第15話 observation

どうやら政府がアホな国民を雇ったらしいな。

「虫駆除」対策に・・・。

まあ、俺には何をしても意味がない。

とりあえずどんな輩が集まったのか見物させてもらおう・・・。

その実力を・・・。どちらにしてもやってる事は全て俺の掌の上でしかない。

_____


NCCB内「特別害虫対策遂行チーム」別室__


至る所に取り付けられたスピーカーからエマージェンシーアラームが鳴り響き、緊急のお知らせがアナウンスされる。


「政府ネットワーク、第一ゲートに近付く不審な侵入者を確認。」


政府NCCB内の伝達により「S」「C」「K」それぞれのIDブレスが反応する。

それに呼応するかのように、3人がモニター前ですぐに対応する。

3人全員が涼しい顔をしながら物凄いスピードでタイプし始めた。

まるでその侵入者の来店を喜んでいるかのように、3人の指がキーボードをタップしている。___まさしく指が踊っているかのように。

それと同時にNCCB内の壁面にある大きなスクリーンに映し出された映像を、棚橋とその横に立つトキタが静かに眺める。

さあ、3人がどうやって侵入者に対応するのか見物だな。

それにしてもあの3人の集中力とタイピングは目を見張るものがある。

ただ、それだけでは実際の所、彼らの実力はまだ想像の域にある。寧ろ3人が連携してどうやって対処するのかが一番興味の有る所だ。

新たな「排除チーム」のその実力とやらを今この目で見させてもらおうか。

棚橋とトキタは不安と期待とを併せ持ちながらそのスクリーンをじっと見つめる。


NCCB内では、他の政府スタッフ達がその侵入者にどう対処するかを考えながら皆が各モニター前でタイピングをしている。


___すると、その矢先だった。


別室で対応している3人の「排除チーム」からの言葉が次々とNCCB内スピーカーから流れてくる。その言葉は至って冷静であり、時間にしてどの位だったのかもわからない程の短い出来事だった。



「はいこちら「S」、「虫」の侵入経路を確認し、先回りして予めその進行方向を推測し塞ぎました」と、「S」が声を発する。


「了解、それじゃ、絶対に逃げられないように、相手からは見えない「蜘蛛の巣」張りましょうかね。」と、続けて「C」が言う。


「ぐしゃ」


「K」が言葉もなく、すぐに「排除」する。


その途端、侵入してきた「虫」をNCCBプログラムが逆探知し、その「虫」のプロファイルをあっという間に検出した。そして国民ナンバーと同時に本人の生前の顔写真、さらに横の画面には肉の塊となった血まみれの現在の姿が映し出された。見る影もないその映像からは本人の顔写真はまるっきり想像が出来ない。相変わらず、あまりにも無残な映像だ。

3人のあまりの対応の速さにNCCB内スタッフは何も出来ず、ただただ茫然としていた。まさかの第一ゲート手前での全ての処理は驚くべき結末だった。


「今回の「虫」は単独行動。岡山地区からの侵入でした。」

NCCBスタッフが侵入を試みた「虫」についての情報を慌てて伝える。


それにしても素早い対応。第一ゲートも突破出来ないままあの世行きにするとは。

凄いぞ、こいつらなら政府のネットワークを守れるかもしれない・・・

NCCBスタッフが何も手を打つ事が出来ない間に「排除」するとは。

こいつら・・・なかなかやるじゃないか。

棚橋が心の中で呟いていた。


「見てください。棚橋さん。どうですか。この選ばれし者達は。あっという間にNCCB内の誰よりも速く、しかもいとも簡単に「排除」致しましたよ。彼らの初めての仕事で巧みな連係プレイ。「AI」に選ばれた者達ならではでしたね。」


「流石だな、ここまでの能力が彼らにあるとは。想像以上の仕事ぶりだ。それぞれの能力の違いにより的確に仕事をやり遂げている。本当に無駄のない動きをする良いチームだ。それにしても政府の「AI」が与えた適正能力は間違いがなかったようだな。結局は人間が「AI」を超えるなんてそもそも無理な事なんだ。私はそう信じたい。」


と、少しほっとした様子の棚橋に


「そうですね。「AI」の能力を超えようとするなんて馬鹿な奴の考える事です。それにしても、今回のチーム以上の能力を持っている者がNCCB内にはいないという方が不安で仕方ありません・・・。もう少し何かしらの対応が出来ると思っていただけに、あまりにも差が目立ってしまった感じがして。」


「確かに、そうだな。政府下で働いている人間の能力がもっと秀でていないと国を平和に守れるわけがない。そう考えると「虫」になる事を選んだ奴らの能力は・・・元々政府下で働く事を望んだ人間以上なのか?と、疑いたくもなるな。」


棚橋は静かにスクリーンに目をやりながら惨たらしい残骸を見つめた。

そして静かに目の前のボタンを押し、スクリーン画面を血まみれの映像から三人のいる別室へと切り替えた。


「ご苦労様。見事な仕事振りだったな。それにしても無駄のない連携。初めての仕事としては言う事はない。上出来だ。」

三人を労う様に語る棚橋に


「いやいや、逆にこんな簡単な仕事でお金を沢山貰えるなんて良いんですか?という感じですよ。」

「C」が素早く答える。


「もっと難しいのかと思っていました。政府の方々が対策に手を拱いていたと言っていたので・・・私からしたらとても簡単な仕事でした。」

「K」がゆっくりと話す。


「次もどんどん侵入者を排除していきますよ。安心してください。私の早さに優る者などいませんよ。」

「S」も淡々と話す。


NCCB内には安堵の空気が漂うのとは逆に、ある一部のスタッフ達にとっては自分達のスキルの低さが露呈した事への不安の感情が込み上げてきた。しかし、これで「虫」対策は万全かもしれないと誰もが感じ始めていたのも事実であった。


______


「へー、なかなかやるね。NCCB新入社員。あっぱれ、あっぱれ。第一ゲート手前で潰しちゃうとか。あまりにも相手への敬意の欠片も無いのも素晴らしい。」

カラスが不敵な表情で言葉を漏らす。


「でも、侵入者がこれっぽっちの実力じゃ、俺が参加しても意味は無いね。我が実力を知れってもんだ。飛び込む前にもっと考えろよなー。」

と、逆に「虫」に対しては残念で仕方がない。


「政府を滅ぼしたいのは分かるが、その程度の力で忍び込もうなんて自殺行為だよな。死んでもいいからもっと奥深くまで入ってくれないと、こっちも入る意味がないんだよな。第一ゲートなんて俺からしたら開けっ放しの扉に過ぎない。そんな所も通れないなんて能力が無いにも程がある。どれだけ政府のネットワークを甘く見てるやら。」


つまらなそうな表情でその一部始終を傍観していたカラスからは溜息しか出てこない。


「まあ、そんなに簡単にはお目にかかれるわけないよなー。今に出てこいスーパーヒーロー!そこでやっと俺の出番なんだから。」


______


「あ、ちょっといいですか?」


「K」がスクリーンに顔を向けて淡々と話す。


「NCCBの諸先輩方、宜しければもう少し早く動いてもらえるともっと簡単に終わるかと。今回は、そこまで対策するのに頭を使わなくても出来ると思いますが。これだとこの部署は私達3人で事足りるのでは。」


それを聞いていた「C」、「S」も頭だけ軽く頷き同意する。


NCCB内はその言葉により静まり返る。

言葉を出す事もなく、苦虫を嚙み潰したような表情で悔しがるスタッフがスクリーンを見返すが、事実、何も出来なかったというムードで部内は包まれた。


確かに、レベルが違いすぎる。万が一、こんなにレベルの高い「虫」が数名で襲ってきたとしたら?あるいはそれ以上の能力の「虫」が・・・。

逆の意味で棚橋とトキタの不安は大きくなっていった。







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