転生エルフは日常を愛す

榊原修

プロローグ 未練と諦念、そして次は?

(あぁ、わたし、死ぬんだな。今日)


 昔から身体が弱かった。まともな運動なんて一度も出来たことなんて無いし、頻繁に体調を崩しては学校を休んでいた。小中学生の半分以上は病院で過ごしていたと思う。発作を起こして倒れることも何度もあった。だからこそ、今自分が死ぬんだと何となく理解できた。何もかもを諦め続けた人生だった。


(いつ死んでもおかしくはなかったんだ。18まで生きて、なんとか大人にはなれた。頑張ったよね、わたし)


 少しずつ視界が薄れていくような感じがした。涙を流す両親の姿が見えなくなっていく。走馬灯というものだろうか? 少ない、それでも大切な思い出が、浮かんでは消えていく。


(ごめんなさい。お父さん、お母さん。一杯迷惑かけちゃった。お酒、一緒に飲めなかったよ。本当に、ごめんなさい)


 流れていく思い出の中で最期に浮かんだのは、今は亡き祖父母の顔。


(ごめんなさい。おじいちゃん、おばあちゃん。わたし、約束、守れなかった)


 数えきれない未練を抱えながら、わたしは眼を閉じた。もう光を映すことはない、はずだった。





 不思議な感覚だった。身体は動かないし、眼も開けられない。呼吸している感覚もなかった。だけど、意識ははっきりしていた。


(あれ、わたしまだ生きてるのかな? でも身体は動かないし、どうなってるんだろ?)


 何年も経ったような、一日すら経っていないような気もする、不思議な時間を過ごした。気づいたときには、うっすらと光が見えたような感じがした。


(あれは、光? あ、眼、開けそう)


 眼を開いたとき、わたしが見たのは一面の緑だった。眼を閉じる前に見た白の天井とは全く違う。


「え? 何、これ。あっ、声出てる。あれわたしこんな声だったっけ? 本当にどうなってるの??」


 慌てて身体を起こした。驚きつつ周りに視線を向けると、森林の中に自分がいることが分かった。今まで見たことのない美しい景色をしていた。次に、自分の手に眼を向けた。かつての不健康な青白さとは全く違う、白くきれいな肌をしていた。


「わたしの身体じゃない? それにこんな森みたことないし。もしかしてこれ……」


 手を顔の前に持っていく、記憶にあるものより少し小さくなっているように見える。視界の端にちらっと映る髪の毛は間違いなく黒ではない明るい色をしているように見えた。そして耳に手が当たった。しっかり触れてみると、その耳は明らかに人のものではない尖ったものだった。


「異世界に、転生したの? それにこの耳……わたし、エルフになってる?」





あとがき

 ほのぼのした百合が好きなので書きました。日常ものでのほほんとした感じのやつです。ゆるーい感じに進行していきますのでよろしくお願いします。

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