第94話 対面
「俺はジュード。王国の生まれで、今は国を捨てて放浪の身だ。旅の途中で偶然にダニアのプリシラとエミルに出会い、ここまで行動を共にしていた」
ジュードのその話に女戦士は片方の
こっちに来いと。
それを見た黒髪の男性ともう1人の大柄な赤毛の女が岩橋を渡って近付いてきた。
「こいつ。プリシラとエミルと行動を共にしていたんだとさ」
その言葉に
彼は臆することなくジュードの目の前に歩み出ると一礼する。
「私はダニアのボルド。プリシラとエミルの父親です。子供たちがお世話になったようですね。まずは御礼をいたします」
女王ブリジットの夫でありながら
「子供たちは今どこに?」
穏やかな口調ながら、ボルドの目には真剣に子供らの身を案じる不安な色が
親の顔をした彼に
「プリシラとエミルは……2人でチェルシーと戦っていましたが、撤退する彼らを追っていきました」
その話にはボルドだけではなく女戦士2人も
ボルドは努めて冷静な口調でジュードに問いかけた。
「2人とも無事なんですね?」
「はい。戦いで傷付いていはいますが、2人とも無事です」
「チェルシーと言われましたが、それは……」
「王国軍のチェルシー将軍です。俺がプリシラたちと出会ったのはアリアドでのことなのですが、そこを占領していたチェルシーの部下に目をつけられたようで、2人の身柄を
その話に女戦士たちは厳しい表情で顔を見合わせ、ボルドも表情を曇らせた。
「王国軍の公国侵略には共和国も懸念を示しています。その同盟国である我らダニアも同様です。チェルシー将軍がわざわざプリシラたちを追ってきたというのは、親としてだけでなく、ダニアの一員としても見過ごせません」
そこで我慢できずに背後の女戦士の1人が
「おい。ジュードとか言ったな。プリシラとエミルが2人でチェルシーと戦ったとか言ったが、エミルは戦うことなんて出来ねえぞ。デタラメこいてんじゃねえのか?」
「……俺も
そう言うとジュードは横たわる3人の白髪の男らの遺体に思わず目をやった。
それを見た女戦士らは
3人の遺体のうち2人は無残に
そしてもう1人は両目を
いずれもむごたらしい死に方だ。
女戦士たちは3つの遺体を見下ろし、とても信じ
「こ、こいつらを……エミルが?」
彼女たちの
あの気弱で穏やかなエミルがこれほど残酷な所業を出来ると誰が思うだろう。
まだわずか10歳の少年の手では、とても行えないような
だが、この中でただ1人、この状況を予見していた人物がいた。
エミルの父のボルドだ。
「……エミルはおよそ250年ぶりに生まれた女王の息子です。私の妻である7代目ブリジット以前に男児を出産したのは初代ブリジットまで
ボルドは勤勉な男として有名で、今ではダニアの歴史に誰よりも精通している。
ダニア本家の女王には代々、ブリジットという名が
今の女王である第7代ブリジットにも幼名であるライラという名前がある。
そしてプリシラもいずれは第8代ブリジットの名を
ブリジットの血脈は代々、一子相伝で女児が1人だけ生まれて来た。
第2代~6代のブリジットは1人として男児を産まなかったのだ。
もともとダニアは8割ほどの確率で女児が生まれる特殊な血族であるため、それは決して
むしろ女王に息子が生まれること自体が例外中の例外なのだ。
「まさか……あの
女戦士が言ったのはダニアに古くから伝わる伝承で、その真実性は今となっては定かではない話だった。
ボルドは静かに
「初代ブリジットの息子エルメリオは普段は温厚な性格だったそうですが、
その伝承はダニアの民ならば誰もが知っている。
ボルドはエミルの身に今、宿る者の話は皆にはしなかった。
その話はボルドとブリジットしか知らない話だからだ。
他の者に話してもおそらく理解は難しいだろうし、
「何にせよ、幼いエミルの体では激しい戦いには耐え切れません。早く止めなければ……」
そう言うとボルドはエミルの気配を探ろうとする。
だが、先ほどまで肌を刺す様に感じていた黒い気配が、この岩橋に
エミルの身に何かが起きたのではないかとボルドは
ちょうどその時だった。
岩橋の向こう側、山の尾根を下る道の脇にある茂みの中から1人の人影が出て来たのだ。
それは美しい金色の髪を持つ少女だった。
その姿を見たボルドはハッと息を飲み、思わず駆け出していた。
探していた少女のその名を叫びながら。
「プリシラ!」
そう。
姿を現したのは娘のプリシラだったのだ。
ボルドの声にプリシラはビクッと体を震わせ、思わず立ち尽くした。
その顔が
だが、声の主が自分の父親だと知ると、その顔が見る見るうちに泣き顔に
「と、父様……父様!」
プリシラも父に向かって駆け出した。
再会を果たした父と娘はそのもどかしい距離を
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