八重桜

安部 真夜

八重桜

 うららかな気候の中、芽吹いていく花や草木。

 小鳥は歌い、風は私を撫でていく。 そんな素敵な季節。

「八重桜さんおはよう」

「染井吉野さん、おはよう」

 少女は通学路に立つ私たちに話しかけた。

「綺麗だなあ…」

 染井吉野さんを見上げてうっとりする少女。

「八重桜さんは、もう少し…だね」

 そう言うと、優しく幹を撫でてくれる。

「また来るね」

 そう言い残すと少女は歩き始めた。


 私は八重桜。 春の陽気の中でもまだ、つぼみを開かず。

 周りは次々に花を開くのに、私だけ取り残されたまま。

 なぜ咲けないのだろう、と悲しくなる。

「八重桜さん、そんな顔をしてどうしたの?」

「小鳥さん。 私は何で咲けないのかな」

「君は周りと違ってゆっくりだからね。

 でも大丈夫。君の枝は居心地がいい、私はそばにいるよ」

 その言葉を聞いて、少しだけ気持ちが楽になった。


 ゆっくりと、ふわふわと。 春の陽気の中で、夢を見るように花開くのを待つ。

 次々と咲くみんなを見て、少し戸惑いながら。 まだまだ夢を見続ける。

<続く>

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