第95話 消えたエミルの行方
再会した父と娘が固く抱き合っている。
会わずにいたのはたった数日のことだというのに、
ボルドはやさしく娘の肩に手を置くと、戦いによって痛々しく
「プリシラ。苦労したんだね。エミルを守るために必死に戦ってくれたんだろう? 立派だよ。無事で良かった」
父の優しい言葉にプリシラは思わず涙が
強く張り詰めていた心の糸が緩んでほぐれていく。
親元を離れて1人立ち出来たと思っていた。
だが、プリシラは自分が
今、彼女は幼い頃の娘に戻ったようで、しゃくり上げながら父に思いの丈をぶちまけた。
「父様。違うの。立派なんかじゃないの。アタシがビバルデでエミルを連れて勝手な行動をしなければ、こんなことにならなかったの。それに、ここまでくるのにたくさん助けてくれたジャスティーナが敵にやられて……アタシ、自分で思っていたほど強くなくて、さっきだってチェルシーを相手に全然
震えながら言葉を重ねる娘の背中をボルドはやさしく
いつの間にか父の背丈を超えて大きくなった娘は、それでもまだ幼さを残していた。
ボルドはプリシラの背中をポンポンと軽く叩く。
「プリシラ。たくさん話したいことがあるだろう。だけど少し待っていて。彼の手当てをしないと」
そう言うとボルドはプリシラを放し、背負っていた
そして
「ジュードさん。傷を見せて下さい」
「いえ、そんな……それよりエミルを探しにいかないと」
「その傷をそのままにはしておけません。まずは手当てを」
「……きょ、恐縮です」
そう言って頭を下げるジュードにボルドは
「そんなに
そう言うとボルドは手際よく、
そんなボルドの様子を見ながら2人の女戦士はプリシラの元へ歩み寄る。
そして1人がプリシラの頭を優しく
「プリシラ。だいぶ手ひどくやられたな。生きていて良かったぜ」
「ベラさん……」
「……チェルシーに立ち向かったそうだな。それでもこうして生き残っただけで、とりあえずおまえは負けてない」
「ソニアさん……」
ベラとソニア。
その名前をプリシラから聞かされていたジュードは、まじまじと2人の戦士の顔を見つめた。
ベラというのは短めの赤毛を肩の辺りで切りそろえ、左目に黒い眼帯をしている。
そのベラよりも
(あの2人が……ジャスティーナの
2人の赤毛の女たちが女王ブリジットの夫であるボルドやその娘であるプリシラに対して
プリシラは幼い頃からこの2人からも娘同然にかわいがられていたという。
その言葉の通り、2人に会えたことでプリシラは心底ホッとした様子だった。
「しばらくは動かしにくいと思いますが、まずは出血を完全に止めましょう。左腕は出来るだけ使わないで下さい」
「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ。それよりもあなたの相棒の方は……子供たちを守るために……。どうお
そう言って頭を下げるボルドだが、ジュードは首を横に振った。
「お
ジュードは決然とそう言った。
まだ13歳の時に王国を捨てて放浪の旅をする中で、多くの困難があったが、それでも困っているジュードを助けてくれる人たちがいた。
見返りを要求してくる者も少なくなかったし、ジュードの
それでも中には何の見返りもなく、ただ善意で助けてくれた者もいた。
そんな放浪生活の中でジュードは決めたのだ。
自分で助けられる範囲の者は、善意を持って助けようと。
あのまま
そうなれば自分のせいで死んだ人もいたはずだ。
そういう人生を歩まずに済んだのだから、逆に誰かを助ける人生を歩んでみたいとジュードは思ったのだ。
「俺の相棒、ジャスティーナも似たような理由で行動を共にしてくれていました。彼女も後悔はしていないはずです」
そう言うとジュードはジャスティーナがどのような最後を
ボルドはそれを聞き、辛そうに目を
ジャスティーナと共に過ごした日々を思い返すと、ジュードは涙が出そうになる。
今は彼女を見つけてやりたかった。
たとえどんな姿になっていても。
「本当はエミルのこともあなた方の元へ送り届けたかったです。でも、ここから先はあなた方にお任せします。俺は相棒を見つけにいきます」
そう言うとジュードはプリシラに目を向けた。
「本当はビバルデまでの約束だったけれど、御父上とも再会できたし、ここまでだな。プリシラ。短い間だけど、共に旅が出来て楽しかった。俺はジャスティーナを探しに行くよ。君はエミルを見つけてやってくれ」
彼の言葉にプリシラは思わず目を
「ジュード。エミルは……誰かに
彼女の言葉にジュードとボルドは顔を見合わせる。
そしてジュードは残念そうにプリシラに目を向けた。
「プリシラ。俺は今、エミルの力を感じないんだ」
「私も先ほどからエミルの気配を探ろうとしているんだけど、消えてしまっているんだ。おそらく気を失っているんだろう」
ジュードと父の言葉にプリシラは落胆する。
そんな娘を見てボルドは即座に方針を決めた。
「プリシラ。まずは私と君とソニアさんでこの近辺を探そう。エミルの足跡が見つかるかもしれないし、きっと何かの手がかりが見つかるはずだから」
その話を聞き、不満げに口を
「アタシは仲間外れかよ」
そう言うベラにボルドは苦笑する。
「ベラさん。申し訳ないのですが、ベラさんは一旦こちらのジュードさんと共にジャスティーナさんを探してあげてくれませんか。とりあえず夕方まで探して見つからなければ再度この場所で合流しましょう」
ボルドの話にジュードは感謝して頭を下げた。
確かにもしジャスティーナが川底に沈んでいたりしたら、ジュード1人では大柄な彼女の体を引き上げられない。
同じダニアの
「感謝します。ボルド
「ボルドでいいですよ。では、後ほど」
そう言うとボルドは娘とソニアを
それを見送ると若干だが
「さ、アタシらも行くか。ジュード……だっけ?」
「はい。よろしくお願いします。ベラさん」
「ベラでいい。敬語もやめてくれ。
そう言うベラに感謝の笑みを浮かべて
戦いの中に散っていったジャスティーナを見つけるために。
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