第13話 招聘

__NCCB内「特別害虫対策遂行チーム」別室__


「こんにちは、このNCCB本部を仕切っている棚橋です。本日皆さんに「特別害虫対策遂行チーム」の一員としてお集まり頂きましたが、今回見事に政府の試験を突破し、この対策本部に入る事が出来たのは僅か3名。」


棚橋がゆっくりと3人の顔を見渡しながら一呼吸おいて話を続ける。


「しかし、大切なのは数ではなく・・・個々の能力です。皆さんは政府の「AI」によって作られた本当の意味での超難関試験をパスして今ここにいるのだと自信を持って頂きたい。「虫」も個人であったり複数人であったりと行動パターンは色々ですが、人数ではなく双方に言えるのは能力が優れているかどうか?しかありません。勿論、ここにいる方達からすると端からそんな事はどうでも良いと思っているでしょうが。」


棚橋は壇上でゆっくりと語り掛けるように3人に話した。


「では簡単に・・・どういう事をやるのか?というのを説明しましょう。そもそも、政府のネットワークプログラムは簡単には最後まで突破出来ないように、5つのゲートに分けて作られています。その為に「虫」も最後の砦まで辿り着くには5つ全てを突破しないと彼らの目標は成し遂げられません。しかし、最近はその「虫」共も少しずつ奥深くまで侵入してくる事が増え、政府の危機管理の観点から言えば、危険な状況に晒され始めている、と考えるようになりました。

そんな事から早めの対策を打つべく、こうして皆さんのような特別な能力を持った人達に集まってもらったという事です。」


座っている三人は微動だにせず聞いている。


___棚橋が続ける


「今後、皆さんには政府にあるネットワーク網の5つのゲートを守りつつ、同時に「虫」の「排除」を徹底的に行ってもらおうと思っています。その新たに構築された鉄壁なネットワーク防御網により「虫」共が恐れ、今後、新たに政府のネットワークを脅かさないようにとことん潰してもらいたい。そして我が国の安心、安全の暮らしを手に入れる事を前提とし、このチームの業務に邁進してもらいたいと思っています・・・。では、ここから先は、補佐のトキタに説明してもらいます。」


棚橋は壇上からゆっくりと降り、続いて横にいたトキタが背筋を伸ばし素早い足取りで壇上に駆け上がる。


「皆さん、こんにちは。補佐のトキタです。宜しくお願いします。」


集まっている3人が椅子に座ったまま表情を変えずに頭を下げる。3人の眼はトキタに集中している。


「今日から皆さんにはお互いが認識しやすいように、こちらからそれぞれの特殊能力にちなんだ「イニシャル」を付けさせて頂きます。そして皆様のマイクロチップと私共NCCBのネットワークを連携して仕事を一緒に行っていきたいと思います。」


「それではまず一人目、右の方、あなたの名前は「S」です。」

一番右の短髪の40代の男が軽く頷く。


「「S」は「スピード」から取ったイニシャルです。彼は、こちらの技能テストでもダントツの速さでプログラミングする能力に長けていました。そのスキルを活かし、誰よりも早く「虫」の侵入を察知し先回りして対策を練る役割をお願いしたいと思っています。」


___「S」が口元を軽く緩める。


「続いて、真ん中の方、あなたの名前は「C」です。」

真ん中の20代くらいと思われる黒髪のロングヘアーで髪を束ねている男が身動きせず瞬きで返事をする。どことなく胡散臭い感じの男だ。


「「C」は「クラッシュ」から取ったイニシャルです。同じく技能テストでは、ネットワークへの複数の仮想侵入者に対し、即座に身動きの取れない状況まで追い込む能力には目を見張るものがありました。「虫」共が複数入り込んだ場合はそれらをネットワーク内の蜘蛛の巣の世界へと導いてあげてください。」


___それを聞いて「C」が親指で自分の鼻を擦る。


「最後に一番左の方、あなたの名前は「K」です。」

顎くらいまでの髪の長さの化粧っ気のない20代後半くらいの女が頷く。端正な顔立ちの中に光る女の鋭い眼光が、より一層本人の性格をきつそうに見せている。


「「K」は「キル」から取ったイニシャルです。外部から侵入した外敵に対して追い込まれた状態を見付けると即座に排除する能力を持っていました。あっという間にどんどんと「虫」共を排除していく動きからは躊躇いはまるっきり感じられませんでした・・・。素晴らしいです。」


___「K」の表情に変化はない。


「それぞれが似たような能力のようで紙一重で違う能力を持っている。その結果が我々が行おうとしているこれからの対策に更に力を与えてくれる事は間違いないでしょう。そして、それぞれに付けたスキルの分類は、皆さんが行った技能テストにより政府の「AIシステム」が適性に合わせて自動的に振り分けたものです。政府のAIだからこそ、間違いのないスキル選びとなっていると自信を持って言えます。三者三様に最大限に仕事を全うし、耳障りな「虫」共の駆除にあたってください。」


トキタが冷静に、尚且つ期待を込めて3人に話しかける。


「業務は早速、来週から始めてもらいますが、皆さんには何不自由ない専用の部屋を各自に与えます。暫くはそこで暮らす事になりますが、それ相応の報酬が与えられるので安心してください。そして、業務に入ってからは、何かしらの侵入があった場合はそれぞれのIDブレスによって通知がいくようになています。いつでも「虫」の侵入に備えて動けるようにしておいてください。」


業務内容を簡単に伝えた後、急に神妙な面持ちでトキタが続ける。


「また、NCCB内で行われる全ての事が当然ですが・・・守秘義務となっています。

無いとは思いますが何かしら政府に背く行為があれば粛清対象になる事をお忘れなく。その代わり、成功した暁には莫大なネットワークマネーを通常の給与とは別にボーナスとして与え、今後は政府下の仕事でもさらに重要な役職として招く事をお約束します・・・以上ですが、何か質問があれば・・・。」


3人はただただ静かにその話を聞いていたが「K」がふと、トキタに尋ねた。


「一つ聞きたいのですが・・・、私達が直接「排除」出来る権限を与えられたのだという事で良いんですよね?」


「そうです、今までは政府のNCCBの人間だけが行っていた業務をあなた達3人が一緒になって「虫」を「排除」する権限を持つ事になります。

「虫」という存在は我が国にとって、とても危険な存在なので躊躇する事なく排除してもらって構いません。

・・・結構「排除」した時の感覚は・・・言葉にならないくらい快感ですよ。」


と、トキタが表情一つ変えずに話す。


「楽しそう・・・。そんな感情は知らないので、ある意味興味がある・・・。」


と、「K」が答える。


「確かに、「排除」自体は外でも映像でもたまに見掛けるが、自分で行う「排除」ってどんな気分なのか・・・?まあ、その時になれば・・・。」


「C」がその状態を想像しているかのような姿で目を閉じる。


「どちらにしても自分の能力が優れているという事がこの試験を通して自分でも分かったので早く試したいですね。自分の実力を・・・。」 


「S」が淡々と語る。


「では、他に質問等無ければ本日はこれで終わりになります。来週またお会いしましょう・・・。まあ、簡単な「虫たたきゲーム」くらいの感覚でやって頂くくらいの方が楽しめますよ・・・。今日の話で分からない事があればいつでもご連絡下さい。」


最後にトキタが3人に伝える。


___それを聞いて一足先に棚橋が部屋を出る。


それにしても政府の難関テストをパスしたのがたったの3人とは。

思った以上に政府下で働く人間の能力は大したことがないんだと改めて感じた。

でもあの三人の能力を実際にこの目で見てみたいものだ。

特にあの「K」という女。

なんだか不思議な雰囲気の持ち主だったな。

これで「虫」退治がどこまで出来るのか・・・。


棚橋の中にはまだ確信が持てないものが微かに残った。




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