第19話 対ギーグ
自分で言うのもなんだけど、ギーグとの戦闘はいい勝負が出来ていた。
ギーグは教科書通りの太刀筋で戦ったと思ったら、地面を蹴り上げて石礫を飛ばすなど、正攻法とは程遠い戦い方もしてきた。
対応出来たのは、まだ家にいた頃に散々経験したからだ。主に正方向とは逆な卑怯な戦い方を。
だからといって、素直に感謝することは出来ない。
予想外の苦戦なのか、それとも副隊長たちと戦って疲労が溜まっていたのか、徐々にギーグの動きに変化が見え始めた。
最初に比べて動きが鈍くなってきた。
ここが攻め時?
僕はそう判断すると、今までよりも一歩懐近くに踏み込んだ。
その瞬間、背中に悪寒が走った。
前を見れば、ギーグの口の端が歪むのが見えた。
誘い込まれたと思ったけど体は止まらない。
それならば、と力の限り剣を振るった。ギーグの持つ斧目掛けて。
金属の衝突する音が鳴り響き、続いて手にあった重量感が消えた。
僕の目の前には、半ばで折れた剣があった。
「死ね!」
ギーグの声が耳に届いた。
僕は折れた剣を手放してレンタルでギーグの武器、悪鬼の斧を呼び出そうとして、
『レンタルが失敗しました』
という声が聞こえた。
レンタルのリストに素早く目を通したが、悪鬼の斧の文字は灰色になっていない。
……誰かが所持している状態ではレンタル出来ない?
そこまで考えて、僕は瞬時に鉄の剣を呼び出した。
マジックリングの中に予備の剣はあるけど、今この瞬間は速度が大事だから。
突然僕の手の中に新しい剣が現れたことで、ギーグは驚いたのか一瞬動きが鈍った。
僕はその隙に下段から上段に斬り上げると、
身を反らして最初の一撃をどうにか躱したギーグだったけど、踏み込んだことで今度は避けられないと判断したのか斧を盾にした。
斧に弾かれ攻撃は防がれたが、僕は再度剣を振り下ろす。
狙うのは手。悪鬼の斧を握っている右手だ。
途中で軌道を無理やり変えたため、腕が悲鳴を上げる。
けどそのお陰で剣先は右手を斬り裂き、ギーグは呻き声を上げて武器を落とした。
無手となったギーグに、止めの一撃を放ったけど、ギーグは体を捻って剣先をギリギリ躱すと、反撃の蹴りで応戦してきた。
僕は咄嗟に後ろに下がって体勢を整えて剣を構え直したら、ギーグの手には一振りの剣が握られていた。
その足元には盗賊の遺体が転がっていた。
どうやらその盗賊が使っていた剣のようだ。
一瞬目を離しただけなのに……やはり侮れない。
「まさかここまでやるとはな……」
ギーグの顔に先ほどまでの余裕は消え、険しさが増した。
空気が明らかに変わった。
正攻法では勝てない。そう思わせる迫力があった。
実際ギーグの構えから隙を見つけることが出来ない。
それにここにきて疲労も感じ始めた。
僕もギーグと戦う前に、多くの盗賊たちと戦ったから。
長期戦は不利だ。
なら……僕はチラリと地面に落ちた悪鬼の斧を見て戦略を組み立てる。
今なら手から離れているし大丈夫なはずだ。
心の中でカウントを数え初めてギーグに斬りかかる。
ただの鉄の剣だが、一つだけ量産型のものと違う点がある。
それは頑丈だという点だ。実際に僕が愛用していた剣は折れたのに、レンタルで呼び出した鉄の剣は悪鬼の斧とまともに打ち合ったのに刃こぼれ一つしていない。
そういえばこの鉄の剣。今までに一度も壊れたことがなかった。
一合二合と打ち合い、手に衝撃が伝わってくる。
その力強さに、歯を噛み締める。
今は耐える時だ。
剣を打ち合いながらもカウントは続ける。
そしてゼロになるタイミングで剣を力一杯振り下ろす。
ギーグも迎え撃つために剣を振り抜いた。
僕とギーグの中間地点で剣が……混じり合うことなく空を切った。正確にはギーグの剣が。
僕の手の中にあった鉄の剣は、時間制限により消えたからだ。
こうなることが分かっていた僕と違って、ギーグの体が流れた。
僕は今度こそレンタルで悪鬼の斧を呼び出した。
もしかしたらこのタイミングなら予備の剣でも止めを刺すことが出来たかもしれない。
けどこのチャンスを確実に生かすためにレンタルで悪鬼の斧を呼び出すことにした。
僕の手の中に悪鬼の斧が握られたことに、ギーグは大きく目を見開き、何が起こったのか分からないといった表情を浮かべた。
これも狙っていた。
驚きは時に体の動きを、思考を止めさせるから。
僕はギーグが状況を理解する間を与えず、そのまま斧を振り下ろした。
悪鬼の斧は切れ味が抜群で、ギーグが咄嗟に前に出した剣を破壊し、勢いそのままにギーグの体を斬り裂いた。
その瞬間、再び頭に音が鳴り響いた。
ギーグが断末魔を上げて倒れた瞬間。戦闘は終了した。
抵抗していた盗賊たちも、ギーグの死を見て投降し出した。
この戦いでは盗賊だけでなく、冒険者たちの中にも死傷者が出た。
仲間が死んだ者の中には盗賊を許すなという声も上がったけど、チェノスたちの説得によって怒りを収めた。
生き残りからは色々と聞かなければいけないことがある。
僕が斬った盗賊の中にも息がある者がいたから、彼らにも最低限の治療を施していた。
特に幹部たちは事情を知っているだろうからね。
またギーグとの戦いで倒れていた副隊長だったけど、一命は取り留めた。ギーグと戦っていた腕利きの冒険者は、残念ながら五人中三人が命を落とした。
僕はというと戦いが一段落した後、ニアの看病をしていた。
ニアは別に負傷したわけではなく、熱を出して倒れてしまったからだ。
盗賊に襲われた影響だろうと皆は言っていたけど、僕にはニアがこのようになった理由が何となく分かっていた。
「しかしフロー、よく倒せたな」
そこへ色々と指示を出していたチェノスが、様子を見にやってきた。
「運が良かったんだと思います。副隊長たちと戦って疲れていたようだったし、不意を突けたのも大きかったかな?」
「不意?」
あの戦いは警備隊の一部の人が見ていたようだけど、離れていたし、ギーグの体が陰になっていて詳しくは分からなかったみたいだ。
「……チェノスさんたちには僕のギフトが何かを詳しく話したことがなかったですよね? 僕のギフトは……まあ、鉄の剣を呼び出すことが出来るんです」
僕はそう言うと鉄の剣を呼び出した。待機時間が解除されていたから。
虚空から突然出現した鉄の剣に、チェノスは驚いていた。
「これのお陰で武器は壊されたけど、不意を突くことが出来たんですよ」
僕は悪鬼の斧をレンタルで呼び出したことは伏せて、鉄の剣でギーグを負傷させ、最後に悪鬼の斧を奪って倒したと伝えた。
その説明の最中、鉄の剣は僕の手の中から消えたため、
「色々条件があるのと、呼び出せる物が鉄の剣なので、使いどころが難しいんですけどね」
と苦笑してみせた。
ただ今回呼び出した鉄の剣は、いつもよりも長い時間消えなかった。
チェノスに今回話したのは、ギーグを倒せたのは運が良かったためというのを印象付けるためだ。
それと僕がレンタルのギフト、正確には鉄の剣を呼び出せることは、リュゲル王国の貴族界隈では有名な話だ。多くの人たちが知っている。
ヴァーハルト領の領民に至っては、僻地の村人以外は全員知っていると思う。
だから鉄の剣を呼び出せることに関しては、隠す必要がないと思っている。
もちろんわざわざ自分から話すようなことはしないけど。
チェノスもギフトの能力だと分かったから、わざわざ言いふらす様なことはしないだろう。
「そうか……とりあえず負傷者も多いし、今日はここでもう一泊する予定だ。一応無事な奴らの中で、何人かを街に走らせる予定だけどな。フローは大物と戦って疲れてるだろうし、まずはお前も一度休みな」
僕はその言葉に従い休むことにした。
ただ休む前に一度、右手の甲を確認した。
そこには13という数字が表示されていた。
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