権力を持たせるな!

 町の小学生の憧れの仕事が、ゴミ回収業者。


 これが、第一の女性だけの町の実情だった。


 第一位とまでは行かないにせよ、常に上位に食い込んでいる。



 これはみんなの仕事を下支えするからとか言う崇高な目的ではなく、お金目当て。

 町議会から交付される、多額の補助金ありきのお話。

 確かに町を作るに当たり重要だったのはわかる。しかし、一体何年経っていると言うのか。


 いつまでも恩にすがり付き、新たな段階へと進もうとしない。

 世界を変えるべく作られた、最先端のはずなのに。

 自分たちのような後続が出るのを待っていたはずなのに。

 旧態依然もいい所ではないか。







「尾田議員」

「第一の女性だけの町においては体力を持った存在が上流階級となり、そうでない存在は下層階級と言うはっきりとした階級社会が既に完成しています。いくら子どもの素質は全くの運次第とは言え、子どもを多く持てるのは体力ばかり大きくなった層です。子どもが多いと言う事は影響力の大きさにも正比例し、その悪影響をまともに受けてしまいます」


 町議会での町の魅力を広めるにはどうすべきかと言う議論が、いつの間にか綿志賀議員の第一の女性だけの町への非難になっている。議決が終わり議員報酬の削減案と第一の女性だけの町への勧告要請を行うと言う案を共に可決させたのにも関わらず、尾田兼子の演説はちっとも止まらない。

 そして誠々党はおろか真女性党の議員さえも、完全に本来の目的を逸脱し時間すらオーバーしたはずの演説に何も突っ込もうとしない。相手の発言が終わるまではと言う極めてもっともな社会のルールに従っていると言うには、あまりにも静かすぎた。


「ですから、我々は!一刻も早く政治体制、いや経済体制を改める事こそが必要であると第一の女性だけの町に向かって提言すべきであると考えました。それこそが、真に女性を守り、本来の形での女性だけの町を作る第一歩となるのです!」


 そして演説が終わったと同時に、両党から満場一致で賛意を示すように拍手喝采が発生する。争いごとなど何もない、平和な議会だった。



「尾田議員。先ほど第一の女性だけの町への陳情を行う旨可決いたしましたが、これから内容に付いて両党で詰める事になるのでしょうか」

「それは無論です」

「しかし現状、と言うより数年間にわたりこの諫言行為は行われて参りました。ですが一向に第一の女性だけの町が我々の言葉を聞く様子はありません。むしろ逆に私たちが変わるべきであると逆提案されるばかりです」

「その時は無論、幾たびでも同じ事を繰り返すまでです。我々は決して議論以外で争ってはなりません、女だけではなく世界そのものを変えるに値する存在らしくすべきであると何度でも何度でも訴えかけるまでです」

「第一の女性だけの町が、禁書とでも言うべき書物を秘かに輸入しているのを諫言したのはおよそ五年前です。それから第一の女性だけの町は変わっているのかいないのか、その事をまず精査すべきではないでしょうか」


 その平和を崩す議員の挙手からの発言にも、兼子はご機嫌だった。

 実際、第一の女性だけの町へのその方向の提言はこれまで何十回と行われて来た。だがそれに対する第一の女性だけの町の回答の大半は「検討します」と言う名のゼロ回答であり、そうでないとしても現在選挙中に付きとかテロ事件の後始末中でとか言う理由で聞き流された。まともに届いた言葉は、外の世界に蔓延する過剰な性欲発散装置を持ち込まないと言うそれぐらいだった。

 だが、それすらも現在進行形で破られているかもしれない。


「その件については私も聞き及んでいます。何でもエンタメ施設において、その手の存在を激しく殴打するそれがあるとか」

「ええ。しかしそのための禁書をわざわざ輸入するなどとても考えられません。それこそ醜いオトコを的とすれば良いのではないでしょうか」

「その論旨も加えておきましょう。ああもう一つ、海賊版の出版者及び所持者に対する罰則強化の要請もですね」



 実際、第一の女性だけの町においてアンダーグラウンドエンタメ施設と言う名の国家黙認施設のネタとして、いわゆるコミックマーケットで売られているような同人誌が秘かに輸入されていた。

 そこに出て来た過剰にディフォルメされた美少女やそんな女たちを愛でる事しかできないような醜悪な男を人形に投影し思いっきり殴らせると言う次第であり、字面としては実に野蛮だ。


 いやそれどころか女性だけの町が出来た最大の原因として多感な時期のはずの大学生に読ませ、思想に最大級の危険物を入り込ませる。

 そしてこともあろうに、金銭目的でその禁書の海賊版を作り秘かに売り捌く人間までいると言う。



 暴力行為であるとか言う以上に、あまりにも性欲まみれかつ金銭欲まみれ。


 どう考えても、その種は外の世界であふれかえるその代物であり、それ以上に厄介なのはそれをわざわざ持ち込む方ではないか。


 その厳然たる事実こそ、女性だけの町が未完どころか奇形になってしまった証明である—————。

 何とかして本来あるべきそれに戻さねばならない—————。


 その目的で一致していたこの議会には、真女性党も誠々党もなかった。

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