第21話 レベル

「あっ」


 目を開けると、小さな声が聞こえた。

 ぼんやりしていた視界が徐々にはっきりしてくると、それがニアだと分かった。


「チェノスさんを呼んできますね」


 僕が上半身を起こすと、ニアは慌ただしく立ち上がって駆けていった。

 周囲を見回すとすっかり夜になっていた。

 焚火で暖を取っているのか、所々に火の灯りが見える。


「おう、フロー……調子は悪くなさそうだな?」


 チェノスの声に首を傾げていると、


「突然うなされ始めたんだぞ? ニアちゃんに感謝しな。起きてからは付きっ切りで看病してたんだからな」


 その言葉にニアは頬を染めて俯いてしまった。

 それを見たチェノスは苦笑していた。


「とりあえず飯を食ってまた休んでおけ」

「見張りは……」

「一番の大物を倒したんだ。今日ぐらいは許されるさ。ギーグが強いのは知っていたが、まさかあいつが負けるとは思っていなかったからな」


 チェノスの視線の先は暗闇で誰がいるか分からなかったけど、たぶん副隊長のことだろう。

 僕はニアから料理を受け取り、一緒に食べると再び休むことにした。

 横になると、闇夜に浮かぶ星が目の前に広がった。

 しばらく無言のまま眺めていたら、隣から寝息が聞こえてきた。

 チラリと視線だけで横を見ると、ニアが目を瞑っている。ゆっくり胸元が上下していた。

 僕は視線を空へと戻して、今日の出来事を振り返る。

 まず一番気になるのはレベルが上がったことだ。

 レンタルの取得ポイントが増えていたし、間違いなく盗賊を……人を殺したことで経験値を得たことになる。

 ただ人を殺してレベルが上がるなんて話は今まで聞いたことがない。

 広く知れ渡ったらよからぬ輩が人を殺すから秘密にしていたという可能性はあるけど、それなら世迷言の一つとして噂になっていてもおかしくない。

 あとこれは誰かに話していいことではないと思った。

 唯一相談出来そうなのは……ニアぐらいかな?

 帰ったらレベルが上がったかも聞いてみようと思う。

 たぶんだが、ニアもレベルが上がっている。

 それともう一つが先ほど見ていた夢?

 いや、あれは夢じゃないと思う。

 あれはたぶんギーグの記憶。

 それが、あれが本当のことなら大問題だ。

 ナーフの領主たちが私腹を肥やすために、ダンジョンを利用しているなんて正直信じられないけど……思い当たる節がある。

 それがダンジョンに送られる奴隷たちのことだ。

 毎回ダンジョンに連れて行かれて、生還する者は少ない。

 生贄として利用されているというなら、戻ってくる人が少ないのは頷ける。

 それに年々送られる奴隷の数も少なくなっていて、素材の収穫量も少なくなっているという話を聞いたことがある。

 あと、生還した奴隷たちのその後の話も一切聞いたことがない。

 だけど……確かなる証拠が……確認する方法はある、かもしれない。

 それはあれが本当にギーグの記憶かどうかを確かめることだ。

 まずは生き残りの盗賊から、その辺りの情報を警備隊の人が聞き出してくれるのを期待しよう。

 僕はそこまで考えて目を閉じようとして、あることを思い出した。

 ギーグを倒した時に頭に響いた音だ。

 あれは新しいアイテムが登録されたり、レンタルに変化があった時に鳴る音だ。

 けどギーグを倒して何の変化があったのかとレンタルを呼び出して……ある一点に、表示に変化があった。

 そこには【レンタルLv2】となっていた。

 レベル2?

 疑問に思った瞬間、頭の中に流れ込んできたのはレンタルの変更点だ。

 といっても大きく変わったのは二つ。一つが効果時間だ。

 今まではレンタルに呼び出したアイテムは五分経つと消えていたけど、その時間が長くなるようだった。

 それでさっき呼び出した鉄の剣は、いつもよりも長い時間消えなかったのか。どれぐらいの時間維持されるのかを確認する必要があるな。

 もう一つはポイントが足りなくても、代償を払うことでアイテムを呼び出すことが出来るというものだ。

 代償が何かは分かっていない。

 あとは……使用ポイントの三割引の権利?

 これは一回限りの特典みたいで、文字通り1000ポイントのアイテムを呼び出すのに、700ポイントで呼び出し可能になるみたいだ。

 便利そうではあるけど使いどころが難しいかも? 一回限りだしね。

 しかし……ギフトにレベルがあるなんて今まで聞いたことがない。

 上がってしまったものは仕方ないし、害があるわけではないし問題ない、か?

 そして今度こそボクは目を閉じ、眠りについた。




 最終的に僕たちが町まで戻ってきたのは、二日後の昼過ぎだった。

 ニアの乗っていた馬車とあの場で亡くなった人たちは、アイテム袋に回収されて持ち帰ることになった。

 もともと馬車は持ち帰る予定だったみたいで、そのためのアイテム袋を用意していたようだ。

 馬車が入るほどの収納空間を持つアイテム袋とか……一体いくらするんだろう。

 馬車はかなり価値のある物だったようで、だいたいの値段を聞いて驚いた。

 それはニアも同じだったようで、


「それは本当ですか?」


 と聞き返していた。

 一応調査が終わったら、ニアに……持ち主に返却してくれるということだった。

 僕たち二人は特に依頼を受けていなかったので、そのまま解散となった。

 盗賊を捕縛したことで、警備隊の人たちはこれから忙しくなるなと呟いていた。

 チェノスたちも、ギルドへ今回のことを報告しに寄るようだ。

 ただ後で僕も話は聞かれるかもと言っていた。


「何せギーグを倒した張本人だからな。あと、賞金も出ると思うからそれは楽しみにしてな」


 とチェノスから言われ、他の冒険者から羨ましそうな視線を向けられたけど、そのお金は装備品を新調して消えるかもしれない。

 特に剣は折れてしまったから、新しい物を買う必要がある。

せっかくだしちょっといい物を買おうかと思っている。


「あ、お母さん。お兄ちゃんとお姉ちゃんが帰って来たよ!」


 メリッサの宿に戻ってきたら、ジニーの元気な声が迎えてくれた。

 その声を聞くと、なんか帰ってきたなと思えてホッとする。


「フロー、それにニア、お帰りなさい。今日は疲れているだろうし、ゆっくり休んでくださいね」


 僕とニアは頷き、夕飯の時間がくるまで部屋で休憩することにした。

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