第46話 忘れ物
ニアたちを見送った僕は、その場でメリッサたちと別れると冒険者ギルドに向かった。
「フロー! もう大丈夫なのか?」
鍛練所に行くとネスたちと会った。
その中には例の新人の姿はなかった。
「ああ、あいつは出て行ったよ。どうも俺たちのやり方が気に入らなかったみたいだ」
ため息交じりにネスは言ったが、あまり残念がっているようには見えない。
話を聞けば無茶ばかりして、足を引っ張るは、仲間を危険にさらすはで大変だったみたいだ。
「ま、気長に気が合う奴を探すよ。フローが入ってくれれば一番だけどな」
なんて言ってきたけど、そこは断った。
その後はネスたちと一緒に鍛練所で体を動かした。
目覚めた日に比べるとだいぶ調子が戻ってきたことが分かる。
ネスたちも僕の動きには驚いていた。
レベルが上がったし、ネスたちと最後に鍛錬したのはかなり前だったからね。
これなら数日中には活動を再開してもいいかもしれない。
一人での活動になるけど、魔法のテントもあるしちょっと楽しみだ。
今は何もないけど、魔法のテントの中には家具を置くことが出来るみたいだから、それを揃えていくのもいいな。
「あ、お兄ちゃん!」
お昼の鐘の音を聞いて宿に戻ってくると、ジニーが慌てた様子で駆けてきた。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「お姉ちゃんたちの部屋を掃除していたら、こんなものがあって」
ジニーの差し出してきた物には見覚えがあった。
それはペンダント。確かハイルが持っていた物だ。
「どうしよう」
ジニーが不安そうに見上げてくる。
宿に忘れ物をする人は時々いる。そういう時は宿で保管しておくか、警備隊に預けて当人が引き取りにくるのを待つ。
ただニアたちはヴァルハイト公国に行くことが分かっていて、いつこちらに戻ってくるかも分からない。
その辺りは自己責任といえば自己責任なのだけど、僕はハイルがこれを大事そうにしていたのを覚えている。
もしかしたら気付いて途中で引き返してくる可能性もあるけど……。
僕は考える。
発ったのは今朝だ。
今追いかければ間に合うかもしれない。
「分かった。僕が届けてくるよ」
「お兄ちゃんが?」
「ああ。うん、たぶん大丈夫だよ」
僕が追い付けるかもと思ったのは、いくら軍用の馬が牽いているとはいえ、馬で追いかければ馬車相手なら十分追い付けると思ったからだ。
馬には久しく乗ってないけど、たぶん大丈夫なはず。
「ジニー、メリッサに伝えておいて。これを渡したら戻ってくるから」
僕はそう言い残し馬を借りるため商業ギルドに向かった。
問題は空いている馬がいるかどうかだけど、運良く借りることが出来た。保証金で結構な額が取られたのは痛いけど、これは馬を返した時に戻ってくるからね。
街を出ようとしたところで門番の人にも理由を告げて、恐る恐る馬に乗る。
……うん、大丈夫そうだ。
まずはゆっくり歩かせて癖を覚える。
それが終わってから徐々に速度を上げていく。
ただ予想に反して、その日のうちには追い付けなかった。
「今日は野宿か……」
マジックリングに保存食は入っているけど、それ程多くはない。五日分ぐらいかな?
明日追い付けなかったら、少し節約しないといけないかも。
これはここのところ依頼を受けていないのが影響している。
ある程度の期間保存は利くけど、僕のマジックリングだと長期間は無理だからね。どれぐらい持つのか昔実験して、見てはいけない物体を生み出して何日も夢に見た。悪夢として。
僕はその日は街道から少し離れた木の下に移動すると、魔法のテントをさっそく使った。
確か魔物を寄せ付けない効果の他にも、近付くと警鐘を鳴らしてくれるという話だ。
これはテント内にのみ音が響くという話だ。
こんなに早く出番があるなら、家具を用意しておけばよかった。
今日は仕方ないからシーツに包まって寝ることにした。
「あれは⁉」
翌日の昼過ぎ、ついにニアたちの馬車を発見した。
ここにくるまでの間、誰ともすれ違わなかった。
その理由はこの道を進んだ先が国境線になるため、こちら側へ行く人が少ないからだ。
しかし、馬車は街道の路肩に停まっているけど、何かあったのだろうか? 御者台や屋根の上にも誰もいないようだし。
僕は馬の速度を落として馬車に近付いた。
やはり誰もいない。
僕は馬から降りて周囲を見回した。
少なくとも視界内にはその姿を確認出来ない。
仕方なく地面を調べたけど、足跡を見つけることも出来なかった。
一番可能性のあるのは左手にある森だ。右手側は草原が広がるだけで視界を遮るものがないから、いればすぐ分かったはずだ。
なら森の方に行けばいいかというとそう単純でもない。
第一に本当に森の中にいるのかという疑問と、仮にいたとしても森の中を一人で探すのは難しいというものだ。
馬車の周囲には争った形跡はないし、一時的に何らかの事情で離れただけかもしれない。
僕は途方に暮れ、ニアのことを想った。
すると何となくニアのいる方向を感じた。
何故? と思い一つだけこの現象に思い当たりがあった。
「パーティー」
と呟くと、パーティーメンバーが表示された。
そうか。
ニアとまだパーティーを組んだままだったのか。
僕は意識を集中してニアの反応を探る。
間違いなく森の方からニアを感じる。
正確な位置は分からないけど、距離は結構離れている。反応はさらに街道から離れるように奥へと移動している、ような気がする。
僕は近くの木に馬を繋ぎ止めると、森の中に入った。
何が起こったか分からないけど、森の奥の方に移動しているということはただ事ではない気がする。
何かから逃げている?
そうなると馬車が無事なのは疑問に残るけど……。
それにセシリアたちがいてそのような状況になるのもちょっと想像出来ない。
「とにかく急ごう」
僕は迷ったけど、腰に差した剣をマジックリングに戻すと、移動優先で駆け出した。
出会い頭で敵から襲撃を受けた時は、レンタルで鉄の剣を呼び出せばいいと割り切って。
そもそも腰に差した剣を引き抜くよりも、その方が早く対処出来るからね。
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