弱い風で吹き飛ばせるんだから」
「泡がかわされるのは想定済みよ!」
そう言って、ラーパのおばさんは左手を開いて魔力を解放した。また氷柱でも出すのだろう。そう思ったとたんに、予想通りに氷柱が放たれた。
「フッ!」
私は剣を振り上げて飛んで来た氷柱を弾き飛ばしたが、ラーパのおばさんは続けて氷柱を発していた。
「早く氷柱であんたの腹を突き刺してやるわ!」
どうやら、泡で溶かすよりも私の腹を氷柱で突き刺したいようだ。そんなことを口にしたら、どう動くか分かるのに。
「あんた年の割にマヌケね。どうやって攻撃するかを口にして言っちゃうなんて」
私がこう言うと、ラーパのおばさんは驚いた顔をした。感情的になったせいで、思わず考えていたことがポロリと出てしまったようだ。
「クソッたれが!」
作戦がばれてしまったのか、ラーパのおばさんは慌てながら杖を動かした。今度は私を腐らせるつもりだ。
「おっと。腐って溶けるつもりはないわよ」
私は前に風を発し、その勢いを利用して後ろに下がった。風があるおかげで、泡は私に付着しなかった。
ラーパのおばさんは自分の思い通りにならないことに腹が立っているのか、顔を真っ赤にしながら荒く呼吸をしていた。
「おばさーん。そんなに顔を真っ赤にすると血圧上がるわよー。それに、カッカするとしわが増えるし、肌にも悪影響が出るわよー!」
「お前がそうしているんだろうがァァァァァ!」
私の言葉に対し、ラーパのおばさんは叫んだ。どうやら完全に感情に支配されているようだ。ということは、この勝負も終わりが見えた。
「クソガキが! お前だけは確実に私の手でぶっ殺してやる!」
ラーパのおばさんはそう言いながら、氷柱を私に向けて放った。私は剣を振り上げて氷柱を弾き、ラーパのおばさんを睨んだ。
「それで全力なの?」
「お望みならありったけの力であんたを殺してやるわ!」
と言って、ラーパのおばさんは体内にあるほとんどの魔力を利用し、鋭くて巨大な氷柱を作り出した。私はそれを見て、にやりと笑っていた。この笑みを見たラーパのおばさんは気に食わなかったのか、私を見て叫んだ。
「その余裕ぶった笑みを浮かべるのもこれまでよ! この氷柱で突き刺して血祭りにしてあげるわ!」
「悪いけど、あんたが私を倒すことは不可能よ。ティノちゃんのこと、忘れてない?」
私がこう言うと、ラーパのおばさんははっとした表情を浮かべた。私に挑発され続けたせいで、私一人しか見えていなかったようだ。ティノちゃんは私がラーパのおばさんを挑発し始めた時に行動を開始していた。こっそり動いて、ラーパのおばさんの動きを封じようとしていたのだ。
「今ですエクスさん!」
後ろからティノちゃんの声が聞こえた。ラーパのおばさんは後ろを振り返ったがもう遅い。ティノちゃんは雷の魔力を発し、ラーパのおばさんを感電させた。
「イギャアアアアアアアアアア!」
苦しそうな声を上げているが、火花の散る音がそこまでうるさくないからあまり威力がない電撃を流しているのだろう。まぁ威力はどうであれ、動きを封じることができれば問題なし!
「チェックメイトね。あんた、弱すぎるわよ」
「ち……ち……チクショオオオオオオオオオオ!」
ラーパのおばさんの情けない叫びを聞いた後、私はラーパのおばさんの両腕両足を斬り落とした。
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