富裕層の実情
農業や水産業などの資源の生産と狩猟を主とするのが、第一次産業。
第一次産業で生産された物を加工・生産するのが、第二次産業。
そして第一次産業や第二次産業で生産された商品を売買するのが、第三次産業。
一般的には、そういう分け方になっている。
だが第一の女性だけの町における「第二次産業」には、水道やガスなどの工事はともかく他のインフラ整備や、明らかに第三次産業であるはずの「トイレ掃除」や「ゴミ回収業」さえも含まれている。トイレ掃除やゴミ回収業の理屈としては建物や町の内部を「きれいに加工している」からだとなっているが、同じようにゴミ処理業者までとなると完全に偽装行為である。
その証拠に清掃業でもオフィスやハウスのクリーニング業などは第三次産業扱いであり、所得もトイレ掃除に比べかなり安い。もちろんそれらの職種の人間がトイレ掃除をする事も多々あるが、ほとんどの場合エース社員がする仕事扱いであり入社ひとケタ年目の社員ができるそれではない。無論仕事が下手ならば役目を取り上げられ給与にも響くから、トイレは常にキレイにされる。
ゴミ処理業者だってまたしかりだ。ゴミ処理業者とか言った所で実際にゴミ捨て場に向かってゴミを回収する人間は社内の一部であり、処理場勤務の人間やスケジュールを組む人間、もちろん事務員もいる。
そして清掃業と同じく、会計課の課長よりヒラの回収担当の方が高い給与をもらっていると言う話はちっとも珍しくない。それこそ同世代どころか上世代まで我も我もと現場勤務を願い、少ない席のキャンセル待ちを狙っている。労災などで現場が出来なくなると待ってましたとばかりに争いになり、その席を手に入れた人間は放すまいと仕事を張り切る。
(そうしてゴミ処理業者と言う名の体力馬鹿の集団が出来上がった……!)
当然ながらそのために皆日ごろからひそかに体を鍛えており、当然の如く身体能力は上がって行く。
そこにいるのは「強い女」ではなく、金に目のくらんだ醜い女。
そんな存在がはびこる第一の女性だけの町に、未来などない—————。
「皆さんは、この世界を守る存在です。暴力行為を行わず、相手の事を慮れるように世界を導くべく、世界中の女性を説いて回るのです」
電波塔の朝の挨拶。
外部勢力の侵入を阻止する「十五階」以外に勤務する人間の大半がその挨拶を聞いて仕事を始める。
彼女たちは「十五階」には及ばないがエリート中のエリートであり、この町の中でもっとも優秀な人材の集まりである。
そして年齢層は上は六十代前半から下は大卒一年目までバラバラにわかれており、それでいて年齢ごとの職務の差はない。ある意味公平で、誰にも門戸の開かれた素晴らしい職場だった。だがそれでも、争いがゼロと言う事はなかった。
「今日は三班に負けないようにしましょうね!」
二班の班長の言葉と共に、社員たちが右手を大きく上げる。仕事開始の合図だった。
各班だけでなく班内でも競争を行い、より戦果を挙げた人間を昇進させる。文字通りの出世競争だった。
「まったく…」
「まったく?」
「いえ、どうしてこうも醜悪な女たちが多いのかと」
彼女たちの主な仕事は、外の世界で繁茂する雑草を取り除く事。
今日目を付けているのは、あるお絵かきサイトの、動物を擬人化した絵。
しかもその動物は、ギャンブルの対象物である。
「動物を賭け事の対象にするだけでも言語道断、いや賭け事の時点で言語道断なのに!と言うかこのタイトルも言い草も言語道断!」
言語道断とか三度も言いながら、年齢制限のないイラストを選びクリックする。
その動物の特徴を得た少女たちが、仲良く食事をとるだけのイラスト。片や真っ白な髪をした方が常人の数倍の量の米飯をよそい、片や茶色い髪をした女性が三十品目を揃えるようにきっちりとしたメニューを運んでいる。なんともほほえましい日常を描いたはずのそれに対し、二班の女性は右下のスペースを押し、問題ありと言う報告を行う。
「彼女」たちは、本来「オス」なのだ。それをわざわざ「メス」の姿にして描くなど、悪趣味にもほどがある。
無論元々メスだからと言っていいと言う訳ではないが、そんな色欲に塗れた代物を嬉々として描いた上にタイトルが
「日常:それぞれの幸福」
その下の文が
「ああここにまざって一緒に飯食いてえ」
である。
男の、450キロを超える生物に交じって飯を食いたいなどどんな素っ頓狂な輩なのか。現実逃避にもほどがある。
しかもよく見ると描いた輩が付けたとは思えない「なにこれいいじゃん」「平和な世界」「俺もまざりたい」とか言うフレーズまである。
見ているだけで気分が悪くなるのをこらえ、キーボードを全力で打ち込む。
「閲覧者の空腹を無暗に煽るそれであり過食から来る健康被害を誘発する危険物であると判断します。よって全年齢対象とはとても呼べず、何らかの制限をかけるべきであると考慮いたします」
こういう文を、サイトの運営者に送る。
これが、電波塔の職員の仕事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます