第48話 身代わりの腕輪
「それが君の答えか」
僕の些細な動きから察したようだ。
言い終わるよりも早くセシリアは踏み込んできた。
僕は考えるよりも先に後ろに下がっていた。
まずはニアたちから離れる必要がある。
けどわざとらしくやると狙いを勘付かれるかもしれない。
逃げると見せかけて反撃。攻撃を受け止められたら回避して、再び攻撃する。
それを何度も繰り返しながら誘導する。
この時腕だけでなく腰も入れて攻撃する。倒すために攻撃していると思わせるために。もちろん攻撃が通ればいいけど、そんなに甘くない。
実際セシリアは涼しい顔で僕の攻撃をいなす。
それどころか……殺気を覚えて慌てて飛び退いた。
着地して大きく息を吐く。
「今の攻撃を躱すとは驚いた。ライルラスの冒険者ギルドでは鈍足のフローなんて呼ばれていると聞いたが、会ってからのこの短期間でかなりレベルが上がったようだな」
完全に読まれている。
僕が離れようと必死になっている間に、セシリアは僕を観察していたようだ。
けどお陰で距離を取ることに成功した。
【水晶の杖 1000P】
僕はポイントを消費して水晶の杖を呼び出した。
「む⁉」
それを見たセシリアは、攻撃の体勢に入っていたけど途中でそれを止めた。
右手に剣を、左手に杖を持つ僕に対して明らかに警戒している。
「
僕が魔法の言葉を唱えると、水晶の杖の先端から水球が放たれた。
水晶の杖は四属性の中では一番攻撃力が弱い。
ただしこの杖にしかない特性があった。
セシリアは冷静にその水球を躱した。
その時には僕は杖を腰に差し接近した。
不便だけど、レンタルで呼び出した武器はマジックリングに収納することが出来ないから仕方ない。
僕が踏み込んで剣を振り下ろしたら、セシリアは一歩だけ退いた。
最小限の動きの回避で、反撃をしようとしていることがセシリアの動きから分かる。
それは僕が大振りしたからでもあった。
このタイミング、僕の姿勢では明らかにセシリアの攻撃を受けることは出来ない。
だから僕は防御をしないで、次の攻撃に移る。
至近距離だからセシリアが眉を顰めたのが分かった。
「なっ!」
そしてセシリアの体がブレて僕への攻撃が外れた。背後からの攻撃を受けて。
攻撃したのは先程セシリアが躱した水球だ。
あれは一定時間経つと弾け飛んで小さな水球を撒き散らす。
小さくなった水球は致命傷を与えるほどの威力はないけど、体を吹き飛ばすだけの威力はある。
体勢の崩れたセシリアに、僕は下段から剣を振り上げた。
完璧なタイミングだ。
そう……間違いなく完璧なタイミングだった。
けどそれをセシリアは体を捻って躱した。
さらにその回転を利用して回し蹴りをしてきた。
その攻撃を僕はまともにうけて吹き飛ばされた。
地面にゴロゴロと転がり、勢いが止まったところで慌てて飛び起きた。
「今のは危なかった。直感が働かなかったらやられていたかもしれないな」
セシリアが自分のダメージを確認でもするように体を動かしている。
確かに小さくなった水球は威力がないけど、それでも不意をついた一撃だった。
多少のダメージが入っても良さそうなのに、セシリアの様子を見ると全くダメージを受けていないように見える。
この攻撃はある意味初見だからこそ効果のある不意打ちだ。
タネが分かってしまえば対処されてしまう。
なら第二案だ。
「水球弾!」
僕は水晶の杖を持って再度魔法を放った。
セシリアは水球を躱すと同時にそのまま接近してくる。
背後で水球が弾け飛んだけど、その攻撃はセシリアまで届かない。
明らかに魔法の届く範囲を把握している。たったの一回で完璧に。
僕はそれを見て一度ギュッと握った水晶の杖を放り投げて、両手で剣を握る。
セシリアの剣に合わせて僕も剣を振るう。
目と鼻の先で剣がぶつかり合い、金属音が響く。
速度では負けているけど力では互角だ。負けていない。
ゼロ距離から何度も打ち合う。
離れると速度で負けることが分かっているからだ。
僕は打ち合いながらある地点を目指す。
どうせなら出来るだけ接近して使いたい。
けど一つ懸念がある。
本当にセシリアに通用するのかと。
頭に浮かぶのは水球の不意打ちが効かなかったこと。
いや、弱気になっては駄目だ。
例え致命傷にならなくても、ダメージは与えられるはずだ。
僕はセシリアと戦いながら、レンタルを使って二つ目のアイテムを呼び出した。
【身代わりの腕輪 5500P】
これは一度だけだけど、装着した者をどんな攻撃からも守ってくれる腕輪だ。
効果時間は発動後五秒間。それが過ぎると腕輪は壊れる。
発動条件は他の多くの魔道具と同じように、キーとなる魔法の言葉を唱えること。高性能なものだと自動で発動するけど、弱い攻撃でも発動してしまうという欠点があったりする。
腕輪は僕の腕に装着される。服の下だからセシリアからは見えない。
僕は剣を打ちながら頭の中で時間を確認する。
そろそろ水晶の杖が消える。
その前に作戦を実行しないといけない。
チャンスは一度きり……入った!
「
と続けて叫んだ。
水晶の杖を投げた場所……右側で爆発が起こった。
散弾となって礫が飛び交う。
目の前のセシリアがそれに呑み込まれて吹き飛んだ。
僕はというと無傷だ。体を覆う薄いバリアが守ってくれる。
身代わりの腕輪が消えていくのが分かった。
それは一瞬のことで、すぐに静けさを取り戻した。
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