第81話 親との思い出

「うちの両親は、本ならいくらでも買っていいと言ってくれたんですよ」

 テレビのトーク番組で、俳優の黄原丈裕は言った。

 よく聞くエピソードではあるものの、微笑ましい話である。

 実は、この彼の親の発言は、本当に息子を思って口にしたものではなかった。

 丈裕は子役から活動をしており、冒頭のように人前で語られるのを想定したのだ。

 しかし、丈裕は幼い頃より芸能界にいるくらいだから賢く、その魂胆を見抜いていた。

「えー、ほんと? お父さん、お母さん、ありがとう!」

 当時、彼は書店で大喜びし、本をたくさん抱えて戻ってきた。

 それはすべて官能小説だった。

 以来、彼の両親は本のことは一切口にしなくなったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る