第21話 黒髪の者たち
「よし。開いた」
ジュードはそう言うとプリシラの
自由になったプリシラは足元に捨て置かれた
黒髮のこの青年は2本の針金を使い、器用に
ものの1分もかからぬ
「あなた……
歯に衣着せぬプリシラの感想にジュードは思わず笑い出す。
「ハハハ。
そう笑うジュードの
わずか10歳の彼は責任を感じていた。
もし姉1人だったら、あんな男たちは軽く倒せたはずだし、捕まることはなかった。
姉が痛くて悔しい思いをしたのは自分のせいなのだ。
「姉様……ごめん。僕のせいで」
消え入りそうな声でそう言うエミルの姿をプリシラは静かに見つめる。
そして彼に近付き、震える弟の体をそっと抱きしめた。
「いいのよ。元はと言えばアタシがあなたを無理やり
捕まった時はエミルの弱さを
そしてプリシラはエミルの体をそっと放すと、ジャスティーナとジュードに向き直る。
「あらためて御礼を言うわ。アタシと弟を助けてくれてありがとう。今は何も謝礼は出来ないけれど……」
「謝礼の話は後でいい。それより本当にダニアのプリシラとエミルなんだね。なぜ
ジュードにそう
母と共に共和国のビバルデにいたこと。
そこで
その現場に出くわし、不覚を取って捕らえられ、ここまで連れて来られたこと。
「なるほどね。ま、ツキがなかったといえばそうだが、余計なことに首を突っ込んで、その首に
神妙に話を聞くジュードとは対照的にジャスティーナは子供の
そんなジャスティーナの物言いにプリシラは少々ムッとして言葉を返す。
「そうね。でも見ず知らずのアタシたちを助けるなんて、あなたたちも余計なことに首を突っ込んだんじゃない? あの
勝ち気なプリシラの言葉にジャスティーナはフンと鼻を鳴らした。
「かもねぇ。けど私らは自分のケツは自分で
ジャスティーナの言葉は腹立たしいものだったが、その通りだと思った。
エミルを危険に巻き込んだ以上、姉として責任を持って弟を無事に連れ帰らなければならない。
そのためには今、目の前にいる者たちに頼るほかないのだ。
まだ幼さの残る子供ではあるが、プリシラには姉としての自覚が備わっている。
(だけど……変な感じね)
ジャスティーナの
こんな風に気楽に接してくれるのは母の友であるベラやソニアくらいのものだ。
母と同じく、自分にも気安く話しかけてきてくれるベラとソニアがプリシラは好きだった。
だからプリシラはジャスティーナの言葉にも思わず笑みを浮かべる。
「確かに。アタシたちはまだ子供だわ。だからお願いしたいことがある。ビバルデに戻りたいの。でも公国内を自分たちだけで移動したことがないから迷ってしまうかもしれない。だからあなたたちにそこまでアタシたちを連れて行ってほしい。
その言葉にジャスティーナは
「あんたの金は親の金だろ? まあ、別に親に払ってもらってもこちらは構わないんだがね」
「……今回のことはアタシが親の目を盗んで勝手にしたこと。
プリシラは自分で金を
ビバルデで
だが、ここで自分たちを連れて行って欲しいが報酬は親が払う、とは言いたくなかった。
「アタシも自分のケツくらいは自分で
そしてジュードに視線を送ると、彼は
「では街に戻って2人の食糧や水も買わないとな。ビバルデまでは丸一日かかる」
ジュードのその言葉にプリシラとエミルの顔が明るくなった。
ジャスティーナはそんな2人に言う。
「決まりだな。ただ、
そう言うとジャスティーナはジュードに声をかける。
「私とこの子らは面が割れている。街中でさっきのクソ野郎と出くわすと面倒だ。ジュード。おまえがサッと行って物資を調達してきてくれ。必要最低限でいい」
ジュードは
【……俺の声が聞こえるかい? 困ったら俺を呼ぶんだ】
心の中に
それは故郷であるダニアの都で父からよく聞かされていた、耳ではなく心で聴く声だったのだ。
ジュードは笑顔を浮かべて街へ戻っていく。
エミルはその姿を見送りながら、ジュードの優しい心の声に父のボルドを思い出して心が落ち着くのを感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます