時計塔の鐘

 虹の橋と地上の間は、幾艘いくそうもの渡し舟が行き来していました。


 旅の間、渡し守は舟のさおを操りながら、良い声でうたいます。地上からの乗客たちはその歌を聞いて、ときには微睡まどろみ、ときには涙ぐんで、虹の橋の船着場までやってくるのでした。



 船着き場を出ると、気持ちの良い並木道が丘の上の街にまで続いています。

 街の入り口の門のかたわらには、大きな時計塔がありました。時計塔のてっぺんで鳴る鐘は、虹の橋の住民たちに舟の発着を知らせる重要な役目がありました。でも、ずいぶん古びて、もう昔のようには澄んだ音では鳴らなくなっていました。風向きによっては、鐘の音が街のはずれまで届かないことさえありました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る