最推しのVtuberが隣に住む腐れ縁の幼馴染だったことが判明しました~不健康すぎる生活をしているようなので推し続けるためにお世話をしようと思います~
カムシロ
第1話 最推しVtuber夏音花火
大学の授業が終わり帰り支度をしていると声をかけられる。
「
顔を上げると近くに2人の女子生徒が立っている。
露出度の高い服装に、派手な化粧をしている2人だ。こう言った派手目の格好をしている人には少し苦手意識があるので、話しかけられたことに動揺してしまう。そんな俺にお構いなしに無駄に大きな声で話を続ける。
「この後みんなで遊ぶ予定なんだけど、碧海君も来てよ! 他にも男の子達いるしさ」
「今日はバイトなくて暇でしょ?」
この2人には以前にも誘われたことがある。何度も断っていたが、流石に申し訳ないと思い一度だけ一緒に遊びに行ったことがあるが、正直後悔した。
ノリは合わないし、終わってからかなりの疲労感を感じてしまった。
なので断ろうとしたが、その矢先に隣にいた女子が断りづらくなるようなことを言う。なんで俺の予定を知っているのかわからない。
「なんで、今日バイトないって知っているんだ?」
「えー? だって堀内くんが言っていたよ」
堀内は同じバイト先の友人だ。堀内自身には悪気がないと思うが、今は文句の一つも言ってやりたい気持ちになってしまう。
「あー……たしかにバイトはないんだけど、先約があるんだよね」
「ふぅーん……先約って彼女?」
「違う。そもそも俺に彼女なんていないよ」
「そっか!」
何が嬉しいのか物凄い笑顔だ。そして隣の女子とコソコソと耳打ちをして笑い合っている。
そんな姿を見て何とも言えぬ居心地の悪さを感じてしまう。
ちらりと時計を見るともう時間がない。今日は最推しVtuberの
『夏音花火』は色々と嫌なことが重なりかなり精神的に辛い時期にたまたま出会った運命の人なのだ。
彼女の声はどこか落ち着くし、コロコロと変わる感情がとても可愛いと思っている。
それに純粋に配信が面白いのだ。貧乳ネタのようなものもノってくれたりとノリが良くリスナーとの掛け合いも最高だ。さらに頑張り屋さんであることが配信から伝わってきて応援したくなってしまうのだ。
とにかく夏音花火は俺の最推しなのだ。
精神的に辛かった時期でも彼女の配信を見ることで、嫌なことも忘れることができた。辛い時に俺に光をくれた彼女は僕の人生にいなくてはならない人物となっているのだ。
バイトをしているのも夏音花火のためだったりするくらい彼女の存在が俺の生活の一部となっている。
当然のことだが、配信がないときはアーカイブを見て『夏音花火』成分を補充している。本当なら毎日会いに行きたいので配信してほしいと思ってしまうが、毎日配信は疲れてしまうだろう。毎日会いたいという気持ちと同じくらい推しには無理をしてほしくないのだ。
今日は二日ぶりの配信だし、いつもよりも少し早めに始まる。予定通りなら急いで帰れば間に合うのだが、この2人に捕まってしまったせいで結構ギリギリの時間になってしまっている。一刻も早く帰りたい俺は荷物を手早くまとめ目の前にいる2人に言う。
「悪い。もう時間ないから帰る」
「「えぇー!」」
不満そうにする2人から逃げるように教室を立ち去る。教室から出て少ししたところから彼女達の無駄に大きい声のせいで話し声が聞こえてくる。
『あーあ、碧海くん来ないなら今日の合コンキャンセルでよくね?』
『それな! 碧海くん以外イケメンいないし。イケメンがいないのに遊ぶ意味ないし』
『碧海くん誘うためにわざわざ集めたのにねー』
『はぁ、他の男に連絡するのめんどいし2人でこのままどっか行こうよ』
『いいねー!』
思わず足を止めて2人の話を聞いてしまったことに後悔する。いつもそうだ。周りに来る女の人たちは俺のことなんて見ていない。所詮お飾りかアクセサリー程度にしか思っていないのだ。そのことは元カノの件からよく分かっている。それなのに虚しい気持ちになってしまう。
頭を振り思考をリセットする。あんな人たちに関わっているだけ無駄だ。現実の女なんてそんなものだ。少なくとも俺の周りに集まってきた人たちはそんな感じの人たちばかりだった。
あんな人達と一緒にいるよりも、花火ちゃんの配信を見ていた方がずっと楽しい。それに配信がなくてもアーカイブがあればずっと一緒にいられるのだ!
時計を確認するともう時間がない。最推しに会うために家まで走った。
◆◆◆
大学からようやく家まで帰って来れた。いつもなら大した距離ではないが、急いでいるとかなり長く感じる。
家に入ろうとしたところで、ふと隣の家を見る。
隣に住んでいるのは幼馴染みの
……でも、もうは長い間彩音の姿を見ていない。
高校に入ってすぐの頃だった。突然彩音は学校に来なくなってしまった。理由はわからない。本当に突然だったのだ。最初の頃は体調不良で休んでいるのかと思ったが、何日たっても彩音がそれ以降学校に来ることはなかった。心配して何度か彩音の家に行ったが会うことさえできなかった。
それからずっと疎遠になってしまっている。
「彩音……元気にしているかな……」
彩音の部屋の電気はついているのを見かけるので大丈夫だとは思うが……やはり心配だ。
でも、昔家を訪ねたときに会うことも出来なかったことからなんだか拒絶されたように感じてしまい、それから足が遠のいてしまっている。何かきっかけがあればいいのだが……
俺はいつものように彩音の家を横目に家に入る。時計を見るともう配信が始まってしまっている時間だ。
急いで自分の部屋に行きパソコンを起動させる。起動時間ですら惜しく感じてしまう。
『こんハナ~! 今日はゲーム実況をしていくよ!』
はやる気持ちが抑えきれず幻聴まで聞こえてしまっている。いつものあいさつに配信内容、ずっと見てきたおかげで冒頭は完璧に想像できてしまう。これも推しへの愛がなせる業だ。
『そういえばみんな聞いてよ! ガチャでほしいキャラ一発で引きあてたんだよ! すごくない?!』
「うん?」
幻聴と思っていた声がさらに聞こえてくる。
さすがに何度も見ているからといったって聞いたことない会話の幻聴が聞こえてくるなんておかしい。
それに幻聴というよりかはまるで遠くの声が聞こえてきているような感じだ。
不思議に思った俺はあたりを見回し声のする方向を探す。
「……外からか?」
俺は立ち上がり窓の方へと向かう。恐る恐る窓を開ける。声がさっきよりも大きく聞こえる。そしてあることに気が付く。いつもしまっている彩音の家の窓が開いている。
次の瞬間風が吹き彩音の家のカーテンがめくれ上がった。その光景がまるでスローモーションのように感じられた。部屋の中が見える。そこにはまるで配信者のように複数のモニターの前に座る彩音の姿。そして昔よく遊んでいたときのようなキラキラとした楽しそうな笑顔。
久しぶりに見た彩音の姿は俺に衝撃を与えた。でも、それ以上に衝撃だったのは彩音の部屋から聞こえてくる声が俺の最推しVtuber『夏音花火』の声だったのだ。
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