ギャルと白猫。

尾岡れき@猫部

第1話 ギャルと白猫


「青い空、白い雲、公園のベンチにウチと可愛い白猫ちゃん! これって最高の光景ローションだと思わない?」


 ロケーションって言いたかったのか?


 兎に角やかましい人間のメス

 最近よく、ココにやってくる。よっぽど、ヒマなんだろうか?


「ねぇ、シロちゃんさ――」


 勝手に名前をつけるな。だいたい毛皮の色で名前をつけて良いのだったら、お前なんかギャル川ギャル太郎だ。


「毛並み、綺麗だよね。野良じゃないみたい。どこかの飼い猫……あ、首輪してるじゃん。もしかして、名前が……」


 誰が、見せるか。


「……だよね? 勝手に触られるのイヤだよね。そりゃ、そうだ。私もさ、こんな容姿ナリだけどさ、別に誘ってるワケじゃないし。ただ、こういうの好きなだけだしさ」


 それ単純に、お前が可愛いだけなんじゃねぇの?


「本当に好きな人は、振り向いてくれないしさ」


 それこそ、知るかよ。


「ほぅほぅ。君もやっぱり女の子だね。やっぱり私の恋バナ気になっちゃいますか」


 あほぅ。俺、オスだから。


「私が好きなのはね、図書室の王子様って言われている、上川君なんだけどさ――」

「おあっ?」

「……君、鳴き声が『おあ?』なの?」


 彼女は目を丸くする。

 正直、ギャル太郎の細かい指摘はどうでも良い。どうやら、彼女が恋心を寄せる相手は、うちの同居人らしい。あぁ、これはなんて不幸なんだろう――。


「どうしたの、両耳ペタンと垂らしてさ」


 ギャル太郎に勝算がない恋路だから、同情しているんだよ。分かれよ、ニンゲン!


「そうか、そうか。シロちゃんも私の恋路を応援してくれるってワケか。これ、頑張らないとね!」


 ふんすっと、鼻息荒く、拳を固める。


 気合い十分なところワルいが、ギャル太郎……お前じゃとても敵わないから。悪いことは言わない。相思相愛、両片思いの二人にちょっかい出して馬――どころか、町内中の猫に蹴られても、俺は知らないからな?


 相棒アイツは正直、胸焼けするくらい、あの子しか見ていない。


「シロちゃん、ありがとう! 私頑張ってみるっ!」


 むしろ、頑張るなって言っているんだれど?

 聞いて?

 ちゃんと聞いて?


 人間が猫の言語を理解できないのは、今に始まったことじゃないが。もう少し、意図を汲み取って。ギャル太郎、お前は本当にひどすぎるぞ?


「今度、シロちゃんに【骨っちゃん】買ってくるから!」


 それ犬用のオヤツ!






■■■







「ルル、どうするの、あの子?」

「……どうもこうも……」


茉麻まあさちゃんってさ、思い込みが強いんだよね」

「モモ、知っているの?」


「4丁目の田島さんトコの。ほら、タコさんの妹だよ」

「あぁ……」


 町内会の縮図が見える。お調子者のタコの妹。そういえば、アイツも本当に猫の言葉を理解しないヤツだった。そう思うと、どっと疲労感が増える。


「良かったじゃない、ニンゲンにもモテモテで」


 ティアの棘を含んだ視線が居心地が悪い。別にニンゲンに色目を使ったワケじゃないから。そこまでヤキモチ妬かれたら、俺どしたら良いのさ?


「他の子に時間を費やすぎらいなら、自分に使えって、お姉ちゃんは言いたいらしいよ? もちろん、私もね~」

「こ、こら! モモ、ちが――そ、そんなんじゃないから!」


「へいへい、姫もお嬢もそれぐらいにして。親分、ちゃんと時間を作ってあげてくださいね」


 結局、俺に飛び火した。


「とりあえず、はじめましょうぜ」

  

 クロの声を聞きながら、俺はアクビをする。

 どうせ、俺の了解なんかなくても、奴らは勝手に始めるんだ。


「それじゃ、まずはご町内恋バナチェックだね! まずは上川君の片想い指数から。レポートをよろしくね!」





 青い空。

 白い雲。

 公園のベンチで、俺はもう一度小さくアクビが漏れて――。





 猫の集会は、今日も議題が盛りだくさんだった。

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