また春に、会いましょう
それから何日かが過ぎて、春は日に日に濃くなっていく。
私の花も、次々と開いていった。
「すごいね! 満開だ!」
朝、少女が駆けてきて、ぱっと顔を輝かせた。
「八重桜さん、こんなに綺麗だったんだね」
風がふわりと吹いて、花びらが舞い上がる。
彼女の髪に、そっと一枚の花びらが落ちた。
それを指で大切そうに取ると、胸にあてて言った。
「来年も、また咲いてくれる?」
私は答えられない。
声は持たないから。けれど――
心の中は、やさしい光で満たされていた。
少女の手が、そっと幹に触れる。
毎朝のようにそうしてくれていたあのぬくもりが、今も変わらず、私を包んでくれる。
その夜、小鳥さんが枝に降りてきて、月明かりの下で、小さくさえずった。
「今日は、とても幸せそうだったね、八重桜さん」
「はい。たくさんの人が見てくれて、あの子も……とても嬉しそうで」
「それが、君の花の力だよ」
「……力?」
小鳥さんは小さく笑った。
「君の花は、人の心をやさしくする。
見上げる人たちの目に、光を灯してくれる」
「そんなふうに、思ってくれるんですね」
風が、枝を揺らす。
月の光の中で、花びらがひとひら、またひとひらと舞ってゆく。
「そろそろ、お別れの季節だね」
小鳥さんが静かに言った。
「……はい」
私は静かにうなずいた。
けれど、寂しくはなかった。
花が散ることも、終わりではなく。
また巡りくる春のはじまりだと知っているから。
私は、少女の「また来年」という言葉を、心の中で大切に抱いていた。
花は約束のように咲き、風は思いを運ぶーーー。
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