第12話 truth
政府の速報を見た後、すぐにRayから連絡が入り、私達は急遽会う事になった。
今回は私が場所を指定し、私にとって思い入れのあるビルの屋上で会う事に。
そのビルは今でも政府の監視電波が届かない特別な場所。
昔から何かある度に訪れては空を眺めて過ごしている。
先に屋上に着いた私は、いつものように屋上の縁(ヘリ)に立って空を眺める。
相変わらず空には沢山のドローンが飛んでいる。
これだけ多くのドローンが密集して飛び回っているのに、よくぶつからずにいられるものだと毎回感心する。
だけど「EP」越しから覗き見る空は本物の空を感じないんだよな。不思議なもんだ。こんなに目の前に空はあるのに・・・。
そしていつも空を見上げると決まって鳥探しを始める。
___やはり今日も本物の鳥を見る事は出来なそうだ・・・
そんな風に時間を埋めていると、背後から屋上の扉がゆっくりと開く音がして私は振り返った。
慌てて来たのか、少しだけRayのHGPはズレているように見える。
その滑稽な姿もやはりRayだ。
「あ、SORA、元気だったかな?」
「まあ、いつもと同じかな。」
「SORA、また会ってくれて・・ありがとう・・・。」
と、頼りない出で立ちのRay。
以前よりは、ぎこちなさが減ったが、やはりまだ直接人と対面して話すのは緊張する。
「この間の政府ニュース、見たよね。速報。Rayはどう感じた?」
自分から先に話し始める。
「うん、もちろん僕も見たけど・・・。僕からすると、政府はどんどんと国民を騙して、さらには国民の心を操ろうとしているのかな?と感じる。それにしても国民を政府側に引き込もうとするなんて・・・。でも、たまに思うんだ。普通に政府下で暮らしている人達にとっては、もしかしたら僕らの方が面倒くさい存在なのかもしれないのかなって・・・。」
「確かに、国民皆がどう思っているかなんて分からないけど・・・。
僕らの方が本当の意味での厄介者かもね。皆もしかしたら今が幸せなのかな?
波風立てないで過ごせるほうが良いのかな・・・。丸っきりそれすらも分からない時代だよね。これが普通だから…かな?でも、一部ではお金に目がくらんで必死に「特別害虫対策遂行チーム」に入ろうとする人もいるだろうし・・・でもどれくらい政府に認められる人材が見付かるんだろうか・・・。政府からしても数ではなく能力に長けている人物を探したいだろうし。いろいろ考えいてもたまに自分でも何が本当の幸せか分からなくなる時がある・・・。現実なのか夢なのか・・・。
あ、そうそう、Rayの話って何?」
「うん、えと、・・・実は、SORAさえよければ・・・、一緒に僕らの仲間にならないかな?と思って。」
と、下を向きながら話すRay。
「ついに僕にもその時が来たか・・・。」
「え?時って?」と聞き返すRay。
「・・・。勿論、僕でよければ仲間になるよ。実は僕もずっと前から仲間を探していたんだ。一人で政府に立ち向かうにはちょっと難しいかな?
というか、うん・・・「心細い」の方が正しい気持ちかも。
同じように思っている人達がいればこんなに心強い事はないから・・・。実際この前までは、僕自身も清掃業務をしながら同じ志を持つ人を探すのは難しいのかな?と、半分諦めていたんだ。そんな時にRayに出会って・・・。」
「え!本当に・・・ありがとう・・・良かった。」
さらに私は話を続けた。
「・・・ずっと、前から思っていたんだよね。いつか本で読んだ事があるんだけど、昔の日本みたいにこの時代を変えていきたい・・いや、元に戻したい、が正しいのかな?」
「昔・・読んだ本?…昔の日本??って?」
不思議そうにこちらを見るRay。
「うん、携帯とかも何もない時代なんだけど、なんだか笑顔でいる人達の写真とかも沢山載っていたり、空には沢山の鳥が飛んでいて、子供達も外で走り回って遊んでるような写真があったり・・・。そう、そう!でも一番驚いたのは、ドローンなんてまるっきり飛んでいないんだよ。不思議だよね。本当に今とは違うんだけど。それこそ、笑ったり、泣いたり、僕らはあまりその感情を知らないよね。でも、その本からは沢山の人達の表情が溢れていたんだ。そして綺麗な景色も。」
「そうなんだ、良いなあ、昔の本、SORAは見た事あるんだ!僕はそういう文献は今では規制されて何も見れなくなっているから知らないんだよね。噂程度でしか聞いた事がなくて。でも・・、なんでSORAは見た事あるの?というか見れたの?」
「うん、実はこの場所に関係しているんだよね。」
「この場所が?」
Rayはなぜ?という感じでキョトンとしている。
「ここは、父さんに連れて来られた最初の場所でもあり、そして父さんの最後の場所でもあるんだ。ある意味お墓みたいな・・・。」
「え?この場所?SORAのお父さんの・・・そうだったんだ。でもなんでこの場所は安全だと?」
「実は当時、父さんも反政府の人間だったんだ。それでいろいろと行動を起こしていたらしいんだけど。まだ僕は小さかったからあまりよくは分からないんだけど、日本が今のように「AI」に頼る時代に移り変わる時に、それに対して危機感を抱いて密かに動いていたみたい。その頃からマイクロチップは新法により皆の首に埋め込まれ始めたらしいけど、マイクロチップによる「排除」とかの技術や権力もその時にはまだ政府は手に入れてはいなかったみたいだね。」
「へー、そうだったんだ。」
Rayにとっては知らない事ばかりで新鮮な話だった。
「ただ、そんな時に父さんが最後にここに連れてきてくれたんだけど。それで昔の写真が写っている本を見せてもらったんだ。その時に父さんが話してくれた昔の日本の姿は・・・」
(ここにある写真全てが昔の日本だ。こんなに表情豊かな人達、そして素晴らしい景色と青い空、優雅に空を飛ぶ鳥、全てが素晴らしかった時代だ。それを政府は自分達の思うように変えていき、段々と心の通わない日本に変えようとしている。全てを統治する事で政府にとっての安全な国を創ろうとしているんだ。
ましてや今の時代、こんな本を持っていたら犯罪になる。だから今ここで最後にお前に見せようと思ったんだ。
そして、忘れるな。「この場所」は何かあったら永遠にお前の来れる場所だという事を。最後に俺がお前に残せるのはこの場所だけになってしまったけど。いつかお前が大きくなったらその写真の中にある日本に戻せたらいいよな。お前ならなんだか出来る気がする。綺麗な世界とみんなの自由を、お前が取り戻してくれ。)
「その時は僕もまだ小さかったからあまり意味が分からなかったけど。その後、父さんはその本を目の前で燃やしたんだ。何も残らない様に跡形もなく。
そして最後に・・・」
(いいか、お前はこの後ここからすぐに家に帰るんだ。そして何があっても振り返らずに家に走って戻れ。今からの日々は何事もなかったかのように過ごすんだ。
そして母さんの事も任せたぞ。万が一、何かあった時はこの場所に来ると良い。ここは政府からは通信が届かないように父さんが仕組んだ唯一の場所。まあ、政府はそんな事気にもしないだろうが。世の中のたった一か所が通信出来ない場所だとしても気付く事もないだろう。あと、今日話した事は全部父さんとお前・・・そう二人だけのヒミツだ。いいな、約束だぞ。)
と言いながら父さんは右手の人差し指を自分の口の前で立てながら僕の頭をポンと叩いた。
(うん、約束。二人だけのヒミツだね。父さん。)
「そう父さんは僕に言い残して・・・意味も分からないまま僕はビルから出て家に向かって走り始めた・・・その時、僕の後ろで大きな音がしたんだ。小さかった僕でも薄々は感じてたんだよね。その結末を。」
「え??まさか」
Rayが驚いたように小さく囁く。
「うん・・・父さんは飛び降りて自殺した。振り返っちゃいけないと思ったけど無理だったね。僕の後ろには動かなくなった父さんが倒れていたんだ。段々と父さんの体から出る血液が小さな波のように広がっていくのを今でも思い出す。多分、政府にとっては父さんは危険な事を目論んでいる要注意人物になっていたんだろうね。それで自分のやっている事が明るみに出ないように自ら死を選んだんだと思う。」
____
聞いているRayの表情はEP越しでも真剣だと伝わる。
「僕や母さんに迷惑を掛けないように死んだのかなって・・・。その後、政府の人間が家に来て色々聞いてきたけど、まだ小さかった僕が関係あるとは思ってもいないし、マイクロチップ技術もそこまで進んでいないから特に母さんと僕が疑われる事はなかったんだけど、しばらくして気付いたら母さんは僕の前から姿を消して、僕はRayと同じように養護施設に預けられたんだ。父さんの死後、母さんの顔は生気を失っていたからね・・・。だから僕も出身はRayと同じ養護施設出身。」
「そうだったんだ。でもこの場所って、SORAのお父さんが残してくれた最後の砦かもしれないね。だって今でも政府の監視外なんでしょ?お父さんの能力は当時でも凄かったんだね。その時代にそんな事が出来るなんて。」
「うん、家ではなんか色んな機械みたいなのを作っていたけどそれらも父さんが死ぬ前には家から全て無くなっていたから。それがどんな機械だったかも分からない・・・ただ僕が一つ言えるのは、僕の能力は父さんが僕に残してくれた唯一の武器なのかもしれない。」
「へー、そっかー。昔はドローンなんか飛んでいなくて空が遠くまで広がっていたんだ・・・。沢山鳥が飛んでいたのか・・・。なんだかこんな装備外して綺麗な空を直に見てみたいよね。澄み切った空か・・・・。聞いているだけでは想像も出来ないけど、その本、僕も見てみたかった。羨ましいな、SORAが。お父さんも優しい人だったんだろうな・・・。」
無邪気な感じで空を見上げるRayはやはり穏やかに見える。
「うん・・・だから、僕はどちらかというと・・・政府打倒という事よりもドローンをなくして青い空を取り戻したい…というか父さんとの約束を果たしたいのかな。最後に父さんが見せてくれた日本の本来の姿をもう一度・・。もしかしたら、それが父さんから僕への最後の願いなのかな?とか勝手に思っていたりして。」
私が話し終えると直ぐにRayが振り向き。
「うん、やろう、そうだよね、ただ、政府打倒じゃつまらないね。僕も・・・、そのSORAのお父さんが見ていた空を見てみたい。優雅に飛んでいる鳥も。この暑さで現実的じゃないかもしれないけど、なんだか僕も自分がやろうとしている事の意味がしっかりと見えてきた気がする。それ、本当に良いよね・・・。本来の姿の日本を取り戻すって。うん、うん、いいよ!SORA!」
「え?あ、ありがとう。」
と言った僕の言葉にRayがすかさず
「それ、僕の言葉だから・・・。」
「確かに・・。」
やはりRayといると少し元気が出てくる。本当に不思議だ。
「話は戻るんだけど、SORAが仲間になってくれるという事で、実は僕の仲間を紹介したいんだ。その子は本当に凄いんだよね。というかその子なしには目標は達成出来ないと思っている。ある意味ロボットのような子だけど。それぞれが得意な部分で知恵を合わせてやれたら本当に政府のネットワークを突破出来るかもしれないよ。」
「仲間か・・・。良いね。ぜひ紹介してくれるかな。少し未来に期待が持てるようになってきた・・・Rayと会えた事は運命かもしれないね。」
「それを言うなら、むしろ僕の方だよ。本当に出会えて良かった。ありがとう」
二人は同時に空を見上げ、ドローンが飛び交う景色をじっと眺めていた・・・。
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