英雄は剣となってかえる~剣に転生した英雄と覚醒する天才少女の新たなる英雄譚~
万福 刃剣
第1話 英雄と少女の出会い
英雄。誰かが俺のことをそう言った。俺はただ、自分の目的のために世界を旅して、剣を振るって無数の悪を斬り倒した。
俺はある情報を手にし、ファストと言う村に立ち寄った。この村にもギルド……モンスターや悪人を相手に戦っている組織はあるようで、俺はその村のギルドの施設へ立ち寄った。
「はい、らっしゃいませー」
受付のやる気のなき声が聞こえた。小さな村だから、大きな騒動がないのだろう。ま、平和であるという証拠だ。何もないのが本当にいいのだが。そんなことを思っていると、受付は俺の顔を見て驚いた。
「うっげェェェェェェェェェ! あなたは英雄、ヴァーギン・カリド! いくつもの裏ギルドを潰し、ギルドでも立ち向かうことができなかった凶悪なモンスターをいくつも討伐したあの英雄! どうしてこんなちっぽけな村に?」
受付の声を聞き、周りの戦士や村人が一斉に俺の方を注目した。はぁ、こうなるはずじゃあなかったのに。
「俺はある裏ギルドを追っている。その情報があれば欲しいのだが……」
俺はこう言ったが、受付は驚きのあまり固まっている。そんな中、ガタイがいいギルドの戦士が俺に近付いた。
「ほう。あんたが英雄ヴァーギンか。雑誌で見たとおり、色男じゃねーか」
色男ねぇ。野郎に言われてもあまり嬉しくないが、俺に絡んでくる以上、俺の腕を確かめたいのだろう。
「悪いが喧嘩の相手を探しにこの村に来たわけじゃない。他の奴を相手にしてくれ」
「つれないことを言うなよ。それとも、俺様に負けるのが嫌だってのか?」
相当自分の腕に自信があるのだろう。奴の腕の筋肉はボディビルダーのように盛り上がっていて、身長も俺より少し高い。だが、頭の中はどうだろう。
「負けるのが嫌? 俺とお前が戦ったらどっちが勝つか、答えは分かるはずだ」
「誰が勝つってのか?」
「俺だ」
挑発するように俺はこう言った。安っぽい挑発だが、これでプッツンしたら奴に脳みそはあまりないってことだ。
「ヘッ! 言ってくれるじゃねーか英雄さんよぉ! 調子に乗ってるとぶっ飛ばすぜェ?」
どうやら奴の頭の中に脳みそはあまりないようだ。こうなった以上、やるしかない。面倒だが。
俺と戦士は広場へ向かい、互いの武器を持っていた。奴の武器は大きな斧か。威力はあるだろうが、当たらなければ意味がない。
「英雄さんよぉ、今のうちに念仏を唱えておいておけよ!」
戦士は得意げに俺にこう言った。念仏を唱えるのはお前の方だと言いたいが、ここで奴を殺しても意味がないし、奴はギルドの戦士だ。そんなことをしてしまったらただの快楽殺人鬼と同じだ。俺はため息を吐きながら愛用の剣を手にし、奴を睨んだ。大体の奴は睨んだだけで怯んだり、戦意を失うだろう。強者の睨みと言うのは、相手の戦意を失わせる大きな武器にもなる。だが、奴には意味がないようだ。自分が強いとうぬぼれているか、俺が威圧を放っていることに気付いていないバカなのだろう。
「それじゃあ行くぜ、英雄さんよぉ!」
奴は大きな声を上げながら俺に迫ってきた。迫った時点で斧を構えているため、どんな攻撃をしてくるのか大体理解ができた。
「どォォォォォりやァァァァァ!」
気合の入った声だ。声と共に奴は斧を振り下ろしたが、動きが遅すぎる。歩いてでもかわせる。俺は歩いて攻撃をかわし、奴の背後に回って奴の首筋に剣の刃を当てた。
「これ以上動いたらお前の首を斬る。喧嘩を売る時は相手を考えろ」
俺の声を聞いた戦士は、斧を落とした。どうやら戦意を失ったようだ。これ以上変な騒ぎにならなくてよかった。そう思っていると、ギルドの受付がやって来た。
「すみませんでしたヴァーギンさん! 用があって来たんですね? ご用件を伺いますので、中へどうぞ!」
やっと本来の話ができそうだ。俺はそう思って剣を鞘に納め、受付の方へ向かった。先に俺がこの村に来た理由を話さないと。
ギルドの施設に入った俺は受付に話をしていた。俺がどういった理由でこの世界、フログリーンを放浪しているのか話をした。英雄になった理由も、全て話をした。
「そうでしたか。ですが、あなたが探している裏ギルドの情報はこの村にはありません」
「そうか、無駄足だったのか」
俺が望む情報はこの村にはなかった。少し残念だ。この村の周囲には何もないし、近くの町へ行くのにも徒歩で一日はかかる。日は暮れかけているし、今日は休むしか選択はない。俺は宿屋の場所を聞き、宿屋へ行こうとした。すると、このギルドのパーティーが戻って来たのか、少しだけ賑やかになった。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま戻りました……」
賑やかな声の中で、少女の小さな声が聞こえた。元気がないのか、ただ声が小さいのか分からないが、何かがあったのだろうと俺は思った。後ろを振り向くと、カウンターにはそれなりにいい装備をそろえた二人の戦士と、皮の軽鎧を身に着け、腰に一メートルほどの剣を携えた少女が立っていた。
「おいおいエクス。そんなに気を落とすなよ」
「お前はまだ初心者なんだから、ながーく仕事をすればいずれ慣れるって」
「でも……私のせいで皆さんに迷惑を……」
「ガッハッハ! そんなに迷惑じゃねーよ! お前みたいな奴を守るのが先輩の役目ってもんよ!」
どうやらエクスと言う少女が任務でしくじったようだ。あの二人は笑っているから大したしくじりじゃあなさそうだが、エクスと言う少女はかなり落ち込んでいる。多少気になるが、自分のことを考えよう。早く宿屋へ向かって休むとするか。
宿屋へチェックインした俺は食事をし、風呂に入り、時間を潰すためにテレビを見たり、雑誌を見たりしていた。だが、俺が欲しい情報はなかった。やはりメディアはそう言った情報を流さないか。見ていた雑誌を机の上に置き、くだらないバラエティー番組になったため、俺はテレビの電源を消してベッドの上で横になった。早寝早起きが健康にいいと思い、寝ようとしたのだが、外から少女の声が聞こえた。気になって外を見ると、そこには剣を振るうエクスがいた。依頼から帰って来たその日の夜に鍛錬か。剣士として、真面目な少女だ。俺はそう思いながら、エクスの鍛錬の様子を見ていた。
いつの間にか時間が過ぎていた。エクスの動きに無駄はなく、太刀筋に乱れはなかった。縦斬り、横切り、突き、どの基本的な動きも経験を積んだ俺でも立派な物だと把握できた。なのに、どうしてへまを起こすのか分からない。そう思っていると、エクスが俺の方を見た。どうやら気付いたようだな。
「ふぇっ! え……え? あなたは……」
「悪い。外の様子が気になって見ていた」
俺は窓を開けてこう言った。エクスは俺の顔を見て驚き、戸惑っていた。俺は外に出てエクスに話しかけることにした。
「君は確か、この村のギルドの戦士だな。こんな夜に鍛錬だなんて立派なもんだが、帰ってすぐの鍛錬はあまりよくない。着かれた状態での鍛錬は逆に体を痛める。すぐに休んだ方がいいぞ」
「そう……ですよね。うるさいと思いますし……英雄も起こしてしまいましたし……」
「大丈夫だ。俺は寝てなかったから」
俺はうつむいているエクスにこう言った。剣の腕はかなりある。天才と言えるだろうが……へまをするのは自分に自信が持てないからなのか? 俺はそう思い、こう言った。
「君はいい剣の腕を持っている。自信を持てば、君はいい剣士になれる」
俺はエクスに自信を持てるように言ったのだが、エクスはまだおどおどしていた。ふむ、どうやらエクスは自分に自信が持てない性格なのか。もったいない、もしかしたら俺よりいい剣士になれるかもしれないのに。
「とりあえず、疲れたら休むことだ。さっきも言ったが、疲れたままトレーニングをすると体がぶっ壊れる。無茶はしない方がいいぞ」
「分かりました。アドバイスありがとうございます」
と言って、エクスは頭を下げてギルドの施設の方へ戻って行った。まさか、こんな村で俺を越えるかもしれない剣士にあるとは思わなかった。
すぐに村から出て行こうと俺は思ったが、エクスのことが気になったためもう少しこの村に滞在することにした。エクスの剣の腕が気になる。俺はギルドに無茶を言ってエクスと一緒に依頼をさせてくれと言った。英雄の肩書のおかげか、俺のワガママはすんなりと通った。この時ばかりは英雄と言う肩書が役に立った。
「よ……よろしくお願いします!」
「ははは。そんなに硬くなるなよ」
緊張した顔つきで頭を下げるエクスに対し、俺はこう言った。他の仲間二人もエクス同様緊張している。うーむ。俺がいるせいでパーティー全体が緊張している。この状況はまずいなと俺は思ったが、いざとなったら俺が暴れればいいかと思った。
依頼はこの村周辺に生息するイカレオオイノシシの討伐。イノシシみたいなモンスターだが、頻繁に発情するため、やたらと数が多い。それに凶暴で雑食性。何でも食べてしまうからいろいろな所で被害が報告されている。俺もよく倒したもんだ。かなり倒しているが、絶滅危惧種に指定されていないから、人が分からないところで発情しているのだろう。厄介なもんだ。
「さて、この辺りか」
「はいそうです!」
俺の言葉を聞いた戦士の一人が気を付けの姿勢でこう言った。
「おいおい、そんなに緊張するなよ。緊張していたら本来の力が出せないぞ」
「はっ……はい!」
俺はそう言ったが、仲間の戦士もエクスも緊張の糸が切れていない。こんな状況でどうするか。そう思っていると、近くの草むらが動いた。どうやらイカレオオイノシシのお出ましだ!
「来たぞ!」
俺が声を出したと同時に、イカレオオイノシシが三匹ほど飛び出した。今回討伐する数は三十。とりあえず、この数だけ討伐すれば安心だろうとギルドが言っていた。だが、村から少し離れた所で三匹出てくるとは、もしかしたら三十匹以上倒す必要があるかもな。
俺はそう思いつつ、剣を振るってイカレオオイノシシに攻撃を仕掛けていた。いろんな所でイカレオオイノシシを倒していたが、この地域のイカレオオイノシシの皮膚は固い。魔力を使わずに剣を振るって攻撃したが、奴の皮膚から流れる血の量は少ない。ダメージが多ければ、血の量は多いはずだ。
「グッ、結構強いな、こいつら」
俺はそう言ってエクスたちに注意を促した。仲間の戦士は持っている槍を使ってイカレオオイノシシの顔を突いていたが、顔に攻撃されてもダメージを受けている様子はない。まさか、こんなに強いイカレオオイノシシと遭遇するとは思ってもいなかった。
「エクス、気を付けろ!」
仲間の一人がエクスに向かって叫んだ。俺は慌ててエクスの方を見たが、エクスは剣を持ってあたふたしていた。おいおい、あれじゃあ剣を振るえない。そう思っていると、イカレオオイノシシの一匹がエクスに向かって突進を仕掛けてきた。俺は急いでエクスを助けようとしたが、突如エクスの動きが止まった。まずいと思ったが、エクスはイカレオオイノシシを見ながら剣を構えていた。そして、イカレオオイノシシがエクスに接近した瞬間、エクスは剣を振るった。エクスが剣を振るった瞬間、まるで時が止まったかのように感じた。斬られたイカレオオイノシシは全身から血を流しながら、ゆっくりとその場に倒れた。エクスには剣の才能があると俺は思ったが、皮膚が硬いイカレオオイノシシを一閃して倒してしまうとは思ってもいなかった。
「こ……こいつはすごい……」
俺はエクスの剣の腕を見て、思わずすごいと呟いた。
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