第16話 ability test
いよいよDAMIAによるSORAの能力テストが始まる。
Rayにとっては待ち侘びた時間だ。
「じゃ、まずはここに座ってSORAのIDブレスがついている方の腕をこの穴に通してくれるかな?」
「あ、了解・・・ここね。」
DAMIAに言われるがままに腕を通す。なんだか少しだけわくわく感がある。
「それからこれを今からSORAの頭に装着するから少し動かないでいてくれるかな?じっとしていてね。君の脳波を一番強く感じる場所を探して、そこにこのヘッドデバイスを装着するから。適切な場所に装着する事でより正確な数値が出せるんだよね。」
至ってシンプルな見た目だが繊細な機械なんだと何となく分かった。
「うん、なんだか動物実験みたいだね・・・。とても不思議な気分になるね・・・。」
ヘッドデバイスを頭に被せられているSORAの姿を側から見ているRayの目は期待で満ち溢れていた。
「はい、これで装着完了。どう?違和感ないかな?少し圧迫感があるかもしれないけど少し我慢してね。そして、今から機械のスイッチを入れるんだけど、約20秒くらいでSORAの肉体だけは死んだも同然になり、脳波だけがレム状態になる。この機械とSORAの脳だけが繋がっているような感じ、と言えば分かり易いかな?とにかく難しく考えないでいいから。電気が流れてきたら気付かない内にその状態に入り込み、その次に気付いた時には目覚める時だから。何も心配しなくて大丈夫。とにかく身も心も委ねておいてくれればいい。」
___DAMIAは物事をとにかく簡単に話す。
「え?体は死んだ状態??起きた後、体は動くんだよね??」
思わず自分の口から不安な気持ちが出てしまう。
無茶苦茶簡単に話すけど、凄く怖い実験をしようとしていないか??と、急に不安な気持ちが込み上げてくる。
「大丈夫。このテストには人間の肉体は全然関係ないから。その為にわざと脳だけを生かして肉体だけを死んでいる状態にする。そうしないと、その人間の持っている根底にある能力が調べられないんだよね。体が動く事で無駄な検知をしてしまうから。」
「なるほど・・・。」
正直、全然なるほどではないし、何を言っているのか丸っきり分からないが信じるしかないと思い静かに目を閉じた。
横ではRayが何かを期待しながら二人の話を静かに聞いている。
「今からSORAは機械作動後に自然に自分だけの物語の中に入っていく。多分、夢か現実か分からなくなると思うけど何も考えずに自分の思うままに動けばいいから。
そして、その自分で選んで進んだ道こそがSORAの能力の結果となる。大切なのはSORAが何を選択し、そして選択するまでに掛かった時間。Rayのお兄さんも受けたけど俺からすると侵入に値する人間ではなかった。だけど本人は出来ると思ったらやっちゃうんだよね。だからそれをサポートはしたけど・・・まあ、結果は見えていた事だったから。」
本当にDAMIAという人間は人の死を簡単に語る。
「じゃあ、この結果次第では僕がRayの思っているような特別な能力を持っている人物ではない…という事も簡単に分かるという事なんだね。」
すると横からRayが
「いや、SORAは絶対に何か持っているはず!」
と、目を細めてはっきりと答える。
「でも、そうだね。その結果次第では・・・Rayのお兄さんみたいに死にたくなかったら最初から無茶な試みはするべきじゃない。諦めが肝心。その時は俺は止めるね。」DAMIAがはっきりとした口調で言う。
その言葉を聞き、Rayが困った顔をしながら私を見ている姿が目を瞑っていても簡単に思い浮かぶ。
「まあ勿論、この結果が全てではないのも事実だけど、俺の過去のデータからすると100%に近い数値で能力の算定が出来ると思う。」
「なるほど。分かった。じゃ、DAMIA、起動して大丈夫。心の準備は出来た。考えても難しいからとりあえず実験でも何でも受けて立つよ。」
目を閉じたまま私はDAMIAに作業を始めるよう促した。
Rayは固まったように私とDAMIAの前にある機器を眺める。
「じゃ、いくよ。」
DAMIAが呟いた後、静まり返ったその部屋に静かにボタンにタッチした音が聞こえた。
「ホン・・・」
瞬間、部屋の明かりが暗くなりすぐに元の明るさに戻る。
相当電力を使うのかもしれない、と目を閉じていてもその室内の明かりの変化を感じる事が出来た。
____________
何処だろう。ここは。
目の前に広がる景色はただの草原。
そこに広がる世界はとても美しく、非常に心地良い風が吹いている。
時々吹く強い風に近くの草木が揺れ動くのがわかる。
どこからともなく動物の鳴き声が聞こえ、虫の囀りも聞こえてくる。
柔らかい風が体を包み込む。
そしてなんとなく香る花の匂い。
いつもより暑くない穏やかな気候が心を優しくしてくれる。
すごい、なんて素晴らしい所なんだ。
今までに感じた事の無い感覚が自分の中の全ての五感を開放してくれる。
__本当に気持ちが良い時間だ__
ん?遠くから声が聞こえる・・・。誰だろう。
「おーい」
「え?父さんの・・・声」
「早くこっち来い!綺麗な川があるぞ!」
「え?父さん???何処?」
「こっちだ、早く走って来い!」
「本当に?え?綺麗な川なんてあるの???でも泳げるのかな??」
「ああ、勿論だ!泳げるに決まってるだろう!本当に気持ちが良いぞ!」
父さんが呼びかけてくる。
反射的に父さんの方へと向かおうとする。
すると後ろの方から別の声が・・・。
「SORA!こっち来て助けてくれ!」
今度は後ろからRayの声が聞こえてくる。すかさず振り返り遠くを見ると、今まで見ていた景色とは違い、ドス黒い暗闇しかない世界が広がっている。
なんて薄気味悪い景色なんだ。
心がその闇に飲み込まれそうな感覚を覚える。
「SORA、早く助けて!世界を助けられるのはSORAしかいないんだよ!」
狼狽える僕に父さんからの声が届く。
「おい、何やってんだ。木には沢山のリンゴもあるぞ!美味いぞ!」
「え?リンゴ!本当に・・・食べたい!」
その瞬間、私は父さんの方へと走り出していた。
必死にその声に向かってとにかく走っていた。
あと少しで父さんの声のする場所だ、という所まで来た時、またもRayの声が微かに耳に届く。
「SORA、一緒に日本を変えるんじゃないの・・・・?」
「約束したよね?SORA。」
Rayのいつも見せる表情が頭に浮かぶ。
何が何だか分からない。どうしよう。目の前には懐かしの父さんの声が聞こえる。
会いたい、凄く父さんに会いたい。そして色んな事を聞いてみたい。
そんな欲望が自分の心の奥底から込み上げてくる。
___でも、後ろからはRayの声が。
「SORA・・・仲間だよね?僕らは」
___
ふと、思い出した。
最後に父さんと会った時の言葉を。
(昔の日本は綺麗だった。元の景色に戻るようになると良いな・・・。お前なら出来るよ・・・。)
目の前の、父さんの声が聞こえてくる綺麗な景色の場所は、まさしく父さんから聞いていた昔の日本。
後ろに広がる景色は今まで自分で見ていた日本以上に暗黒の世界。それは日本の未来の姿?でも、そこには・・・Rayがいる。
「SORA、約束・・・。したよね。一緒に・・・頑張ろうって」
弱々しいRayの声が微かに僕の耳元に届いた。
ふと我に返った私は振り返り、今来た道を凄いスピードで走り抜け、Rayの方へと一目散に向かった。
「父さん、ごめん!」
そう父さんに叫びながらとにかく走った。
「Ray、待ってろ!約束、したよ!約束!そうだよ!仲間だよ!僕達は!!」
後ろから聞こえてくる私を呼ぶ父さんの声が段々と遠ざかっていく。
「おい! おい・・・お・・・・」
やる事は明確だった。
Rayとした約束、そして彼からのいつもの言葉「ありがとう」を忘れる所だった。
とにかくRayの声の方へとまっしぐらに走り抜ける。
どれだけ走ったか分からなかったが、その声のする場所に近づいた途端、今度は坂道を転がり落ちるように私は滑り落ちた。
地面に落ちたと同時に私の意識は遠のいていった・・・。
______
どの位の時間が経ったのか自分でも見当がつかなかった。
暫くして目を開けると、そこに広がるのは見た事の無いビル群。
あれ?Rayがいない。ここは何処だ?
「Ray!何処にいるんだよ!」
叫んでみるが返事がない。
そして、その瞬間大きな地震が襲ってきた。
「ゴゴゴゴゴゴゴ・・・。」
慌ててしゃがみ、腕で頭を咄嗟に庇う。
____30秒近く続いたかもしれない。
かなり大きな地震だった。周りの建物の中には崩れているビルもある。
目を凝らして全体を見渡すと、元々あったビル群は姿を変え、すっかりと荒れ果てた街となっていた。
「Ray!Ray!」
私の叫ぶ声にRayからの反応がない。
ただただRayを探して歩き回る。
するとその先に一羽の鳥が崩れかけたビルの瓦礫の下敷きになり動けなくなっている。上を見上げると、崩れ落ちそうなコンクリート片がゆらゆらと・・・。
咄嗟に、私は鳥を助けようと駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫、今すぐに助けるから・・・。」
身動きの出来なくなった鳥からは微かに呼吸音が聞こえる・・・。
「ヒューヒュー・・・」
____必死に生きようとしているんだ。
どれだけ瓦礫を取り除いてもなかなか助け出すのが難しい。どうしたらいいのか・・・。
諦めずに、その周りにある重い瓦礫を丁寧に一つずつ取り除いていると、頭の上からコンクリートの破片がパラパラと降りかかってくるのを感じた。
やばい、急がないと自分もこの鳥も下敷きになって終わりだ。
でも、どうしても・・・助けたい。
普段、見掛ける事が出来ない鳥とやっと出会えたんだ・・・。
目の前で苦しんでいる。
こんなに小さな鳥が必死に生きようと。
待ってろ、もう一息だ!と、心で叫びながらとにかく瓦礫をどかし続ける。
そしてやっと鳥を引き出せる所まで来た途端、上からコンクリートが崩れ落ちてきた・・・。あ・・・もうだめだ・・・。
「・・・」
咄嗟に私は自分の腕の中にその鳥を抱きかかえ、落ちてくる石の破片から鳥を守るように蹲った。
その動作と同時に私の頭に激痛が走った。
もうだめだ、死ぬんだな・・・。
コンクリート片が私の頭を直撃したのだ。
______
ん・・・?
目を開けると私の腕の中に抱きかかえたはずの鳥の姿はない。
意識を失っていたんだ・・・。
「ん?・・・潮の香?」
今度は見慣れない海岸で横になっていた事に気付く。
「ここは・・・何処?」
誰もいない海岸。そして視界に広がる目の前の海は猛獣が暴れるが如く荒れ放題だ。
荒れ狂うその波を見ながら私は海岸沿いを歩き、どこかに建物がないか?人はいないか?Rayがどこかにいるんじゃないか・・・。
どれだけ歩いたか分からない位とにかく歩き続けた。
暫く歩くと遠くにほんのりと明かりを灯す小屋が目に入った。
・・・明かりだ・・・。これで少し休めるかもしれない。
そう思った私はひたすらその小屋を目指しさらに歩く。
やっとの思いでその小屋に辿り着き扉を叩いてみる。
(ドンドンドン!)
「誰か!誰かいませんか!!」
中からは何の返答もない。
誰もいないのかな?そう思った私はドアノブに手をかけ扉を開けてみる。
「!!!」
そこには姿を消したはずの母さんの姿があった。
「え?・・・なんで??母さん!母さん!僕だよ!わかる??」
そう叫ぶ私を見た母さんが、こっちに向かって小さな声で呟いた。
「お前・・・。そうか、見つけたんだね。私を。折角お前から逃げたのに」
想像もしなかった言葉を母さんから掛けられた事のショックが自分の顔を強張らせた。
「え?逃げたの?僕から?・・・なんで?そんな、やっと会えたのに・・・」
「そんなのも分からないから、あんたは・・・。」
自分が知っている母さんじゃない・・・。でも目の前の母さんは紛れもなく母さんだ・・・。
すると、母さんが急に刃物を取り出し、それを強く握りしめながら私を見て叫ぶ。
「お前さえいなけりゃ、お前さえいなけりゃ!父さんは!殺してやる!!」
その言葉にただただ驚き、母さんを見つめながら呆然と立ち尽くしていると、又も後ろからRayの声が聞こえてきた。
「SORA、目を覚ませ!その人はお母さんなんかじゃない!今、目の前にいるSORAのお母さんは偽物だ!」
・・・・?訳が分からない。何を言ってるんだ。Rayは。
「殺すしかないんだ!SORA!目の前のお母さんはSORAの邪念だ!自らの手で葬るしかないんだよ!僕を信じて!」
え?母さんを殺せ??何を言ってるんだ・・・Rayは。そんな事出来るわけが・・・ないだろ。
心の中でRayに対して不信感が湧きあがるのを感じる。
「SORA、冷静に・・・。本当のお母さんがどんな人だったか考えてみて・・・ちゃんと思い出すんだ!」
(え??本当の母さん?・・・自分の中の邪念?・・・邪念・・・。)
(自分の持っている邪念!?)
咄嗟に私は母さんの持っていた刃物を奪った。
「何するんだ!あんたは!返せ!・・・返せ!」
「良く分かったよ。色んな意味が。・・・Ray・・・ありがとう。」
そう呟くと私は自らその刃を自分の首筋にあて、躊躇う事なく横に切り裂いた。
首から吹き出る血しぶきが天井まで吹き上がるのを自分でも見る事が出来た。
「・・・綺麗だ・・・きれい・・・だ・・き・・れ・・・い。」
______(SORA!SORA!)
遠くからRayの声が聞こえる。
不思議だ。私は死んだはずなのに。
ふっとその瞬間、目が開いた。
・・・そうだ、DAMIAによってテストを受けていたんだ。
我に返った私は少しだけふわっとした感覚のままで現実と夢の境を見失っている状態だった。すると横から、
「SORA、凄いね。君の能力はこちらの測定でも今までに見た事の無い数値が出た。多分、かなりの時間、別世界にいた感覚だったと思うけど実際は30秒くらいしかSORAはその世界にはいなかった。」
「え?たったの30秒?」
「SORAの脳との直接交信だから分かりにくいと思うけど、全ての行動をたったの30秒で行っていたんだ。多分最後は、SORA自身の脳も無意識の中に眠っている「意識」により勝手に動いた行動だと思う。
まさか、最後に自死するとはね。しかも迷いもなく。
これだけの能力があれば俺と対等、いや、それ以上かもしれない。
まさしくSORAが取った行動は、自分の邪念を自死する事で自らを打ち消し、そして現世に勝手に自分の力で戻ってきちゃったって訳。本来なら俺が操作しないと皆、現世には戻ってこれないんだよね・・・。本当に驚いたよ。全てが想像の上の上。」
「え!!本当に!ほら!言った通りでしょ!SORAは特別な能力をお父さんから与えられていたんだよ!」
嬉しそうにしているRayが横にいる。
あれだけ会いたかったRayが・・・。今はすぐ横にいる。
__正直、テストが終わった今でも、何が何だか自分でも分かっていない・・・。
ただ、二人共凄いものを見てしまったような顔をして側にいるのだけは分かった。
一つだけ言えるのは、二人は大切な・・・仲間って事だ。
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