第4話

だけど、相手も不良で「こっちも悪かったから、勘弁してやるよ」といった男や女は多かった。




喧嘩といっても、ムカついた奴を少しだけ殴るだけさ。

姉貴も知ってればいいんだよ。

けどなぁ……。

要するに相手も怪我するし、おれも怪我して仲良くなるんだ。


どうして怪我してまで?

という私の問いに。


妹の静子はそれを無視して。

拳よりおれはバットの方が得意なんだ。こう相手の顔や身体にだな。手加減してだな。


そんな物騒なことを、妹の静子は楽しそうに話していた。


私は正直、妹の静子が好きだったのだろう。妹と謝りに行った帰りに、心底疲れていてもクスリと笑う時があった。




通り過ぎる車両が、いつの間にか少ない道路に面した公園の片隅で、西野くんは疲れを感じさせない顔で言った。


「もうそろそろ帰ろうか。遅くなったし。でも、その前に何か買っていこうよ」


西野くんは自動販売機を指差し、百円玉を数枚財布から取り出した。


「ありがとう」


もう、夜の12時だ。

今にも厚い雲が落ちて来そうな曇り空だった。


百円玉を持って、自動販売機に向かう西野くんの動作がこちらを向いて、ぴたりと止まった。


「お前。静子の姉だろ? 」


「え?」


私が振り向くと、数台のバイクから特攻服を着た男たちの一人が、私の肩を掴んで強引に引っ張りだした。


「お前。うちの所によく謝りに来てたよな? 静子は喧嘩の途中に邪魔ばかりしやがるからムカついてんだよな」


じわじわと男たちが集まってきた。


すぐに柔道部の西野くんが、特攻服の男たちに向かって、大声を張り上げて助けに走り出してくれた。だが、あっという間に、特攻服の男の一人が西野くんを羽交い絞めにしてしまう。


私の靴を舐めている子猫が、「シャー」と鳴いて急に男たちの間に割って入った。



不思議なことが起きていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る