第26話 逃走の夜
「馬……数頭の馬が近付いて来るわ」
そう言いながら林の木陰から顔を出し前方に目を
しかも街道は道沿いの林にそって湾曲しており、走って来る者の姿はかなり近くにならなければ見えてこない。
だが……音は確実に近付いてくる。
ジャスティーナは背中から短弓を取り出し、そこに矢を
やがて……湾曲した道の先で、林の陰から視界に現れたのは5頭の馬とそれに
男らは灯かりを確保するために前方に向けて火矢を放つ。
それはたっぷりと油の吸い込んだ布が巻きつけてあり、地面に突き立ってもなお燃え続けて周囲を照らした。
そして男たちの中に少々、目の良い者がいたようで、
「いたぞ! 50メートルほど先の左手の林だ!」
すると5人のうち4人はプリシラたちに向かって来るが、1人は街の方角へと引き返していく。
それを見たジャスティーナは舌打ちをした。
「チッ! 仲間を呼びに戻ったな。アンタたち。林の奥に走りな」
その言葉を聞くとプリシラはエミルの手を引いて駆け出す。
エミルも姉についていくために必死に走った。
林の中は木が乱立しているものの、その
そしてそれは敵も同じことで、馬を降りた4人の男たちが追って来る足音と怒声が後方から響いてきた。
「待ちやがれ!」
「逃がすな!」
プリシラはエミルの手を取って走り続けるが、エミルがそれほど速く走れないため
「4人くらいなら返り討ちにしたほうが早い!」
「ダメだ。手間取れば後から連中の仲間が押し寄せてくる」
並走するジャスティーナは冷然とそう言うが、プリシラは首を横に振ると声を上げた。
「4人だったら1分もかからずに倒せる!」
「デカい声を出すんじゃないよ。連中に方角がバレるだろう」
そう言ってプリシラにキツイ視線を向けるとジャスティーナはさらに言葉を重ねる。
「あの4人がこっちを殺すつもりで向かってくるなら返り討ちもしやすいだろうさ。だが連中だって馬鹿じゃない。仲間が到着するまでのらりくらりと時間
ジャスティーナの言葉に、プリシラはエミルに視線を向けた。
エミルは困ったように目を
プリシラは内心の
「じゃあこのままどこまで走り続けるのよ!」
「林の中を北に向かえ、その先に川がある。地元の漁師たちの小船を拝借すれば、川下まで一気に逃げられるはずだ!」
ジャスティーナは周囲を警戒しながらそう声を上げたが、彼女は不意にプリシラの手を
突然のことにプリシラとエミルも
そんなプリシラの手を放すと、ジャスティーナは短弓に再び矢を
その口から舌打ちが
「チッ。ここは奴らの地元だからな。地の利は連中にあるようだね」
彼女がそう言うと同時に頭上から明るい光が林の中に差し込んできた。
空を
ジャスティーナは吐き捨てるように言った。
「どうやらここに誘い込まれたようだ」
そう言うジャスティーナの視線の先、林の奥から複数の男たちがこちらに近付いて来るのが見える。
その手に刃物を持った大勢の男たちだった。
何人かはこの街に来てから見覚えがあった。
ゴロツキまがいの
そして彼らの先頭にいる
「やはりダニアの女は薄汚い
団長は多くの
ジャスティーナはそんな団長を
「お出ましかい。豚野郎。さっきはまんまと偽物の
そう言うとジャスティーナは短弓を地面に放り出し、腰帯から2本の短剣を抜き、油断なく周囲を見回した。
そして低く抑えた声を背後のプリシラにかける。
「林の中だ。長柄の武器は邪魔になる。予備としてこいつをもう一本持っておきな」
そう言って2本の短剣のうち1本をプリシラに手渡した。
そして自分は背負っている小型の円盾を片手に持つ。
プリシラは元々預かっていた短剣は腰帯に差したまま、新たに受け取った短剣を抜く。
「アタシとジャスティーナで協力しよう」
「そうしたら誰があんたの弟を守るんだ? エミルを守ることに専念しな」
「ならせめて短弓を貸して。後方から援護なら出来るから」
「不要だよ。とにかくあんたは弟を守り切るんだ」
有無を言わせずそう言うとジャスティーナはひと声
「死にたい奴からかかってきな!」
団長の
「まずは
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます