終焉のためのハッピーエンド

葱巻とろね

魔王城にて

 ようやくだ。


 俺は目の前にいる魔王に向けて剣を振り下ろした。数多の敵を倒してきた俺に剣を振り下ろす抵抗など、微塵もなかった。故郷を燃やされ、仲間も殺され、数々の犠牲を生み出した怪物は足元でぐったりと横たわっている。俺は肉塊から少し離れて今を見る。呼吸は浅いが妙に落ち着いていた。


 伝説の剣は祠で見た光景と同じように真っ直ぐ刺さっている。城の豪華なステンドグラスからは光が差し込んでくる。先程までの暗く、陰鬱な雰囲気とは大違いだった。戦いの様子はあまり覚えていない。気が付けば魔王に剣を振り下ろしていたのだ。手にはそのときの硬い感触が残っていた。


 しかし、これでこの物語も幕を閉じる。俺は国を救った勇者として崇められるだろう。国民から歓声をもらえるのかもしれない。石像も作られ、名は永久に語り継がれる。きっと、綺麗な物語に装飾されるのだろう。


 だからなんだ。国には希望が戻った。が、俺は何もかも失った。戻る故郷も、喜び、慰めあう仲間も、憎しめる敵もいない。俺には生きる希望がない。ならば、自害した方が良いのではないか。


 俺は肉塊に刺さっている生臭い剣を引き抜いた。それは深々と刺さっていたようで、手こずってしまった。初めて剣を握った感触と似ていた気がした。体液が神々しい光を反射する。まるで俺を祝福しているみたいに。


 魔王討伐の物語に終焉を迎えるために。


 最後は勇者の死がふさわしい。


 俺たちの苦労や葛藤を知らない人々はこの物語をハッピーエンドとみるだろう。


 俺は剣先を見つめ自分を貫いた。


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