第59話 村を覆う黒い影
日が西に
村の規模は農村としては大きい方であり、四方はきっちりと石垣が組まれ、風や外敵から村を守る役目を果たしている。
それなりの人数がそこに住んで管理をしているのだと分かる様子だった。
先導するジュードは後ろを振り返り、並んで歩くプリシラとエミルに笑顔を見せる。
「あれがセグ村だ。俺とジャスティーナが最後にあそこに寄ったのは去年の夏頃だから、8ヶ月ぶりくらいだな」
「けっこう大きな村ね」
「ああ。だが歴史は浅いんだ。まだ村が始まって十数年くらいでね。元々、アリアドで軍に所属していた兵士たちが
十数年という年月があれば、人は大きなものを築けることをプリシラは知っている。
故郷であるダニアの都もプリシラが生まれる数年前にその歴史が始まったばかりだが、今は鉄壁の守りを誇る
だがダニアにはもともとそこに住む民の人数が多く、血脈的に女が多いため生まれる子も多い。
すぐに人が増える下地があった。
しかし一から
「どうやって人を増やしたの?」
「この辺りは少し行くと南北に延びる
「
「ああ。昔から農村が襲われることが多くてね。アリアド兵の部隊が定期的に
その話にプリシラは合点がいって
「そっか。セグ村なら元軍人の人が十数人いるから、安全ってことね」
「ああ。彼らが農村の男衆たちに武術の訓練を施して、自警団を組織したんだ。それでセグ村は
話しながら歩いているうちに、いよいよ石垣に囲まれた村の門が近付いてきた。
だが、その様子にジュードは思わず
村の門は固く閉ざされていたのだ。
☆☆☆☆☆☆
「おーい! 何があったんだ!」
ジュードがセグ村の入口を固める木製の門にそう呼びかけると、門の上から村人の男が顔を見せる。
その顔が見知った顔であることが分かると、ジュードは彼の名を呼んだ。
「久しぶりだな! ジャクソン! 俺だ! ジュードだ! ジャスティーナもいるぞ!」
「ジュード……ジャスティーナも! おい、開けろ」
訪問者が顔見知りだと知ると、ジャクソンと呼ばれた男はすぐに中の仲間に声をかけて門を開かせた。
そして開いた門から出て来た彼らは、まるで救世主を迎えるかのような表情を見せたのだ。
「よ、よく来てくれた! これは神の恵みだ」
「何があったんだ? まだ日も落ちていないうちから門を閉ざして……それにその格好……
「まあ、とりあえず中に入ってくれ。詳しい話は村長と自警団長からさせてもらうから」
そんなジュードらを招き入れるジャクソンら村人たちは、彼とジャスティーナの他に見知らぬ子供が2人にいるのを見て少し
「おや? そちらは……」
「俺たちの仲間だ。彼らを共和国まで連れて行く途中なんだよ」
「そうか……」
ジャクソンは少しばかり困惑の表情を浮かべている。
ジュードはそれが気になり、彼と肩を組むと声を潜めて
「何か気にかかるのか?」
「いや、実は今この村にいる女子供は皆、東の平原の貯蔵庫に避難させているんだ。正直なところ、おまえたちが連れて来た子たちの安全も保証できない」
彼の言葉に、今この村に何か危機的な状況が訪れているのだとジュードは悟った。
それを裏付けるようにジュードは感じ取る。
今この村の中に
ふと背後を見るとエミルもジュードと同じようにそれを感じ取っているようで、不安げに顔を曇らせている。
王国軍の
それからジャクソンは彼らを村長の館へと案内する。
村長はこの村を開拓した元・アリアド兵だ。
「おお。ジュード。元気そうで何よりだ」
「お久しぶりです。村長」
「せっかく来てくれたのに、こんな有り様でロクにもてなすことも出来ん。すまないな」
「いえ。何があったんですか?」
ジュードの問いに村長は苦い表情を見せた。
「昨夜、
「そうだったんですか。しかしあなた方なら
「それが最近ここらの
このセグ村の自警団は元軍人を中心としていて、決して弱くない。
だが、そんな彼らをもってしてもそのズレイタという男を倒すことが出来ないという。
切羽詰まった様子でそう言うと、村長はジャスティーナに目を向ける。
「単刀直入に言わせてもらうと、ジャスティーナにズレイタを倒してもらいたいと思っている。奴さえ倒せば、後の
村長の声には切実な響きが
その場にいる全員の視線がジャスティーナに集まった。
彼女は思わず肩をすくめる。
「……じゃあまずその男の特徴から聞こうか」
そう言うジャスティーナに、村長は九死に一生を得たような表情で頭を下げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます